忘れたい、忘れたい、忘れたくない■アースダンボールメルマガVOL201■2025年2月号-2

初めて彼女に会った時、体中に電撃が走った。 そんな話を聞く度に「なにバカな事を…」 そう思っていたから余計にわかる。 今までそれを"バカな事"と思って来たのは、 この瞬間を見逃さない為だったんだ。 そのくらい一瞬で、僕は彼女に堕ちた。 それは彼女も同じだった。 「運命の出会いってあるんだね」 二人でそう言って笑い合ったのに… (´o`)п(´o`*)п(´o`*)п **************************** 出会った時、僕は社会人3年目の会社員、 彼女は大学卒業を間近に控えた4年生だった。 僕達は出会ってすぐに結婚の約束をした。 互いのこれまでの人生すらほとんど知らなかったが、 それすら知る必要が無かった。 たとえ互いが何者でも、どんな人生を歩んで来たとしても、 出会ってしまった二人にはどうでもいい事だった。 もう何年も前から、生まれる前から、 いや前世、更にその前の前世、もっとずっと昔から、 出会えるこの瞬間を待ち望んでいたかのかもしれない。 出会ってからの一か月間は本当に夢のようだった。 もしかして本当に夢だったのかと、今でもふと思う。 ただ僕は彼女との出会いから一か月後に、 海外出張でドイツへの赴任が決まっていた。期間は半年。 「半年なんてあっという間だよ、戻ったら結婚しよう」 「うん、待ってるね」 僕達は若かった、舞い上がってもいた。 互いが何者なのかを本当に忘れてしまっていた。 __________ 今の時代、ドイツと日本なんて近い。 半年だって、心と心で繋がっている僕達には何でもない時間だ。 僕達は毎日電話やSNSで想いを伝えあった。 ただ出張最後の一ヶ月は何故か互いのタイミングが合わなかった。 そして帰国後、僕は降り立った空港からすぐに彼女に電話を入れた。 やはりスマホは呼び出し音だけで出ない。 彼女の自宅に電話をすると、お手伝いさんと思(おぼ)しき女性が出た。 「お嬢様はお出かけになっております」 僕はその足で彼女の自宅に向かった。 大きな屋敷の門の前に一人の女性が立っていた。 「すみません、美里香(みりか)さん、美里香さんはいらっしゃいますか?」 「どちら様かしら?美里香に何のご用?」 「僕は九十九(つくも)といいます」 「ああ、あなたが…娘からお話は聞いております」 「それで、美里香さんは…」 「美里香は、もう貴方とはお会いできません、お帰り下さい」 「な、いきなり…どういう事ですか」 「娘はもうすぐ結婚する身です」 「け、けっこん…」 その後の事は、よく覚えていない。 本当に体から魂が抜け落ちてしまっていたのかもしれない。 そうか、美里香はお嬢様で、俺と会う前から婚約者も居て… じゃあなんで、なんで俺なんかとあんな約束を!! _________ 僕は初めて「人を忘れたい」という想いに駆られた。 衝動的とも言える感情だった。 仕事に打ち込んで、死ぬほど打ち込んで、気を失う程打ち込んで、 彼女を忘れようとした。 半分正気を失っていた俺は以前から誘いがあった ヘッドハンティングでライバル会社に転職し、 スマホの番号も変え、住む場所も変え、 まるで彼女と関わった自分さえも変えてしまおうとするかのように、 彼女を忘れる為だけに生きた。 そしてオランダ赴任のチャンスを得た俺は迷わず辞令を拝命した。 この日本から、彼女の想い出がある日本から逃げてしまいたかった。 _________ それから更に数年が経った。 仕事も順調で、生活もすっかりオランダに馴染んでいた。 美里香を完全に忘れてしまう事などできないとわかってはいたけど、 過去の傷として受け入れる事が少しづつでき始めていた。 本当に時々だけど、美里香を思い出さない日もあった。 でもそんな頃だった… 街中で段ボール箱を運ぶ宅配ドライバーをふと目にした時だった。 「そう言えばあの荷物!!あのダンボール箱はどうした!?」 前にドイツ赴任から帰国する直前に、 美里香への土産に、美里香の住所宛てに送った荷物があった。 あの帰国当日のショックで今まで閉じ込められていた記憶が、 突然フラッシュバックした。 あの当時、運送会社からは何の連絡も無かった。 という事は荷物は届いた、誰かが受け取ったんだ… いや、そんな事を今考えてもしょうがない。 どうせお手伝いさんが受領して、大方それを母親に渡して、 美里香に渡さずに廃棄とか、そんな感じなんだろうな。 