幸せの落とし穴に落ちてみたら■アースダンボールメルマガVOL198■2025年1月号
そのたった一言で、
私の自尊心と誇りはポロポロと崩れ始め
やがて轟音と共に一気に崩れ落ち、
そのがれきの中で私は泣いた。
子供達を誰よりも愛してるという事が、
私の唯一の自信であり誇りだったのに、
息子にとってそれは無意味なのだと、
私は初めて知った。
(´o`)п(´o`*)п(´o`*)п
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私は潮見流奈(しおみるな)27歳のトラックドライバー。
そして二人の兄妹のシングルマザー。
19で息子を授かり、22で娘を授かり、25で離婚。
私は誓ったんです。
この子達を必ず守る、必ず立派に育て上げると。
以来、毎日を必死に、でも楽しく生きている。
辛い事も沢山ある。でも前だけを見て生きている。
そんな私の宝物は勿論、二人の子供達。
この子達を守る為ならなんだって出来る。
何も怖くなんかありません。
私はこの子達を誰よりも愛してる、その気持ちは誰にも負けない。
それが私の唯一の自信であり誇りで、
その気持ちが私の支え。
でも私にはもう一つ大きな支えがあった。
それが親友の結子(ゆうこ)の存在。
結子は職場の同僚、私と同じシングルマザーでトラックドライバー。
結子の子供二人、お兄ちゃんと妹も私の子供とそれぞれ同い年だ。
境遇が似ていた事もあり、私達は初めて出会った日から意気投合した。
結子の存在無しでは、私はこんなに頑張れていなかったかもしれない。
結子の存在が、私の人生を何倍にも豊かなものにしてくれている。
私の唯一無二の親友。
なのに…
それは、結子の家に遊びに行っていた娘が帰って来た時だった。
その日、うちの子供達は二人とも結子の家に遊びに行っていた。
そして先に帰ってきた娘が唐突にこう言った。
「あのね、お兄ちゃんがね、裕也くん(結子の長男)にね、
"お前んちの母ちゃんが俺んちの母ちゃんだったらいいのに"
って言ってたんだよ」
聞いた瞬間、娘が何を言っているのか理解できなかった。
ちがう、理解しようとしなかった。理解したくないと思った。
「お前んちの母ちゃんが俺の母ちゃんだったらいいのに」
頭が真っ白になった。
えっと、私、じゃない方が、いいの?
あ~そっか、私がお母さんじゃダメだったのか…
そのたった一言で、
私の自尊心と誇りはポロポロと崩れ始め
やがて轟音と共に一気に崩れ落ち、
そのがれきの中で私は泣いた。
子供達を誰よりも愛してるという事が、
私の唯一の自信であり誇りだったのに、
息子にとってそれは無意味なのだと、
私は初めて知った。
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それからというもの、私の動揺は周りに伝わった。
子供達にも、親友の結子にも。
子供達には態度を誤魔化し、本心で話すことが出来なくなった。
結子にはすぐに "何かあった?" と感づかれて心配された。
結子の目を見れなくなり、顔を見れなくなり、面と向かえなくなり…
そんな状況なのに、結子は私を飲みに誘ってくれた。
私は断ったが、半ば強引に結子に手を引っ張られて連れ出された。
「さあ流奈(るな)、洗いざらい話せ!話すまで今日は返さん!」
「話すことなんか、ない、」
「まだ言うかこのアンポンタン!!」
「あ、アンポっ!!…でも、そうね、アンポンタンだわ…」
私は結子に洗いざらい、感情の隅から隅まで話した。
なんだかんだ言っても、私には結子しか居なかった。
「はあ、そういう事か、良かった、大したことなくて」
「大したことない!?私にとっては命より大事な!!…」
