つなぎ人、つなぎ箱■アースダンボールメルマガVOL149■2022年12月号-2
『この写真のおばあちゃん激ヤバじゃん!』
高校生の孫の咲(さき)が10年前の古いバイク雑誌を持ってきた。
『まだまだ現役!還暦女性ライダー特集!だって。マジ凄い!
ねえ、おばあちゃんもうバイク乗らないの?』
『う~ん、乗ろうと思えば乗れるけどねえ』
『あ、写真のばあちゃんが持ってる"九州名産"ってダンボール箱、
おばあちゃんの部屋にあるダンボール箱だよねえ』
『ああ、この箱はね、私が妹にあげた箱なんだよ』
『おばあちゃん、妹なんていたっけ・・・?』
『うん、私と同じ、彼女もライダーだったのよ』
(´o`)п(´o`*)п(´o`*)п
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あれは私が28歳の頃。まだ携帯もスマホも無い時代。
私は念願の北海道ツーリングへ向かうフェリーに乗船していた。
バイクをフェリー内の駐輪場に固定していると、隣に女性ライダーが来た。
私はマジマジと彼女を見つめてしまい。目が合った。すると彼女は、
『わあ~!女性ライダーさんだ!私だけかと思った~!!
私、ミチっていいます。宜しくです~』
『私はミチコ、です、よ、宜しく』
『わ~!ミチとミチコ、名前近い~!ほぼ同じ~!』
彼女はまだ19歳で、私より10歳近くも若かったが、
人懐っこくとてもいい子で私達はすぐに仲良くなった。
私は彼女を"ミチ"と呼び、ミチは私を"ミチねえ"と呼んだ。
『ミチねえ、旅は道連れ、一緒に北海道を周ろうよ』
『うん、いいね!一緒に周ろう』
共に初めての北海道を私達は一緒に周った。
まだ未成年のミチは毎晩電話で親に定期連絡を入れているようだった。
『ミチは毎晩、親にちゃんと連絡入れて偉いね』
『へへへ、一応未成年だからね』
『でも19歳で北海道ツーリングなんてミチは凄いなあ』
『人生は短いんです!やりたい事はすぐにやらなきゃ!』
『短いって、19のあんたが言うかね~』
その時、ほんの少しミチの表情が曇った気がした。
『ミチ、どうかした?』
『ううん、何でも、ちょっと疲れちゃった、もう寝るね』
『うん、明日もロングランだからね、お休み』
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私達は北海道周遊後もしょっちゅう一緒にツーリングに出かけた。
一人っ子だった私は本当に妹ができたようで嬉しかった。
長女のミチには弟がいたが、姉ができて嬉しいと言ってくれた。
『もしミチねえに彼氏ができても私と一緒に遊んでくれる?』
『はあ?彼氏?当たり前じゃない。絶対にミチ優先~』
『そっか、良かった・・・なんてね』
『それよりミチはどうなの?彼氏とか作らないの?』
『今は、いなくいていいかな。まあいずれ恋はしてみたい、けど』
『恋なんてあんたはこれからいくらでもできるよ、うんうん』
『そうだね。もし好きな人ができたら真っ先にミチねえに言うよ』
また、ミチの表情が少し曇った気がした。
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ミチと知り合って1年ほど経った頃、ミチは体調をちょこちょこ崩し、
時々ツーリングをキャンセルする事が何度か続いた。
『ミチ、ちゃんと病院には行ってるの?』
『うん、ちゃんと行ってるよ、心配かけてごめんね』
でもしばらくするとミチはすっかり回復し、私はほっとしていた。
ほっとした勢いで私達は九州ツーリングのビッグプランを計画した。
『ミチ、九州ツーリング、楽しみだね!!体調良くしとけよ!』
『はい、ばっちり備えます!!えへへ~』
しかし出発の3日前、再びミチの体調が悪化した。
『ごめん、ミチねえ、しくじった~』
『いいって、また今度にしよう。今回は中止で、』
『そ、それはだめ!ミチねえ、一人で行ってきてよ』
『え~、ミチが居ないとつまんないよ~』
『ミチねえだって最初はソロだったじゃん、ね、お願い』
『お願いって、お願いされるような事でもない気が』
『そ、そうだ、お土産!あっちからお土産送ってよ!』
『それは、いいけど。わかった、久しぶりにソロで行くか』
8日間の九州周遊。ミチのいないツーリングはどこか味気なく、
"お願い" と言ったミチの顔が頭から離れなくてモヤモヤしていた。
それでも旅を進め、日程の真ん中くらいでミチへのお土産を買った。
ミチに沢山送りたくて沢山買って、ダンボールで送る事にした。
その夜、途中報告がてらミチの家に電話を入れるとミチのお母さんが出た。
『あら、ミチコさん、今九州なんでしょ、楽しんでる?』
『はい、楽しんでます!ミチは居ますか?』
『ごめんなさいね、ミチ、ちょっと入院しちゃって』
『入院!?』
『うん、たいした事は無いのよ、念の為って感じで』
『そう、、ですか』
『心配しないでね。ミチには電話があった事伝えるわね』
私の胸はざわめいた。また "お願い" というミチの顔が頭に浮かんだ。
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その日以来、旅先から毎日ミチの家に電話を入れた。
ミチのお母さんはいつも『大丈夫よ』と言ってくれたが、
誰も電話に出ない日もあって私の胸は余計にざわめいた。
そして旅を終えた次の週末、私はミチの入院する病院へ向かった。
気持ちが体のずっと先を急ぎ、歩く速度もどんどん早くなった。
201号室、202号室、、、、あった、206号室!!
