純情回収ダンボール■アースダンボールメルマガVOL133■2022年4月号-2

『ちょ、ちょっとごめんなさい!』 私はこぼれそうな涙を必死にこらえて、 そう言って急に席を立って駆けだした。 その後の事はあまりよく覚えていない。 ただ覚えているのは積まれたダンボール箱が、 床にバラバラと落ちた乾いた音だけ。 あの日から、私の純情の隣りにはあの音が居る。 (´o`)п(´o`)п(´o`)п **************************** 『遥(はるか)先輩、私が半分持ちますよ!』 『あら瞳(ひとみ)ちゃん、ありがとう、助かるわ』 『いえいえ、どって事ないですよ』 『気のせいかしら、私がこうやって箱を沢山抱えてると  必ず瞳ちゃんが助けに来る気がするんだけど』 『え!?偶然ですよ、偶然・・・』 『そうかしら?この会社は広くて人も多いけど、  こうして瞳ちゃんに助けられた人の話、結構聞くわよ』 『いや、本当に偶然ですよ~』 『まあこっちは助かるし、あなたの評判もいいわよ』 『そう言って貰えると嬉しいです』 私は瞳(ひとみ)、23才、入社1年目の庶務課新人OL。 さしあたって何のとりえもない私だけど、 実は私には特殊なセンサーがある。それは・・・ 箱を沢山抱えている人を見つけてしまうセンサー。 ただ私の視界にそういう人が入るんじゃなくて、 そういう人が居る場所に私が動いてしまう。 そしていつも運ぶのを手伝う、手伝ってしまう。 このセンサー、一体なぜ? あの日の自分を消してしまいたいという願望か、 あの日、人に迷惑をかけてしまった贖罪意識か、 そう、事の始まりはあの日・・・ (´o`)п(´o`)п(´o`)п **************************** それは私が18歳、コンビニでバイトしていた頃の事。 バイト仲間で二つ年下の男の子、幸樹(こうき)君は、 私を『瞳先輩、瞳先輩!』と慕ってくれる子だった。 私もいつしか幸樹君を意識するようになっていた。 ある日、幸樹君から 『一緒に水族館に行ってくれませんか?』 と誘われた。お願いされた?っていう感じもした。 付き合ってる人も居ないし、私はOKした。 彼は『やったあ~!』と言って喜んでいた。 もしかしてこれってデート?デートのお誘い? そんな淡い妄想と少しの期待が頭をよぎった。 その日から私の中の彼が更に大きくなっていった。 当日は何を着て行こうかしら? 彼に合わせて少し可愛めのコーデかしら? それとも年上アピールのシックなコーデ? で、もしかして、当日は告白とか!? うわああああ~!! 私はメチャクチャはしゃいでいた。 今考えてもとても純粋で純情、だったな。 ___________ そして当日・・・ 水族館はとても賑わっていた。 そんな中、彼は常に私を気遣っくれていた。 『疲れてませんか?少し休憩しましょうか』とか、 『ここのクレープが美味しいみたいですよ』とか、 おそらく下調べもしてくれていたのだと思います、 年下とは思えないエスコートぶりを見せてくれた。 私は本当に楽しくて、気分も良くて、 案外、年下の彼もいいかも・・・ なんて思い始めていた。 そして夕方、私達は水族館併設のレストランへ入った。 夕日が差し込むとても雰囲気のいいレストランだった。 『素敵なレストランだね、よく席が空いてたね』 『実は前もって予約してたんす、、、』 これは・・・たぶん決定的!? 雰囲気もタイミングも、条件は揃った。 すると彼が『瞳先輩、実は・・・』と話し始めた。 (来る!?来るの!?ちょ、ちょっと待って!!) 私の頭の中は期待の頂点に達していた。 __________ 『瞳先輩、実は俺・・・』( v v) 『うん、なに?(遂に来る!?)』( ゚ロ゚) 『俺、ずっと好きだった女性(ひと)が居て』( v v) 『うん、うん、(誰?誰の事!?)』( ゚ロ゚) 『その人に告白しようと思って、  一生懸命考えたんす、今日の、このプラン』( v v) 『うん、うん、(いいプランだったわ!)』( ゚ロ゚) 『で、先輩に聞きたいことがあって』( v v) 『うん、うん、(彼氏は居ない!居ない!)』( ゚ロ゚) 『このプランで、ここで告白したら・・・』( v v) 『うん、うん、(告白したら?)』