僕は冷静を装い、思考を収めようとした。 でも、その時は既に手遅れだった。 大きな失恋を過去の経験としてちゃんと昇華させるには、 締めの段階、最後の最後、仕上げのフェーズが一番重要なのかもしれない。 もう大丈夫かな、もう平気かな、そう思い始めた頃だ。 この時に、例えどれだけ微細な反発エネルギーでもそれが顔を出せば、 そのエネルギーは一瞬で巨大化し、制御ができなくなる。 せっかく、せっかくここまで来たのに、 なんで、なんで今、俺を美里香に引き戻そうとするんだ!! 俺の心は再び美里香へ想いで溢れ出した。 また、またあの切なさと苦しさの中で生きるのか… 頭の中に蘇る絶望の日々を思い出しながら、 僕はもう一度、でも作為的に、どうにか平静を装った。 わかった、わかったよ、おれの運命とやら、 きっと俺に必要な事なんだろ、なあそうなんだろ。 こっちは一度経験してるんだ、 今回は1/1000、いや1/100くらいは有利だ、楽勝だぜ。 でもその前に一度だけ、一度だけ許してくれや… 俺は初めて、美里香のフルネームで検索をかけた。 鷲尾美里香 関連するヒットはいくつかあったが、 直接本人にあたるヒットは見当たらなかった。 だよな、有るはずない… 次のページを表示させ、さっと見て画面を閉じようとしたその時、 ふと画面の隅の方に、見覚えのある文字が目に入った。 九十九? つくも?…俺の苗字?… そしてその後に続く文字は 九十九美里香 つくも、みりか…つくもみりか… 俺の苗字で名前が美里香…これは…? 俺はそのリンクをクリックした。 それは、たった1投稿しかないひっそりとしたブログ。 訪問者も居ない、誰も見る事の無いブログだ。 その1つだけの投稿には1箱のダンボール箱とその中身を広げた写真が一枚。 このダンボール箱、美里香に送った、あの箱だ… 写真の下には短い言葉でこう書かれていた。  "私は今も貴方を待っています。  家族には勘当されてしまったけど、頑張って生きてます。  貴方にまた会えると信じて、頑張って生きています。  このページがいつの日か貴方に届きますように。" 紛れもない、それは確かに美里香が僕に残したメッセージだった。 (´o`)п(´o`*)п(´o`*)п **************************** それから5年の月日が流れた。 今はスウェーデンで暮らしている。 そして僕の隣には、美里香が居る。 九十九美里香だ。 笑顔の、九十九美里香だ。 来年には家族も増える。 ただ、今も時々考える。 オランダの暮らしの中で美里香が過去の人になりかけたあの時、 なぜ俺は宅配ドライバーが運ぶダンボール箱を見たのだろう? 偶然だろうか? 誰かの、何かの意図だろうか? 神様か、他の大いなる何かか、或いは自分自身の中の何かか? まさかあのダンボール箱自身がか? さすがにそれは無いだろうが、そう思いたくもなる。 だってダンボール箱なんてしょっちゅう目にしていたはずなのに、 フラッシュバックが起きたのはあの時だけだったのだから。 答えは何一つわからない。 でもあの日、突然の別れのあの日から起きた全てに導かれたように、 今日を生きている気がする。 「なあ美里香、子供が生まれたらさ、  美里香の両親に会いに、日本に行こうよ」 「うん、喜んでくれるかな、お父さんとお母さん」 「わからない、でも行くべきだと思う」 FIN 98-2 (´o`)п(´o`*)п(´o`*)п ****************************      あ と が き 過去の出来事を突然思い出すとか、 ふと何かが頭に浮かぶとか、 自分で思うより実は頻繁に起こっているのかもしれません。 ただ、そのほとんどに気付く事が出来ない、 或いは気付いてもさほど重要ではないと切り捨ている、 そんなものなのかもしれません。 でも逆に、その全てに気付いてしまったらそれはそれで大変そう。 私達の頭の中は日々そんな調整をしてくれている気がします。 で、 「どうやったらその中の大切なモノだけを効率的に掬いあげられるだろうか?」 と思う自分に気づいた時に、 「いやいやそんな事考える前にもっと自分を信じてやれよ」 と思う自分にも同時に気付きました。 今号も最後までお読み下さりありがとうございました。 m(__;)m 2月某日 ライティング兼編集長:メリーゴーランド

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