私はノックも忘れて乱暴に病室のドアを開けた。
『ミチ!!ミチ!!』
『あ、あれ、部屋・・・まちが・・・』
私は通りかかった看護婦さんに言い寄った。
『あの、206号室の鮎川美智さんは!?』
『え、、、あの、お見舞いの方ですか?』
『はい、友人の柳原道子と申します。鮎川美智さんのお見舞いに』
『鮎川さんは、4日前にお亡くなりになりましたよ』
『・・・・・・・・え?』
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ミチが・・・し・・・うそ、だよね。
私は涙も声も出ず、受け入れる事もできす、待合室でただ茫然としていた。
1時間か、2時間か、何時間くらい経った頃だったろうか。
『道子さん、道子さんよね』
『おばさ、、ミチのおばさん、、、』
『会えて良かった。ごめんなさい道子さん、今まで黙ってて』
『おばさん、だって、大丈夫って、いつも言って、、、』
『美智が、貴方にはどうしても言わないでって』
『私、何にも知らないで、ツーリングなんか行って、、』
『それが、美智が望んでた事なの・・・』
『わ、わかんないよ、おばさん、どうして、なんで!』
『あの子、生まれつきの持病があってね、
長くは生きられないかもしれないって、言われててね。
それでも頑張ってここまで生きて、やりたいこと見つけて、
あなたという姉ができて、この一年は本当に楽しそうだった』
『知らなかった、ミチが、そんな・・・』
ミチのどこか生き急ぐような生き様も、時々不意に見せる曇った表情も、
全ては、こんなとこにつながってたのか。私、何にも知らないで・・・
『それからね、これなんだけど、、、』
おばさんが持っていたダンボール箱を私に差し出した。
『この箱・・・』
『うん、先日、あなたが九州から送ってくれた箱。
あの子、本当に嬉しそうに病室でこの箱を触ってずっと眺めていたわ。
元気になって自分もソロでどこかへ行ったら、
ミチねえにもっと大きな箱でお土産送りつけてやるって。
でも、箱が届いた次の日に容体が急変してしまったの』
『・・・・・』
『ねえ、道子さん、箱、開けてみてくれない?』
『はい・・・。あ、これ、ミチのヘルメットとグローブ・・・』
『このメットとグローブと箱と、あなたに貰って欲しいの』
『私に、、、ですか?』
『うん、あの子も喜ぶわ。 あの子ね、いつも言ってたの。
ミチねえとの時間が楽しい、ミチねえにはいつまでも走り続けてほしい、
私が居なくなった後も、私の分も、って』
『ミチ・・・ミチ・・・』
箱が私の両手を介してミチの最後の想いを伝えてくれてる気がした。
そっか、こんなとこで終わりじゃないんだ。
ここじゃなくて、この先の、もっとずっと先まで、
あんたがこの世に生きた証を、ここからは私がつなぐ。
だからミチ、私はあんたの死を受け入れる。
受け入れるから、だから今だけ、少し泣かせて・・・
あ、やっぱ少しなんて無理・・・無理・・・ムリだ・・・
おばさんは私が泣き止むまでずっとそばにいてくれた。
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『そ、、、っか。そんな事、あったんだ』
『あの時、バイクをやめないで良かったと思うわ』
『おばあちゃん、私もバイクの免許とる!!』
『じゃあお父さんとお母さんに許可をもらわないとね』
『そんでおばあちゃんとツーリング行く!!』
『それは楽しいみだ、じゃあ私もまた少し慣らしておこうかねえ』
『絶対!絶対だよ!おばあちゃん!! あ、そうだ、』
『なんだい?』
『その箱とメットとグローブ、私に一晩貸して』
『いいけど、どうするの?』
『ミチさんとお話して許可を貰うの。私もその証をつなぎたいから』
FIN
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【編集後記】
もし彼女達にスマホが有ったら、
二人の関係性は少し変わっていたかもしれません。
電話も無い時代、もっと遡れば交通手段も原始的な時代、
ほんの少しの言葉やを伝えるだけでも大変な時間と労力が必要でした。
でもだからこその良さって、あったと思うんです。
同じようにいつか、ダンボール箱なんて不便な物を使ってた、
という時代が来た時に、ダンボール箱もなんか良かったよね、
と言って貰えたら、今ダンボール箱のある時代に生きる者として、
嬉しいですかね。
最後までお読み下さりありがとうございました。
m(__;)m
ライティング兼編集長:メリーゴーランド