ダンボール数箱だけ離れた恋■アースダンボール メルマガVOL94■2020年9月号

yamagishisama0822_2 僕は3人の女性に恋をしている高校生。 一人目は、英語科の如月聖子(きさらぎきよこ)先生。 若くて美人で知的で聡明、うちの高校の超スーパーマドンナだ。 二人目は、僕がはまってるスマホオンラインゲーム "こちらナデシコ特捜部" 通称 "こちナデ" のプレーヤー仲間。 多分女性。彼女のハンドルネームは"レッドピースイート"。 勿論どこの誰かはわからない。ただログイン時間がよく被るから、 しょっちゅうコンビを組んでミッションをクリアする仲だ。 そう、僕はゲームオタク。ついでにぼっち好き。 そして三人目は、 いつもダンボール数箱分、離れた向こう側にいる。 (´o`)п(´o`)п(´o`)п(´o`)п(´o`)п ************************************************** この学校に入学した頃、僕は校内である場所を探していた。 それはぼっちスポット!! そして遂に最高の場所を見つけた。 校舎最上階の使われていない教室で、普段は全く人が来ない。 その教室は物置替わりでダンボール箱が沢山積まれていて、 箱の配置を少し変えてパーソナルスペースっぽさも出した。 まさにぼっちのオアシス、夢のような最高のぼっちスポット!! 一人の昼休み、ここで"こちナデ"を気の向くままプレイする・・・ 僕の高校生活の中で(今のところの)一番の楽しみだった。 僕はここをダンボールの部屋、Dルームと呼んでいた。 _______ プレーヤー仲間の"レッドピースイート"は週に2日くらい、 僕と同じくよく昼休みにログインしているようだった。 そんなある日、僕はいつものようにDルームへ行くと、 ・・・先に誰かが居た。 積まれたダンボールの向こうに居て姿は見えなかった。 "誰だ?こんな時間にこんなとこに。ま、僕もだけど" この人もぼっち好き? なら向こうもこっちに干渉しないだろう。 僕はいつものようにお弁当を食べ終え、"こちナデ"を始めた。 向こう側の人が女性だとすぐにわかった。 彼女は時折、とても小さな声で鼻歌を口ずさんでいた。 "なんか綺麗な鼻歌だな。しかもどっかで聞いたような声。  それとこの歌も。何の歌のメロディだっけか・・・" ぼっちスポットを侵されたというより、むしろ心地よかった。 __________ その後も、彼女は週2日くらいのペースでやって来た。 多分、いや確実に向こうも僕の存在を知ってるはず。 でも彼女は一切僕に関わってこなかった。 でも返ってそれが僕の彼女への興味を膨らませたが、 彼女もきっとぼっち好き、と解釈して彼女へ干渉しなかった。 昼休みによくダンボール箱の向こう側で過ごす彼女。 未だに何年何組の誰かさえわからない彼女。 いつも同じメロディの鼻歌を歌っている彼女。 その曲が『赤いスイートピー』ってこともわかった。 いつの間にか彼女への興味が恋心に変わっていった。 しかも3人の女性の中で一番現実的なリアル3D!! 僕は彼女をDルームの"君"と呼ぶことにした。 (´o`)п(´o`)п(´o`)п(´o`)п(´o`)п ************************************************** "君"が来る日、"君"は必ず僕より早く来て、僕より遅く出る。 だから鉢合わせもしたことがない。ただ、ふと妙なことを思った。 "君"がここに居る時間とレッドピースイートがログインする時間、 なんか同時刻っぽくね・・・?? 何となく、この二つのウキウキはいつも同じ日に起きて、 このウキウキが無い日はどっちも無い、気がする。 "ま、偶然だよな、ははは・・・"( ´∀`) その時だった。 "君"がスマホ操作をミスったのか、一瞬だけ音が聞こえた。 え!? この音楽、"こちらナデシコ特捜部"のBGM!? 聞き違いか? いや、僕がこのBGMを聞き違えるはずない! でも仮にそうだとしたら・・・ 互いにゲームオタクでぼっち好き。相性バッチリじゃん!! 声、かけてみようかな・・・ 僕は今まで経験したことが無いほどの高揚感を感じていた。 これは運命!?神様がオタクぼっちの僕にくれたチャンス!? 今、その運命の人がダンボール数箱隔てた向こう側にいる!! いや、もう少しちゃんと作戦を立ててからにしよう(*´∀`*) 僕は"君"に声をかける決心をした。 (´o`)п(´o`)п(´o`)п(´o`)п(´o`)п ************************************************** 翌日、学校中(特に男子)に激震が走った!! 如月先生が教師同士の交換留学で1年間海外に行くことになった。 しかも出発は一週間後・・・ 勿論、如月先生の隠れファンの僕もショックだった。 そして一週間はあっという間に過ぎ、如月先生は旅立った。 