ダンボール潰しは大人の香り■アースダンボール メルマガVOL113■2021年6月号-2
『こんなんやってらんねえわ・・・』
例えば商品入荷後の大量のダンボール箱潰し。
みんなそう言うけど僕は違う。
だって、"僕を男に" してくれた仕事だからね。
僕の名前は響(ひびき)。19歳の社会人1年生。
例えそれが"新人への洗礼"的な業務指示だったとしても、
どうってことない。
(´o`)п(´o`)п(´o`)п(´o`)п(´o`)п
**************************************************
あれは僕が幼稚園の頃。父はサラリーマンで営業だった。
父は日曜日に近所の得意先に納品に行くことがあって、
よく僕と妹の琴音(ことね)を一緒に連れて行ってくれた。
その会社にはとても気さくな社長さんが居て、
『おお!響くん、琴音ちゃん、今日も来てくれたのか!』
と言って、いつもお菓子やジュースをくれた。
他の従業員さんも僕等兄妹をかわいがってくれた。
_____________
そんなある冬の日曜日・・・
父はいつものようにその会社の納品に連れて行ってくれた。
僕は買って貰ったばかりのヒーロー手袋を自慢したくて、
喜んでついて行った。
その日は運ぶべきダンボール箱が2箱有ったんだけど・・
小さな男の子が大きなダンボール箱を持とうとする時は、
褒められたい、カッコつけたい、認められたい、
そんな純粋な想いがあったりする・・・
でもその日の僕の純粋は限りなく野心に近かった気がする。
みんなに褒められる妄想で一杯になってしまった僕は、
『こっちの箱は僕が持ってあげるよ』( +・`ー・´)
と言った。すると琴音も
『私も私も~、持つ~』(*`▽´*)
と言った。
父は制したが僕等があまりにも懇願するので、
『じゃあ、うんと気をつけろよ、ゆっくりだぞ』 ノ*´Д`)ノ
と言って箱運びを許可してくれた。
頭の中では『おお!エライな~!頑張ったな~!』
と皆に褒められる場面がふわふわと浮かんでいた。
しかし、その計画は簡単に崩れた・・・
ゆっくり、一歩づつ階段を昇り終えたその時、
一瞬気を抜いた琴音の手から箱がスルっと落ちた。
箱は階段をそのまま転がり落ち・・・・・!!
ゴロゴロ!ドン!ガタン!ボコ! "パリン・・・"
最後に"パリン"と鈍い音が聞えて箱は静止した。
(´o`)п(´o`)п(´o`)п(´o`)п(´o`)п
**************************************************
『あああああああ~!!!』Σ(ОД○*)(*○*)Σ(゜口゜;)
という僕達声が響き、僕達は固まった。
父が、箱にゆっくり近づいた。
『箱は外傷ないけど・・・』(;´゜Д゜)
恐る恐る父は箱の蓋を開けた。
『あ~~~~・・・』(ノ_< ;)
その表情で中身がどうなったかすぐにわかった。
すると箱の音と僕達の声を聞いた社長さんが慌ててやって来た。
『おいおい、どうした?なんか凄い音と声がしたけど』
『し、社長、あの、すみません・・・』(人;´Д`)
父は社長さん見るや深々と頭を下げた。
『も、申し訳ありません!すぐ再製作致します』m(_ _;)m!!
『いや、まあ、うん、誰も怪我はしてないかい?』( ̄ー ̄)
社長さんはまず僕達を気遣ってくれた。
『はい、怪我はありません・・・』
『良かった。にしても、派手にやっちまったねえ』(;´ー`)
社長さんは苦笑いした。
いや、僕と琴音の前で深刻な表情をせずにいてくれていた。
『でも参ったな。これ、次はいつ入りそう?』(;´ー`)
『すぐに調べて御連絡します。本当にすみません!!』m(_ _;)m
父は何度も何度も頭を下げた。
僕は初めて大人の世界を垣間見てすっかり怖じ気づいてしまった。
そしてこの箱の中身やこの会社の人達がどれだけ大事なのか、
それを子供なりに初めて感じた。
すると、僕の体と口が無意識に動いた。
『社長さん、悪いのは父ちゃんじゃないんです!!
