あの日、僕が抵抗した理由■アースダンボールメルマガVOL200■2025年2月号

大人はずるい。 大人は卑怯だ。 悪い事をしても謝らない大人が居る。 人が見てない所で悪い事をする大人が居る。 なのに子供には悪い事をするなと言う。 だから悪い大人がいじめるあのダンボール箱が、 僕はいたたまれなくてしょうがなかった。 でも当時、小学校3年生だった僕のこの感情は、 あまりにも幼かった。 (´o`)п(´o`*)п(´o`*)п **************************** 僕は菱洋蒼馬(ひしようそうま)、24歳。 心理学を研究する大学院生で博士課程へ進むことも決まっている。 これから話す事はその研究とは全く関係が無い、事も無い。 ただ、「その研究を志したきっかけは?」と質問される度に、 僕はこの時の事を思い出すのです。 人の八つ当たりのはけ口は大抵、 自分より弱い者か、あるいは物理的に抵抗の小さいものだ。 つまりは殴っても蹴ってもこちらのダメージが無いか少ないもの。 例えばダンボール箱とか。 ダンボールは文句を言わない、怪我するリスクもほぼ無い、 それでいてある程度の物理的な反動や音が跳ね返る。 凹んだ姿も見ようによってはスッキリするんだろう。 八つ当たりしたい人間にとっては恰好のアイテムだ。 僕はそんな八つ当たりをする奴らが大嫌いだった。 僕は幼い頃から同世代の中では少し感受性が強かった。 小学校3年生の時の国語の授業で、 「ちいちゃんのかげおくり」を皆の前で朗読していた僕は、 急に泣き出してしまった事があった。 切なく苦しい、そして悲しい物語に感情移入してしまったのだ。 そんな小学生だった当時の僕の心を捕えて離さないモノがあった。 それが、家に置いてあった1箱のダンボール箱… 僕の小学生時代、両親は仲が悪かった。 酒、暴力、借金、浮気、世間でよく言うそれでは無かったし、 修羅場らしいものもほとんど無かったが、 何かにつけて毎日のように口喧嘩や言い合いを繰り返していた。 二人は感情の高ぶりが抑えられなくなると、 いつもそのダンボール箱に八つ当たりしていた。 "相手" にわざとその "音" を聞かせるかのように、 苛立ちが籠って乾いたその "音" が家の中にはいつも響き渡っていた。 僕はその "音" をいつも家の片隅で聞いていた。 少し大きめのダンボール箱で丈夫な箱だったせいか、 すぐさま潰れて使えなくなる程では無かったけどそれが逆に、 いつまでもいつまでも耐え忍んでいる感じがして、 僕はそれがいたたまれなくて、心が酷く傷んだ。 ダンボール、かわいそう、ダンボール、痛いかなあ… 夜、布団の中でその音を聞きながら、 耐えきれなくて涙が零れた時もあった。 その頃からだ、 自分より弱い者をいたぶったり反撃しないモノに攻撃を加えたり、 いつしか僕はそんな事を憎むようになった。 でもその時の僕には何もできなかったし、 何かをする方法すら考える事も出来なかった。 子供であった事をいい訳にはできないが、 そう、これは僕自身の問題で、あの時の僕が何もできなかったのは事実だ。 でもたとえ何もできなくても、 抑えきれない感情は必ず行き場所を求めて膨らみ続ける。 それが子供であろうが大人であろうが。 そして僕の感情は大人達へ向かった。 大人はずるい。 大人は卑怯だ。 悪い事をしても謝らない大人が居る。 人が見てない所で悪い事をする大人が居る。 なのに子供には悪い事をするなと言う。 小さな頭で必死に考えながら、小さな心で必死で想いながら、 僕は何の解決にもならない一つの方法を見つけた。 あの時は、それしか浮かばなかったんだ。それは、 悪い大人を後悔させてやる。 ある夜、いつものように両親が言い合いを始めると、 僕はそっと物音を立てずにあのダンボール箱の中身を出し、 自分が箱の中に入った。 膝を抱えて身を屈めると箱の中で少しゆとりができ、 万が一箱を蹴られても自分がダメージを負わないように、 僕はできるだけ箱の内壁から離れ、箱の中心で身をすぼめて息をひそめた。 ただ箱も少し歪んでいたせいか蓋が完全に閉まらず、 そのせいで逆に空気の出入りには問題が無かった。 こんな事が一体なんになる… 今考えると確かにそうだ。 ただあの時の僕には大人の常識や理屈じゃ図れない意志があった。 そしてそれは同時に、あまりにも無知で壊れやすい意志でもあった。 この箱を最初に叩くのは母さんか、父さんか。 その時に中の僕に気付くだろうか? 気付いたらその時どう思うんだろうか? 驚く顔が見たいなんて生易しいもんじゃない。 僕は、後悔に歪む顔ってどんな顔だろうと想像した。 すると二人のケンカが止み、一人が席を立った音がして、 その足音がこっちに向かって来た。 母さんだ… そしてその足音はダンボール箱の前でピタっと止まった。 僕は息をのんだ。心臓の鼓動が激しくなりすぎて苦しかった。 僕は苦しさが我慢できずに、 息を止めたまま蓋の隙間から箱の外を覗いてみた。 すると… 箱の中を覗く母さんと目が合った。 「あんたそんなとこで何やってんのよ」 「あ、えっと、別に…」 「バカな事やってないでさっさと出なさい、中身も戻してよね!」 母さんはそう言ってそそくさと立ち去った。 僕の "悪い大人を後悔させてやる" 作戦はあっけなく敵にバレ、 即時撤退を余儀なくされた。 __________ あの時、僕は本当にどうしたかったんだろう? 今でも時々、あの日の事を考える。 息子が入ってる箱を知らずに叩けば驚いて後悔しただろうか? 勿論、今ならそんな考えは起こさないが、 あの時はあの時で強い使命感を持っていたのだろう。 そう思って、僕はあの時の自分を受け入れてあげている。 ただ、あの後一つだけ変わった事もあった。 当初の作戦は失敗に終わったが、あれ以来、 家でダンボール箱に八つ当たりする音が、 聞かれることは無くなった事だ。 だからあの抵抗には何か意味があったのかもしれない。 それを科学的に解き明かす事はできるだろうか? FIN 98-2 (´o`)п(´o`*)п(´o`*)п ****************************      あ と が き 小学校3年生くらいの時、 親に強い怒りと嫌悪感を持った事がありました。 理由は覚えていませんが抱いた感情は覚えています。 それから高校2年生の時に、 やはり親に怒りと嫌悪感を持ち、家出をした事もありました。 ただこの時は、自分の力の無さを実感したし、親への謝罪もできた。 そんな経験があったからかどうかはわかりませんが、 自分の子供がどれだけ自分への怒りをあらわにしても、 これだけは言わない事にしています。 「もう勝手にしろ、嫌なら出ていけ」 親兄弟、家族、友人でも会社の仲間でも、相手が誰だろうと、 言っちゃいけない一言ってものがある。 一時の感情の、そのたった一言で、 切っちゃいけない縁がある。 あります、よね? 今号も最後までお読み下さりありがとうございました。 m(__;)m ライティング兼編集長:メリーゴーランド

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