押入れ奥のダンボール パート4■アースダンボールメルマガVOL129■2022年2月号-2
人の心の奥底と同じ場所が実は家にもある。
それが押入れの奥。
そこにあるのは夢か希望か。
それともひっそり隠した思い出か?
このメルマガの意外な人気シリーズ
『押入れ奥のダンボール』
今回は一体どんな・・・!?
(´o`)п(´o`)п(´o`)п
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人は誰だって、いやモノだってそうだ、
この世に生まれてきたからには出番があるはず。
死ぬまでに一度は出番ってヤツが巡ってくるはずだ。
でもあのダンボール箱にはまだ出番が巡ってこない。
我家の押入の奥で中身は空っぽのままじっとしてる。
もうこの状態で20年くらいになるか。
悪ガキさえ、悪ガキさえ現れてくれたら・・・
最近の子というか、随分前から悪ガキなんて見てない。
ちょっと根性が無いと言うかおとなし過ぎるっていうか、
まあいい子ならそれはそれでいいんだが。
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あれは私が小学生の時だった。
私はいわゆる悪ガキでやんちゃな男の子だった。
ゆえに学校の帰り道は道草ばかりしていた。
そんな私の通学路に塀に囲まれた立派な家があった。
その家の庭にはこれまた立派な柿の木があって、
秋になると沢山の実が成っていい香りが辺りを包んでいた。
私は柿の香りが好きで秋だけは毎日同じ道を通って帰った。
そんな秋のある日・・・
その年も立派に実を付けた柿の木の枝が一本だけ、
塀の外に少しだけはみ出していた。
あれ? これ取れるんじゃね?
ちょっと届かないか。何か長いモノとかでつつけば・・・
辺りを見回すと丁度台になりそうなモノがあり、
私はそれを台替わりに枝の下に置いて柿の実に手を伸ばした。
実を握り回して捻ると、パキっと音がして実が取れた。
その時だった!!
『コラああ~!!』という大声がして家の人が駆けてきた!!
私はあっけなく顔の怖いそのおじさんに捕まった。
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『お前、今何やってたんだ』
『か、柿を・・・』
『柿を、何だ・・・?』
『と、採って、盗、、もうと・・・』
『・・・悪い事だとわかってやったのか?』
『(コクンッ)』
『ならどうして盗った?』
『柿、好きで、美味そうで、誰も見てないから』
『柿、好きなのか?』
『(コクンッ)』
『そうか・・・お前、家はどこだ?名前は?』
『三丁目の宮田です、宮田哲太(てった)です』
『わかった、今日はもういい、もうやるなよ』
『はい、ごめんなさい』
いつもイタズラ後には大人に大声で怒られて絞られて、
調子に乗って逃げる、がルーティンだった私だったが、
ほんの少しだけの"おとがめ"が逆に私の気分を沈ませた。
やんちゃな悪ガキもカタナシだった。
俺、悪い事したんだ・・・
いつものやんちゃなイタズラ後の気分とは大違いだった。
それに名前も家も聞かれた、きっと親に言いつけられる。
家に帰る気も無くなり、あても無く歩き続けた。
歩き疲れて近所の公園でずっと一人で座っていた。
辺りはもう暗い。疲れた、腹も減った、誰も居ない。
この辛さも限界で、仕方なくトボトボと家に帰った。
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怒られる、母ちゃんに怒られる。
私は重い気分で玄関を開けた。すると・・・
そこにはダンボール箱いっぱいの柿が置いてあった!!