僕がしっかり持たなかったのが悪いんです!』(`;ω;´)
父と社長さんは少し驚いていた。
『だから僕を怒って下さい。せきにん、僕がとります』。
僕の"セキニン"という言葉に二人は更に驚いていた。
僕がうつむいて顔をしかめていると、
社長さんがゆっくりと僕の目線まで膝を降ろした。
『響くん、責任て、どうしようってんだい?』
社長さんは落ち着いた優しい口調で言ってくれた。
"あんたが責任とって、罰として〇〇やりなさい!!"
とよく母に言われるのを思い出し、僕はこう答えた。
『社長さんの仕事、なんでもやります・・・』(`;ω;´)
僕は半泣きだった。
社長さんは僕の目をじっと見た。威圧的ではない優しく深い眼差しで。
『よし、わかった』(,´^ω^)ノ
そう言うと社長さんはスッと立ち上がり、こう言った。
『お子さんを半日ほどお預かりしてもいいですか?』
『え!?いいですが・・逆にご迷惑じゃ?』
『迷惑じゃないですよ。夕方には私がお宅に送りします。
よし響くん、今日は働いてもらうぞ~!!』ヾ(´∀`*)
(´o`)п(´o`)п(´o`)п(´o`)п(´o`)п
**************************************************
父と琴音は帰り、僕は社長さんとある部屋に来た。
そこには空のダンボール箱が大量に積まれていた。
『よし、響くんにはこの箱をつぶして畳んで積んでもらう!
箱の底はテープが貼ってないからカッターは使わない。
それからその手袋はしたままだ。できるな!!』
『はい!』(゜д゜)/
社長さんが手本を見せてくれ、僕も始めた。
『おお!響くん、なかなかスジがいいな!』(`▽´)
僕はいつの間にか得意顔になっていた。
初めて感じた緊張と興奮と高揚感、そして幸福感。
なんでだろう、なんだか楽しかった。
きっと社長さんが楽しく感じるようにしてくれたんだ。
30分程で全部片付き、二人とも汗だくで髪の毛くしゃくしゃだった。
社長さんもずっと一緒だった。僕の安全を見守ってくれていたんだ。
『響くん、よく全部終わるまで頑張ったな!』(`▽´)
そう言ってにっこり笑った社長さんの顔・・・
箱を落とした時のおどおどした気持ちはすっかり晴れていた。
_____________
『よく頑張ったね、助かったよ!ありがとう!』
作業後、会社の皆さんが僕に声をかけてくれた。
当初描いたイメージ通りではないけど、
いやそれ以上の形で僕の妄想は現実となった。
それから社長さんは僕をレストランに連れて行ってくれた。
『頑張ったからな、なんでも好きなものを食えよ』(`▽´)
と言う社長さんの顔はやっぱり優しくて暖かだった。
『響くんのお父さんはな・・・
とっても責任感が強くて頑張り屋さんなんだよ。
だから仕事を頼んでるんだ。お父さんを誇りに思うんだぞ。』(`▽´)
僕はその時、心底父を誇りに思った。
『響くん、良かったら将来うちに来い!』(`▽´)
『はい、将来は社長さんの会社で働きます!』o(^▽^)o
人に認めて貰えた気がして、僕はすっかり有頂天だった。
でも帰りの車の中で疲れきった僕はすっかり眠り込んでしまい、
最後は社長さんに挨拶もできなかった。
その後、父は無事に再納品を済ませる事ができた。
____________
僕は今でもあの日の事をよく思い出す。
社長さんは僕に責任をとらせてくれて、気持ちも楽しくしてくれた。
仕事の楽しさ、厳しさ、尊さも教えてくれた。
社長さんのくしゃくしゃ顔とダンボール箱の匂い・・・
あの時を思い出せば大抵の事は乗り越えられる気がする。
まったく誰だよ、
『ダンボール潰すのめんどい』なんて言ってんのはさ(o^∀^)
FIN
(´o`)п(´o`)п(´o`)п(´o`)п(´o`)п
**************************************************
【編集後記・へんしゅうこうき】
社長さんは後にこう言っていたそうです。
『あの時の行動が正しかったどうかは今もわからない。
でも彼の男気にどうしても答えてあげたかった。
取引先の息子さんとか、私が社長だとかではなく、
私も一人の男として。』
年齢差はあれど本気の男同士に潰されたダンボール箱も、
きっとダンボール箱冥利に尽きたことだろう。なんて・・・
最後までお読み下さりありがとうございました。
m(__;)m
6月某日 ライティング兼編集長:メリーゴーランド