私の青い手袋と彼の赤い手袋■アースダンボールメルマガVOL195■2024年11月号-2
上司に呼び出された。
ヤバイ、私なにかやらかした!?
そして数枚の用紙を私に手渡しながら上司はこう言った。
「お客様相談室から、君に渡してくれとさ」
「お客様相談…という事はクレームですよね」
「まあ読んでみな」
「わかりました、申し訳ありませんでした」
「なんでまだ読む前に謝るんだ?」
「だって、お客様相談室からと言えば相場は苦情と…」
「だからまあ読んでみなって」
(´o`)п(´o`*)п(´o`*)п
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私は上峰遥(うえみねはるか)18歳の女子大学生。
小さな雑貨通販店で梱包出荷のバイトを初めて1年が経つ。
お客様相談室に寄せられたメールをプリントアウトしたその用紙を、
私は憂鬱な気持ちで読み始めた。
件名は
「送り状を貼り間違えられた件につきまして」とあった。
やっぱりクレームかあ、はあ~ (o´д`o)=3
でも読まない訳にはいかないし、と意を決して読み始めた。
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突然のメールを失礼致します。
私の娘が御社商品を購入した際に、送り状の貼り間違えがあった件を、
一年以上経った本日、ご連絡させて頂く事をお許し下さい。
(一年以上前?このバイトを始めた新人の頃か、なんで今頃?)
私は読み進めた。
一年ほど前、18歳の娘が御社から赤い手袋を購入致しました。
娘は幼い頃からの持病で、学校に通えず家に居る事が多く、
実店舗での買い物も難しいので通販には大変お世話になっておりました。
あの時も赤い手袋が届くのを楽しみにしていました。
ところが届いた箱を開封すると、同じ型の青い手袋が入っており、
手袋と一緒に別のお客様の納品書が入っておりました。
普通、こういった時は販売店に連絡をするものですが、
世間知らずでいて好奇心旺盛な娘は、
送り状に記載されていた青い手袋を購入された方に電話をしてしまいました。
お名前を拝見する限り男性の方のようでしたが、
どうやら赤い手袋と娘の納品書が男性の方に届いていたようでした。
そこで、互いの荷物の送り状が貼り間違えられたと理解できました。
そして娘は電話を切ると笑顔でこう言いました。
「お母さん、お互いにこのまま使う事になったよ!」
何ともびっくり致しましたが結果オーライかと、御社には連絡致しませんでした。
そして娘は、その方と"電話友達"になってしまったのです。
子供の頃からコミュ力の高い子でしたが、この時ばかりは本当に驚きました。
娘と同じ18歳で、社会人で独身の方との事でした。
かなり遠方にお住いの方で、また娘の病気の状況もあり、
会う事はなく、もっぱら電話やSNSなどでのやり取りでした。
ただ今から思えばあの時の娘の行動は、
誰かと繋がっていたい、という強い想いの表れだったのかもしれません。
病気の為に、友達ともなかなか思うように遊ぶ事も出来ませんでしたし、
ましてや男の子と話す事は本当に少なかったと思います。
でもこのような突然の出会いではありましたが、
娘はこの方とのメールや電話が本当に楽しそうで、
それ以来、毎日笑顔を見せてくれるようになりました。
今日はこんな事を話した、こんな事があったんだって!と、
恥ずかしげもなく楽しそうに、私達家族にも話してくれるようになりました。
そしてあの時のダンボール箱も、捨てずに保管して時折眺めておりました。
その方がどのような想いで娘とやり取りして下さっていたかはわかりません。
ご迷惑ではないのかという思いもありましたが、
楽しそうな娘を見ていると、それを確かめる事もできませんでした。
そして親の目から見てもはっきりとわかりました。
娘はその方に恋をしているのだと。
親としては、その幸せな時間がいつまでも続いてほしい、
そう願うばかりでした。
しかしその数か月後、娘は容体が悪化して入院しました。
その時、その方は遠方から娘が入院している病院へ飛んで来て下さいました。
はからずしも、二人の最初の直接の出会いは、その時の病室でした。
「初めて会うのがこんな姿なんて、もうへこむ~」
と娘は落ち込みながらも精一杯の笑顔を見せていました。
その方も娘の手をしっかりと握って元気づけて下さり、
「また会おう、また必ず来るから、その時までに元気になって」
という約束をして帰って行きました。
あの人にまた会いたい、絶対会いたい!!
娘はそう自分に言い聞かせて必死に病気と闘いましたが、
その願いは叶いませんでした。
娘が亡くなり、私もしばらくは放心状態でしたが、
最近になってやっと心の整理がついてきて、
その方との出会いが娘にどれ程の幸せを下さったかと改めて思う事ができ、
その出会いを下さった御社にお礼を申し上げたく、筆を執らせて頂きました。
御社にとって、送り状の貼り間違えは決してあってはならない事とは存じますが、
そのおかげで娘の人生の最後の一年はとても幸せでした。
本当に、本当にありがとうございました。
御社の益々の発展を心よりお祈り申し上げます。
追伸
もし当時の梱包担当者さんがまだ御社に在籍されていても、
どうかその方を叱らないであげて下さい。
(´o`)п(´o`*)п(´o`*)п
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読み終えてからの記憶が少し曖昧で…
どうやらその場で泣き崩れてしばらく立ち上がれなかったらしい。
そして少し落ち着いた頃、上司がポンと私の肩を叩いた。
「で、どうだった?」
「私、わたし、あの…」
「今回はお客様に免じて送り状の貼り間違えは不問だ。
それに一年も前の君が新人だった頃、何なら俺の責任だ」
「はい、でも今後も、貼り違えには、充分、注意、します…」
「そうだな、そこは宜しくな。ただ…」
「…?」
「ただな、お客様から感謝の言葉を頂くのは素晴らしい事だ。
仕事で誰かを幸せにできたなんて最高だ。それは誇れ」
「はい!」
私は仕事場に戻った。
沢山のダンボール箱が出荷を待つ仕事場に。
私は送り状と納品書を、
丁寧に心を込めて確認して封をして、
丁寧に心を込めて送り状をダンボール箱に貼っていった。
FIN
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あ と が き
出荷というセクションを経験した方なら誰もが、
送状の貼り違えミスを見聞きしたご経験をお持ちでしょう。
それがもし当事者なら、やっぱり凹みますよね。
対処を誤り、更に悪い方に悪化させてしまったり、
またお客様に直接お詫びに伺うケースもあるでしょう。
ただ、ごくごく稀には違いありませんが、
ミスが幸福を呼んでしまうケースもあるにはあります。
ミスを知恵や力業でプラスに変換してしまうケースではなく、
完全に想定外にプラス、まさに奇跡みたいなケース。
でもこれは私の偏見かもしれませんが、
そんな奇跡を呼び込める人には、
やっぱりなにか共通点が有る様な、無い様な、有る様な…
そして完全な主観ですが、
そんな(都合のいい)事を考えない人にこそ、奇跡は似合う気がします。
あなたはどう思いますか?
今号も最後までお読み下さりありがとうございました。
m(__;)m
ライティング兼編集長:メリーゴーランド