小さな男の子 大きな女の子■アースダンボール メルマガVOL99■2020年11月号-2
100歳を超えたワシは今、中学生の恋路を応援しとる。
よく知ってる子達じゃからとても気になるんじゃよ。
ああ、申し遅れてすまんな。ワシはダンボール箱なんじゃが、
もうこの中学校で15年も使うてもろうとるんで、
人間でいうと100歳は超えとるかのう。
で、ワシが応援したいのはこの中学校の二年生でな、
藤代くんと神崎さんという生徒さんなんじゃ。
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ワシは普段、校舎4階の用具室におるんじゃが、
週に一度、各組のクラス委員が集まる集会用の道具を入れて、
2階の集会室まで運ばれるんじゃ。
ワシは軽いんじゃがサイズがちょっと大きめなでな、
体格の大きい子なら何とか一人で持てなくもないんじゃが、
大抵の子達は一人じゃ持てんから二人で運ぶんじゃ。
そもそも最初から集会室に置けば、という意見も出たんじゃが、
なんでもこの学校の卒業生で宇宙飛行士がおってな、
その人が在学中にたまたまそうし始めたらしくての、
縁起がいいからとかで今でもワシを使うてくれとるんじゃ。
藤代くんと神崎さんはワシを運んでくれる係なんじゃ。
この二人はちょっと特徴的でのう。
藤代くんは学年で一番背が低くて、神崎さんは一番高いんじゃ。
だから二人で運ぶとワシは斜めになってしまうんじゃが、
二人は互い思いやっておってのう。
藤代くんは少しでも位置を上げようと腕を上げ気味に、
神崎さんは少しでも位置を下げようと腰を屈めるんじゃ。
ほんの数分じゃが、体には負担がかかる運び方じゃよ。
でも二人は互いに相手の負担を軽減しようとしててな。
そして、そんな二人に運ばれればすぐにわかるんじゃ。
二人は互いに好き同志ってことがのう。
そんな二人に運ばれるのがワシは楽しみなんじゃ。
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でもこの二人、まだどっちからも告白しとらんのじゃよ。
互いの友達にも相談もせんし打ち明けてもおらん。
そして周りもだ~れも気づいてもおらん。
それどころか悲しいことに、
藤代くんは
『僕みたいなチビな男じゃ神崎さんとつり合えないよな』
神崎さんは
『私みたいなデカい女と一緒じゃ藤代くんは嫌だろうな』
なんて互いに思うとるんじゃ。
なんとも切ないのう。ワシはお似合いじゃと思うんじゃが・・・
これだけ互いに想うとるのに気持ちを伝えんとはのう。
二人でワシを持つ時、互いを気遣ってることはわかる筈じゃ。
二人の手からは相手への"好き"が痛いほどワシに伝わってくるのに、
ワシにはそれを互いに伝えてやることは出来んのじゃ。
それに藤代くんは卓球部、神崎さんはバスケ部、
普段仲のいいグループも勿論別々じゃ。
二人の接点は、週一のクラス委員集会しかないんじゃ。
つまり、ワシを運んどる時なんじゃよ。
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そんなワシの心配に追い打ちをかける事があったんじゃ。
半年に一度の委員会の再選出なんじゃが、
神崎さんは後期も続行になったんだがのう、
藤代くんがクラス委員から外れてしもうたんじゃ。
藤代くんと、もう一人高田くんという子が立候補したんじゃが、
事もあろうにクラスのみんなが
『あのダンボール運ぶんなら高田くんの方がいいんじゃね』
という意見に賛成してしまってのう。
確かに高田くんは体格がとてもいい子なんじゃが・・・
藤代くんも神崎さんも、顔は笑っておっったがどこか寂しそうじゃった。
ワシも残念で仕方なかった。
そんな二人の悲哀を、ワシ以外誰も知らんのじゃからのう。
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そして後期の委員会集会が始まったんじゃが、
高田くんはワシを一人で運んでしまえるんじゃ。
一応、神崎さんも一緒に来るんじゃが、
高田くんは『俺一人で運べるから大丈夫だよ』と言ってのお。
神崎さんは高田くんの後ろをトボトボ着いていくだけじゃった。
ワシと神崎さんしかいない時に、神崎さんはボソっと言うとった。
『あ~あ、なんでこうなるかな・・・運びたいな、また一緒に』
そうじゃよな、そうじゃよなあ。
その切なさ、100歳のワシにもわかるぞ、神崎さんよ。
ダンボール箱に独り言を愚痴る程じゃからのう。
そしてそれは藤代くんも同じだったんじゃ。
高田くんがワシを運ぶ姿を時々遠くから見ておったりしてのう。
ワシの保管してある部屋に来て、ボソっとこう言うとった。
『俺、なんでこんなに小っちぇえんだろ・・・』
体格は如何ともしがたいが、悔しいじゃろうな、藤代くんよ。
ワシが、ロマンスの神様へのコネでも持ってたらのう。
そう・・・願ったからかどうかはわからんが、
そんな二人にちょっとしたチャンスが来たんじゃ!!
