助手席の彼女を僕はわかってない■アースダンボール メルマガVOL80■2020年2月号
世の中答えがわからないことだらけだ。
同時に答えがわからない方がいいこともある。
僕にもある。
例えば、あのダンボール箱をなんで今頃?・・・とか。
その答え、やっぱり聞かなくて良かったと思うんだ。
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僕と彼女は高校の同級生。
彼女と言っても付き合ってたとか恋人とかじゃなくて、そう、友達。
彼女とは初対面から妙に気があった。というか、あい過ぎてた。
男女の友情は成り立つか論争なんて全く無意味なほど自然体だった。
好きだったのか?と聞かれたら・・・
好きだったと言えば好きだった。
高校を卒業し、僕と彼女は別々の大学に進学したが、
疎遠にはならなずに"付き合い"は続いていた。
僕は大学入学前の春休みには運転免許もとり、
入学する頃にはオンボロだけど中古車も買った。
そんな僕のカーライフにも彼女は "普通に入って" 来た。
女友達とドライブと言えば聞こえはいいけど、
僕の車は段々と彼女仕様になっていった・・・
まあ、僕には(正式な)彼女が居なかったからいいんだけど。
社内の香水は、彼女が選んだ彼女お気に入りの柑橘系、
BGMは彼女お気に入りのEXILE。いっつもEXILE。
ダッシュボードには彼女お気に入りのキャラ人形、
遂には彼女専用のひざ掛け毛布まで常設、置きっぱなし。
これで恋人同士じゃないって、誰も信じないかもしれない。
突然、
『ねえ、学校終わった?海行きたい~、行こう~よ~』と言ったり、
いきなり夜中に、
『ねえ~終電逃したあ~。迎えに来て~』と言ったり、
かと言えば、時々お弁当らしきものを作ってきてくれたり、
ちょっとした洋服をプレゼントしてくれたり、
『ガソリン代は出すからね』としょっちゅう言ったり、
でも、僕はそんな関係が嫌いじゃなかった。
むしろ結構心地良かったし、楽しかった。
ただ自分の中に"その先へ"という気持ちが有ったのか無かったのか。
彼女の事は好きだけど、どう好きなのか?はっきりとわからなかった。
だからお化け屋敷で手は繋いでも、キスの一つも無かった・・・・
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なんなある日、僕は彼女の好きなキャラクターの小さなぬいぐるみを見つけ、
何の記念でもないちょっとしたプレゼント程度のつもりで買った。
そしてそれをいつでも渡せるように、でもパッと見わからないように、
小さな段ボール箱に入れて車の後部座席にぽんと置いた。
彼女が段ボール箱の存在に『なにこれ?』と気付いた時に、
『開けてみな』的な演出で渡そうか、なんて軽い妄想をしていた。
その日以降も、彼女はいつものように何度も助手席に居た。
でも、彼女は一向に段ボール箱に気づかなかった・・・
確実に視界には入っているはずなのに。
わざとか? あるいは本当に興味無いのか?
僕は自分から言うことも車から降ろしてしまうこともできず、
その段ボール箱はずっと後部座席に置かれたままだった。
ちっちゃい箱だからいいんだけど。
そのまま時は流れ、二人とも大学卒業、そして就職。
互いの職場はかなり遠方になり、スケジュールも合わせにくくなり、
"付き合い"はメールやラインだけになり、
彼女が助手席に乗ることもすっかりなくなった。
そして徐々にメールもラインも減り、数年が経ち、
二人とも別々の人と結婚した。
そして車の買い替えと同時に、あの段ボール箱は押入れの奥に移動した。
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数年後、高校の同窓会の案内が来た。
同じタイミングで、彼女からもラインが来た。
『ねえ、同窓会行く?』
『ああ、行くよ』
『じゃあさ、車で送ってくれない?一緒に行こうよ』
『あ、ああ、いいよ、別に、うん、いいよ』
(ま、送るくらいならいっか・・・)
ふと、あの頃の彼女との思い出がよみがえってきた。
同時に、あの段ボール箱を思い出した。
そしてあのダンボール箱を後部座席に置いてみようと思った。
気づかなくてもいいような、気づいて欲しいような・・・
僕はなんでこんなこと思ったんだろう?
そして同窓会当日、僕は車で彼女を迎えに行った。
『ありがとう、宜しくお願いしま~す』
あの頃には無かった少し他人行儀な言葉と一緒に彼女は助手席に座った。
『なんか懐かしいね、この感じ。香水の香りも前とおんなじ』
彼女はそう言って微笑んだ。
道中、僕たちは懐かしい話で盛り上がりあがった。
そして同窓会も終わり、帰りも彼女を送ることになった。
彼女の家の前で車を降りる時、ふと彼女はこう言った。
『ねえ、その後ろの箱、貰ってもいい? もし要らない箱なら』
半分そのつもりだったのに、少し突然な申し出に感じた。
でもその言葉は、あの頃の無邪気に突然わがままを言う彼女のそれだった。
『え、こ、これ? ああ、まあ、いいよ。こんなんで良ければ』
『やったあ~!!ありがと!!』
彼女はそう言って箱を抱えて車を降りた。
『あれ、なんか入ってる?なんだろ?』そう言って彼女は蓋を開けようとした。
『ああ、いいの。中身も一緒にあげる。俺よりお前が持ってた方がいいものだし。
元々はこの箱・・・いや、何でもない・・・
ねえ、それよりこの箱さ・・・いや、やっぱ何でもない・・・』
僕は"この箱、前からあったの知ってた?"という言葉を飲み込んだ。
『変なの、何でもない、ばっかり言ってる』
『あはは、そうだな。ところでさ、なんでそれが欲しいの?』
『なんかね、わかんない。でも、今欲しくなったの』
『今? 今・・・ってどういう意味??』
『ううん、何でもない。あ、私も"何でもない"って言っちゃった。
送ってくれてありがとう。また今度ね』
『ああ、今日は楽しかったな。またな。またラインするよ』
そう言って僕は家路についた。
結局、あの時からの謎は謎のまま・・・
互いの心のうちを少し探りたいような、でも踏み込まない・・・
それでよかった。ぜんぶあの頃のまんまだ。
一つ変わったのは、あの箱が彼女の元に行ったことだけだ。
もし、もしあの頃、、
彼女に『好きだ』っと言っていたら・・・
二人はどうなっていただろうか?
あの箱はもっと早く彼女の元に行っただろうか?
逆にずっと行けなかっただろうか?
『ふふっ、待たせたな・・・』
僕はそう独り言をつぶやいてアクセルを踏み込んだ。
FIN
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【編集後記・へんしゅうこうき】
"好きだと言えなかった、言わなかったあの人"
"好きだったかわからないけど気になってたあの人"
誰にでもそんな人がいるんじゃないでしょうか?
それとちょっと似た感じで
"見て見ない振りをしてどこか奥にしまった段ボール箱"
"捨てようか迷いながらどこか奥にしまった段ボール箱"
みたいな箱はありませんか?
久しぶりにその箱、開けてみたくなりませんか?
その箱には、何が入ってるんでしょう。
彼が彼女にあげた箱がそうだったかはわかりませんが、
"早くしてくれよ、待ちくたびれたぜ~"
なんて思っている箱は意外と多いと、私は思うんです。
箱は、あなたのアクションを待っているかもしれない。
箱屋を長い事やってるとね、わかるんですよ、箱の気持ち^^
最後までお読み頂きありがとうございました。
m(__;)m
2月某日 メルマガ編集長 やまぎし
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