( ゚ロ゚) 『せ、成功すると思いますか!?』(//∀//) 『うん、するよ!絶対すると思う!』(」°ロ°)」 『っしゃああ~!!!瞳先輩の太鼓判ゲット~!  俺告白します!同じクラスの女の子に!』ヾ(´∀`) 『・・・え?・・・同じ、クラ・・・』(∵) その後の事はよく覚えていない。 辺りの音が全て聞えなくなって、 何度もガッツポーズしてる彼が目の前に居て、 ほんの十数秒、私の意識はどこかに行ってて、 意識が戻ったら目から涙が落ちる寸前だった。 『ちょ、ちょっとごめんなさい!』 私はこぼれ落ちそうな涙を必死にこらえ、 そう言って急に席を立って駆けだした。 人込みをかき分けて扉を開けて出ようとした瞬間、 "どん!!" と派手に人にぶつかり・・・ その人が持っていた数箱のダンボール箱が、 "ドカドカドカ~!!"と床に崩れ落ちた。 彼の言葉のショックと人にぶつかったショックと、 大きなな音と共に床に散らばった箱、箱、箱・・・ それを見た時、私の心の糸は "プツン" と切れた。 そして私は泣き出した。。 "私の純情を返せ" 声に出せない叫びを心で叫んで、 人目もはばからずにわんわん泣いた。 (´o`)п(´o`)п(´o`)п **************************** 今ではもういい思い出・・・ 何も知らずに一人で勝手に期待して舞い上がって。 でもあれは確かに私の純情だった。 そして"あの純情"は箱が崩れる乾いた音と共に砕け散った。 あれから男性にときめく時はいつもあの音が聞こえる。 もう数年経つけど、あの音はやっぱり少し切ない。 あの音を聞かずに済むなら、そうなりそうな人を助けたい。 そして私のセンサーは、今日も感度がいいらしい。 ただ、今日はいつもと何かが違う気がする・・・ 休憩時間に何気なく会社の廊下を歩いていると、 顔も隠れる程の箱の山を抱えた男性がよろけて歩いてきた。 私は、誰かもわからないその男性にそっと声をかけた。 『大変そうですね、手伝いましょうか?』(*゚ー゚) 『その声は、もしかして瞳さん?』(´ー`) 『え?私の事ご存知の方なんですか?』(*゚ー゚)? 『ええ、直接お話しした事はないですけど。  でも瞳さんとお話したいと思ってまして』(´ー`) 『私と?っていうか見えないのに私だってわかるの?』(*゚ー゚)? 『同僚に聞いたんですよ。瞳さんと話したいなら、  大量の箱を持って歩けば向こうから来るってね』(´ー`) 『あ~、なるほど、確かにあってるかも・・』(*゚ー゚) 『早速ですけど、箱の上半分を持ってくれますか?』(´ー`) 『ああ、はいはい、よいしょっと・・・』( ̄▽ ̄) 私が半分受け取ると、男性の顔がやっと見えた。 『あなたは同期の、入社式で一緒でしたよね』(*゚∀゚) 『三上(みかみ)です。やっと瞳さんと話せた。』(´∀`) 『ふふふ、なんか変なキッカケですね』(*゚∀゚) 『いやあ、僕的には作戦大成功です~!!』(´∀`) 私の心が "なんか素敵な男性(ひと)だな" とときめいた。 でも、あれ? 聞えなかったの、あの音が・・・ その日以来、私のセンサー感度は少しづつ鈍り始め、 そのうちセンサーは完全に機能しなくなった。 もうセンサーは不要になったって事? 彼に、三上さんに出会えたから? ううん、それは考える必要ないわね。 それより久しぶりに会えたわね、素顔のままの、私の純情。 ずっとあなたに会いたかったの。 FIN 98-2 (´o`)п(´o`)п(´o`)п ****************************     【編集後記】 もう一生誰かを好きになんかならない!! そんな恋愛経験は、やっぱり辛いですよね。 それでも人はまた誰かを好きになる。 それでも人はまた誰かと一緒に居たくなる。 誰も一人になんてなりたくない・・・ その時ダンボールに何ができるんだろうと、 思って今号を執筆致しました^^; 最後までお読み下さりありがとうございました。 m(__;)m 4月某日 ライティング兼編集長:メリーゴーランド

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