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クラス委員集会のある日、
高田くんが風邪で学校を休んでしまったんじゃ。
だから神崎さんは一人でワシを用具室に取りに来たんじゃ。
神崎さんならなんとか一人で持てない事もないからのう。
一人で『よいしょ』とワシを持って歩き出したんじゃ。
おい、藤代くん、どこにおる!? これはチャンスじゃ!
でも彼は別の委員会に参加中で近くにはおらんかった。
神崎さんも何となく期待しちょったんじゃが・・・
まったく、間の悪い奴じゃ・・・
委員会後に神崎さんは再びワシを持って歩き出したんじゃが、
そう都合よく藤代くんが現れる訳は無いよのう・・・
神崎さんは仕方なく歩き出したんじゃ。
階段を昇る手前で神崎さんは一度ワシを降ろして
『ふう~』と深い息を一回付き、
『よいしょ!』と声を出して再びワシを持ち上げたんじゃ。
そして階段の一段目に足を乗せようとした時、
神崎さんは足を引っかけてしまったんじゃ!!
いかん、倒れてしまう!! と思った次の瞬間・・・!
誰かがワシを逆から支えて転倒を防いだんじゃ。
『大丈夫!? 神崎さん』
『ふ・・・藤代、くん、、あ、ありがとう。うん大丈夫』
『手伝うよ。運ぶの』
『う、うん。うん!ありがとう。助かる(嬉しい!)』
ナイスじゃ!!ナイスタイミングじゃ!!藤代くん!!
ワシは信じとった!! 信じとったぞ!!
やっぱり藤代くんじゃ!!お前はやる時はやる男じゃ!!
二人は恥ずかしそうに、でも嬉しそうにワシを運んだんじゃ。
ワシらが歩く廊下にはオレンジ色の夕日が差し込んでてのう、
なんだかここだけ時間の流れが別のように綺麗じゃった。
箱を二人で運ぶ・・・たった、たったそれだけの事じゃのに、
二人には何よりも幸せなことなんじゃなあ。
二人の手からあの懐かしい優しい感じが伝わってきてのう。
ワシもとっても幸せな気持ちになれたんじゃ。
でも時間はあっという間に過ぎてしもうてのう。
何の会話もせずに4階の用具室に着いてしまったんじゃ。
チャンスなんじゃが、チャンスなんじゃがのう・・・
おい、二人とも、もうどっちでもええわい。
なんかキッカケ作らんか!!
二人には聞こえない声でワシがそう叫んだ時じゃった。
神崎さんがこう言ったんじゃ。
『あ、、あの、忘れ物。忘れ物しちゃったかも。
集会室に・・・。
このまま、このままもう一回、集会室に戻ってもいい!?』
神崎さんの顔は真っ赤じゃった。夕日のせいじゃなくな。
『うん、いいよ。忘れ物、取りに行こう』
"月がとっても青いから♪ 遠回りして帰ろう♪"
ワシは思わず歌ってしもうた。
"夕日がとっても赤いから♪ 忘れもの取りに行こう♪"
さあ藤代くん、今度はお前の番じゃぞ。
神崎さんが勇気を出して作ったアディショナルタイムなんじゃ。
しかもペナルティキックくらいの得点チャンスじゃ。
こっから先は聞かないフリしといてやるからのう。
しっかり決めるんじゃぞ。
今夜は久しぶりに『小さな恋のメロディ』のDVDでも見るかのう。
FIN
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【編集後記・へんしゅうこうき】
旅行っていいですよね。
美味しい食事もいいですよね。
ライブに酔うのも、スポーツで汗をかくのも、いいですよね。
それが大好きな人とだったら、尚いいですよね。
そして大好きな人とだったら、
一緒にダンボール箱を運ぶだけでも幸せですよね。
ダンボール専門店として、
こんなダンボール箱での幸せづくりもお伝えしたく、
今回執筆させて頂きました。
そしてお陰様で次号はいよいよVOL100号です。
今回はそれになぞらえ、100歳の箱に語って頂きました。
あなたとお~♪ 持ちたい~♪
だんぼおお~るう~ばこお~(/_ _ )/~♪(By石川さゆり子)
ちと古いかのう・・・
今号も最後までお読み頂きありがとうございました。
m(__;)m
11月某日 ライティング兼編集長:メリーゴーランド
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