「はいはいわかった、わかったから落ち着きなさい」
「どうやって落ち着けってのよ!!」
「まあ聞きなさいって、流奈、」
私はムスッとしたまま結子を睨んだ。
「流奈、あんたさ、例えば宅配とかでさ、
ちょっと大きいダンボールとか届いたらどうしてる?」
「どうって、運ぶけど」
「誰が?」
「誰って、私がよ」
「その時に息子ちゃんは?」
「息子?うちの子は人より体がうんと小さいし"危ないからどいてな"って」
「…そうよね、それよ、それなのよ」
「それって何よ!?」
「うちはね、息子に持ってもらう時もあるわよ」
「だって結子んちの裕也くんは体も周りの子よりぜんぜん大きいし、
そもそも結子がちっちゃ過ぎるのよ、大人とは言えさ」
「そう、流奈、あんたは女だけど男勝りの体格で力仕事も得意、
片や私は普通の女性よりもチビで力仕事は不得意で苦手。
でもって逆に流奈んちの息子ちゃんはちっちゃい、うちの子は大きい」
「それが、なに?」
「わかんないかな、男の子にはね、だからこその感情があるのよ」
「男の子の感情?」
「そう、いっぱしの男の感情よ、大事な人を守りたいって感情」
「大事な人…守る…って、まさか、」
「そう、そのまさか。流奈、あんたの息子ちゃんはね、
そのダンボール箱を持たせて欲しいんよ、
あんたの手伝いをしたいんよ、
あんたを守りたいんよ」
「…」
「うちの子がダンボール箱運んでるの見て言ったんだよ。
"うちの母ちゃんは俺に全然運ばせてくれねえ、
俺だって母ちゃんを手伝いたいのに、
俺ちっちゃいけどそんなに頼りねえかな、
お前んちの母ちゃんが俺んちの母ちゃんだったらいいのに" って」。
「それって…」
「うん、あんたの力になりたいって事よ。
まあセリフは部分的に娘ちゃんに切り取られちゃったみたいだけど」
「…」
「まあそれと、"俺も裕也と同じくらい体がデカけりゃよかった"
って言おうとしたのかもしれないけど、意味はほぼ同義ね」
「うちの子が、そんなことを…」
「ばっかだね~あんた!!
あんたの息子ちゃんがあんたを見限る事言うわけないじゃん!」
「だって、だって私…」
「自分達の為にこんなに頑張ってくれてる母親なのに、
"他の人が母親がいい"、なんて言うわけないわ!!
今回は息子ちゃんを信じなかったあんたが悪い」
「だって、だって、だって~」
「うんうん、恋は盲目、親の愛も盲目だわね。
今日はさ、帰ったら息子ちゃん、ぎゅって抱きしめてやんな。
嫌がるかもだけどさ」
「うん、いやがりそ…でも今日は羽交(はが)い絞めだ!」
「おう、やれやれ!やってやれ!」
「それから、今度は持ってもらうよ、ちょっと大きい荷物も」
「うん、持ってもらいな、息子ちゃんに」
「結子、ありがとう、本当に」
「親友だろ、当然だ。
さ、飲むか!明日はお互い休みだ、めいっぱい飲むぞ!」
「あんまりお酒臭いとギュッとしたらホントに嫌がられる~」
FIN
(´o`)п(´o`*)п(´o`*)п
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あ と が き
人はその人生の中で、
誰かを守ったり誰かに守られたりする生き物です。
それでも長い歴史の中では、
守りたいモノや人を守り切れなかったり、
守ってもらいたい時に守ってもらえなったり、
そんな経験も山ほど積み重ねてそれをDNAに刻み続けて、
それでもやっぱり、いや、守れなかった経験そのものが、
今度こそ守りたいという想いとして積み重なって、
今の貴方の、大切な人を守りたいという気持ちを
支えているのかもしれません。
貴方は何を守りますか?
それを、守り切ってやろうぜ!
今号も最後までお読み下さりありがとうございました。
m(__;)m
ライティング兼編集長:メリーゴーランド