『ああ哲太か、おかえり、遅かったなあ』
『母ちゃん、これ、この柿どうしたの?』
『五丁目の平山さんがくれたんよ、お前にって。
お前、平山さんと知り合いだったん?』
『あ、ああ、うん、まあ、ね、、』
『良かったな~、お前柿好きやからな~、ようお礼言っとき』
母ちゃんの穏やかで優しい笑顔、
ここ数時間の憂鬱が安堵に変わった感じ、
あの時の家中に満ちた柿の香り、
その中に少しだけ混ざったダンボール箱の紙の匂い、
私は今でもあの場面の全てを五感の底から覚えている。
正しい解釈とは言えないが、何とも幸せな時間だった。
そして、もう二度とこんな事はしない、と強く思った。
はっきり言えないけど人生の何かを教わった気がした。
あの時の事がずっと心に残り、僕は庭に柿の木を植えた。
悪ガキに盗んで欲しい、と言えばかなり妙な期待だが、
少しそんな事も想像しつつ、ダンボール箱も用意した。
こんな事恥ずかしくて誰にも言えないし妻にも言ってない。
でも未だにそのダンボール箱の出番は無い。
もう20年も押入の奥に置いてあるままだ。
最近の子は帰り道に手の届く柿を採ったりはしないのか。
まあ当然と言えば当然、それが正しいには違いないが。
今年も柿の木は見事に実を付けている。
でもこの箱もそろそろ別の事に使うか、あるいは廃棄か。
そう思い始めた時だった・・・
(´o`)п(´o`)п(´o`)п
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ピンポ~ン♪ ふいにドアホンが鳴った。
玄関を開けると一人の小学生位の男の子が立っていた。
『はい、どなた様かな』
『突然すみません、あの・・・』
男の子は少し緊張気味に言葉を発した。
とても真面目そうで素朴な少年だった。
『突然すみません、柿を、柿を売ってくれませんか?』
『え? うちの柿をかい?』
意外なお客さんの意外な申し出に、私は訳を聞いた。
『どうしてうちの柿を売って欲しいんだい?』
『おばあちゃんが柿が好きで、それで・・・』
『そう、でも柿ならわざわざうちのじゃなくても』
『いいえ、ここの柿がいいんです』
少年は静かに首を横に振りながらそう言った。
聞けば・・・
少年は一緒に住むおばあちゃんの病院の付き添いで、
週に何度か我家の前の道を通っていたらしい。
おばあちゃんは目が悪くて通院していたが、
両親が共働きで日中は居ない為に少年が付き添っていた。
柿が大好きなおばあちゃんは我が家の前を通るのが、
通院の道中でのささやかな楽しみだったそうだ。
『今年も立派に成っとるね~、あまり見えんけどいい香りだね』
足を止めて見上げながら、にっこりしてそう言っていたそうだ。
大好きな孫と一緒に、大好きな柿の前を通るのが、
きっと本当に楽しみだったのだろう。
そのおばあちゃんが先日から風邪をこじらせてしまい、
すっかり元気が無くなってしまったらしい。
少年は何とか元気づけたいと考えに考え、
出した答えがうちの柿だった、との事だった。
今時の子は根性が無い?おとなし過ぎる?
私はなんて馬鹿で愚かな考えをしていたんだろう。
こんなにも優しくて、強く純粋な心があるじゃないか。
私は昔と今、両方の自分を恥じた。
『わかったよ、ちょっと待ってなさい』
そう言って私は座敷の押入れを開けた。
『やっと出番が来たぞ、しかも最高の出番だ。
無駄じゃなかったんだな、柿の木も、お前も・・・』
私はダンボール箱にそう声をかけて押入から出した。
『君、名前は?うちはどこだい?』
『一丁目の杉田です、杉田誠士郎といいます』
『杉田くんか、よし、一緒に柿を採ってこの箱に入れよう』
『はい!ありがとうございます!』
そして私達はダンボール箱いっぱいの柿を採った。
『よし、重いからおじさんが車で送っていくよ』
『あ、あの、、おいくらですか?』
少年は財布を手に持って堂々と聞いてきた。
『お金はいい。君とおばあちゃんに僕からプレゼントだ』
少年は何度も何度も私にお礼を言い、何度も何度も頭を下げた。
道すがら、私は助手席の少年に自分の柿の実の昔話を聞かせた。
少年もふんふんと楽しそうに聞いてくれた。
後部座席に置いたダンボール箱と柿の実も、
楽しそうに私達の会話を聞いてくれていた。
・・・そんな風に見えた気がした。
FIN
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【編集後記】
自分で編集しておいてなんですが、
このダンボール箱に出番が来て本当に良かった。
ところで最近、弊社のお客様からこんなお声を頂きます。
受取る人の喜ぶ姿を想像すると、梱包が楽しい、と。
弊社のお客様がそんな気持ちで弊社商品を使って下さる、
そう思うと私達も嬉しい。
そしてそういう時は、箱だってきっと嬉しい。
私達、箱に対してちょっと過保護ですかね・・・
親ばか、なんです^^;
最後までお読み下さりありがとうございました。
m(__;)m
ライティング兼編集長:メリーゴーランド