まあしょうがない・・・。 でも、僕にはまだレッドピースイートとDルームの君がいる!! それに来週は"君"に声をかける!!落ち込んではいられない。 僕はそう気を取り直した。しかし・・・・・ それから一週間経っても、Dルームに"君"は来なかった。 それだけではない、レッドピースイートも"こちナデ"にログインしなかった。 それはそれは空虚な一週間だった。 そのうち二人ともまた来るだろう、くらいに思っていたが、 いつまで待っても二人とも来なかった・・・ 僕は、恋する3人の女性を(?)同時に失ってしまった。 _________ そんな失意の中、とある男子生徒の妙な立ち話を耳にした。 『如月先生、火曜と木曜はどっかで一人昼飯してたらしいぜ。  どこに居たんかな~? 俺も先生と昼飯してえ~(*≧∇≦)y─┛』 『へえ、そうなんだ。まああんだけの美人だし、  いつも誰かにちやほやされて、たまには一人になりたいんじゃん。  ただ先生ゲーオタって噂だし、どっかで一人ゲームしてたんかも。  あ~俺も先生とゲームして~!! くうう~!!(*≧∇≦)y─┛』 その時、彼らの話を聞いた僕の頭に閃光が走った!! 火曜と木曜、ゲーオタ・・・そうだ、この曜日は・・・ Dルームに"君"が来てた曜日だ!! 間違えない。 この曜日は先生の昼休みを挟んだ4限目と5限目の授業が無い。 人知れずDルームに来て人知れず戻れる・・・ってことは、 如月先生=Dルームの"君"!?(゜◇゜;) いや、ただの偶然の域だ・・・ でも待て、Dルームの"君"の鼻歌は松田聖子の赤いスイートピー。 で、先生の名前は如月聖子(きよこ)、聖子、せいこ、松田、聖子・・・ いやこれだって偶然の域だ・・・ その時、それとは別の2点が線でつながった。 あのレッドピースイートっていうハンドルネーム、これって レッドピースイート、レッドスイートピー、赤いスイート、ぴい、 の、アナグラム・・・? で、"君" は "こちナデ" のプレーヤー! で、"君" と レッドピースイートは同時に現れる。ってことは、 Dルームの君=レッドピースイート!?(゜◇゜;) だとすれば、"君"のゲーム中の鼻歌が赤いスイートピーなのも頷ける。 だとすれば、3人は繋がる・・・3人は、同一人物!? 一つ一つは偶然且つこじつけかもしれない。 でも、でも一つだけ客観的な事実がある。 それは "3人は同時に去ってしまった" ってことだ!!! 如月先生、Dルームの君、レッドピースイート・・・  みんなは、一体・・・(゜゜;) いや、今さら考えてもしょうがない。 結局、僕は3人に何もアプローチできなかったんだから。 (´o`)п(´o`)п(´o`)п(´o`)п(´o`)п ************************************************** あれから、Dルームには時々しか行かなかった。 なんていうか、少し自分を変えたいって思って。 いつまでもボッチだけじゃ駄目だと思って。 誰かと笑って泣いて、遊んで喧嘩して、学校生活を楽しんで。 例えば好きな子に、自信持って告白できる自分になりたくて。 あんなふうな後悔はもうしたくないから。 そして1年が経ち、如月先生が戻ってきた。 あの時の真相は今も不明だけど、僕の心は穏やかだった。 数日後、僕が久しぶりにDルームに行くと、 あの鼻歌の赤いスイートピーが聞こえてきた。 僕はサッと弁当を食べ、"こちナデ"にログインすると、 久しぶりにレッドピースイートもログインしていた。 メッセージ機能で久しぶりの挨拶も早々に、一緒にミッションに臨んだ。 あと一息でミッションクリア!という場面で二人同時に痛恨のミス!! その時、積まれたダンボール箱の向こうから、 『あああ~、あと一歩だったのに~・・・』という声が漏れた。 あんなに遠くに感じていたダンボール数箱分が、 今はほんのダンボール数箱分に感じる。 そして君はその向こう側にいる。 今度こそ『友達になりませんか』って声をかけてみよう。 例え、それが誰であっても。 FIN     【編集後記・へんしゅうこうき】 いつもすぐそばに居るのに何故か遠く感じる時がある。 何故かそれは自分にとって大事な人に限って起こる。 そしてそれは大抵、心が作り出してしまう距離。 逆にいつも心で遠ざけてしまっていた人が、 実は自分にとって大切な人だと気づかされる時もある。 それらが実際どのくらいの距離かは誰もわからない。 ただもしかしたら、 あなたのすぐ近くに居るのに心が遠いと思う人や、 あなたの心が遠ざけたいと思う人との本当の心の距離は、 ダンボール箱に換算するとほんの数箱分、なのかも。 今号も最後までお読み頂きありがとうございました。 m(__;)m 9月某日 ライティング 兼 編集長:メリーゴーランド

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