~生きてるだけで偉い~■アースダンボールメルマガVOL196■2024年12月号

「お姉ちゃんは生きてるだけで偉いよ」 妹はそう私に言った。 それは自分を信じさせてくれるに充分足りえる、 比類なき言葉だった。 自分の事ばかり考えていたら、 自分を愛してくれる人の気持ちさえ見えなくなる。 妹の言葉はそんな状態から私を解き放ってくれた。 (´o`)п(´o`*)п(´o`*)п **************************** 私は戸倉奈々江(とくらななえ)、大学4年生。季節は夏。 友達のほとんどは内定を貰って就活を終えていて、 大学最後の夏を謳歌していた。 でも仲間内で私一人がまだ一社の内定も貰えず、 未だに就職活動に奮闘する毎日だった。 思えば私のこれまでの人生は、 よく言えば無難にというか、のらりくらりというか、 大きな失敗もないけど大した成功も達成も無かった。 健康でいられたのはありがたかったけど、 精神的な成長が足りていないかもと、今頃になって思う。 だから今が成長する時!ここで頑張らなきゃ! そう思いながらも毎日頑張ってはいるけれど、 予想以上に私はヘタレだった。 3年生の春からもう何か月も同じことの繰り返し、 何社受けたもかわからない。 でも届くのは「今回はご縁が無かった、貴方の今後の活躍を…」ばかり。 辛い、苦しい、もう泣きたい、逃げたい、 自分だけがこの世界から取り残されてしまったような、 この頃はそんな感覚にさいなまれるようになった私は、 生まれて初めて妹に愚痴った。 (´o`)п(´o`*)п(´o`*)п **************************** 妹の奈々実(ななみ)は4つ年下の高校三年生。 受験生の妹にとってこの夏は勝負の夏。 志望大学合格に向けて頑張っていた。 そんな妹に私は愚痴った。 なんて下衆(ゲス)な奴なんだ、私は… 妹は私と全く似ていない。 何にでも真剣に取り組み、誠実で人望もある。 勉強もスポーツも万能、容姿もいいから当然モテる。 小さな頃は気が弱くて泣き虫でいじめられっ子で、 いつも私の後をくっついて離れなかったお姉ちゃん子だったのに、 いつ頃からだったか、急に私の後を追わなくなり、 子供ながらもどこか自立した女性へ成長していく妹の姿を、 私は隣でずっと眺めていた。 女性として、人間として追い抜かれる… そんな感覚もあっけど、妬みのような感情は全くなかった。 むしろお姉ちゃん子だった頃の妹がいつまでも私の中には居て、 私が守ってあげなきゃ、みたいな感覚もずっとあって、 だから妹に愚痴った事は今まで一度も無かった。 でも、今とっても大変な時期なはずの妹に、 大学受験より就職活動の方が重要で大変だと言わんばかりに、 メンタルどん底だった私はこのタイミングで妹に愚痴ってしまった。 「あ~しんどい、ぜんっっぜんうまく行かない。  私って一体何なのかしら?生きてる価値ある?」 「生きてる価値なんて大げさだな~お姉ちゃんは」 「だって、誰も私の価値を認めてくれないんだよ」 「お姉ちゃんの価値、か…居るよ、ちゃんと。認めてる人。」 「どこに~今すぐここに連れてきて~」 私がそう言うと妹は黙ってスッと立ち上がって部屋に戻り、 小さな古いダンボール箱を持って戻って来た。 「なにそのダンボール?何が入ってんの?」 「ほらみてみ、懐かしいでしょ」 「あ、あああ~!私が大事にしてたプリキュアのカード!  これはディズニーランドで買ったアリエルのお人形!  それから缶バッジとかアクスタとか、  全部めっちゃ大事にしてたものだ、懐かしい…」 「これ全部、お姉ちゃんが私にくれたんだよ」 「あげた?こんな大事な物をあげた…?あげ…、あっ!!」 「思い出した?」 私はあの日を思い出していた。 それは妹が小学校一年生の頃、いじめられて泣いて帰って来た日。 「その日はお姉ちゃんと一緒に帰れなくて私一人で帰って」 「あんたが毎日いじめられてること知ってたのに、  その日、私はどうしても友達と遊びたくてあんたを一人にしちゃって、  そのせいであんたがいじめられた、って思ってすごく後悔して、  "神様どうか、私の大事な物を全部妹にあげるから妹を元気にして"  って思ったんだよ。あの時のか…」 「そう。でね、あの時お母さんに話したらこのダンボール箱をくれて  "この箱に大事にしまいなさい。この箱と中身は必ず、   あなたの一生の宝物になってあなたを守るから"って」 「ふうん、お母さんそんな事言ってたのか…」 「その時にね、なんていうか、  私は大丈夫なんだって、漠然とだけど思ったんだよ。  お姉ちゃんがくれたものとお母さんがくれたダンボール箱、  まさに私の最強コラボアイテムになったんだよ。  これを想うだけで強くなれる気がしたし、自信みたいなものも感じたの」 私はふと思い出した。 そうだ、ちょうどその時くらいからだ、妹が私にくっついて来なくなったのは。 「だからね、お姉ちゃん、  今の私があるのはお姉ちゃんのおかげなのですよ( -`ω-)」 「…(;-ω-)」 「これでもお姉ちゃんの価値を認める人が居ないと言い張るかね?( -`ω-)」 「…(;-ω-)」 「だから私は断言しよう、お姉ちゃんは絶対に大丈夫!!( -`ω-)」 「…(;-ω-)」 「なんなら私が一生食わしてやる!( -`ω-)」 「…いやそれは遠慮しとく(´Д`;)…」 「ップ、あはは、なにそれ、えんりょすんなさ!ヾ(≧▽≦)ノ゙」 「いやいや、それには本当におよばんて!(ノ∀`*)ン」 (*´▽`)*´▽`)ノ 私達は久しぶりに二人で笑い転げた。 「あ~おかしい、泣きそう」 「だからね、おねえちゃん」 「うん」 「お姉ちゃんは生きてるだけで偉いよ」 「うん、ありがとう」 それから私は5社目の面接で内定を貰い、今もその会社で働いている。 一生妹に食べさせて貰うなんてマジでごめん被(こうむ)るからね。 そしてその3年後、妹の奈々実は大学在学中に学生結婚して今は休学中。 来年には子供が生まれる。私に甥っ子か姪っ子ができるのだ。 それからあのダンボール箱はというと、今も妹の部屋の押入れにある。 妹の子が少し大きくなった頃、妹はあのダンボール箱を押し入れから出して、 あの時の話をその子にしてあげるのだろうか。 それはいいけど叔母ちゃん、ちょっと恥ずかしいな。 FIN 98-2 (´o`)п(´o`*)п(´o`*)п ****************************      あ と が き 人は一人では生きられない。 だからいつでも誰かを想っていたいし、誰かに必要とされたい。 それに人生の大半を費やすのが人という生き物なのかもしれない。 だから自分が必要としている人や、自分を必要としてくれる人を、 大事に、心底大事にして生きるべきだと思う。 その人が近くに居るか遠くに居るか、 生きてるか亡くなってるかも関係ない。 それが自分とその人達がこの世に生きたという証になるのだから。 今号も最後までお読み下さりありがとうございました。 m(__;)m ライティング兼編集長:メリーゴーランド

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