壊せ、愛ゆえに-後編-■アースダンボール メルマガVOL127■2022年1月号-2
ダンボールの声って聞いたことある?
あの時、僕には確かに聞こえた気がしたんだ。
壊される役目のダンボールのお城が、
自分を壊す人に向かって『頑張れ、私を壊せ』って、
言った気がしたんだ。
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~前回までのあらすじ~
僕は滝田俊(たきたしゅん)。子供イベント会社勤務の24歳。
上司の七海(ななみ)主任は聡明で美人で僕の憧れの女性(ひと)だ。
そして5才の男の子、蒼(あおい)くんの母親でシングルマザー。
毎年うちの社は蒼くんが通う保育園の演劇会プロデュースを請け負う。
蒼くんは今年の演劇会で "ダンボールのお城を壊す怪獣役" をやる。
主任は仕事としてそのお城を作る準備を進めていたが、
気弱で何かを激しく壊すことが苦手な蒼くんは
お城を壊す役なんてやりたくないと悩み・・・
しかし二人は自分がすべき事と向き合い、まっとうしようとする。
そして迎えた演劇会当日、なのに主任がまだ会場に来てない!!
主任!せめて蒼くんの出番までには間に合ってくれ~!!
(前編の全文はこちらです↓↓)
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そして遂に演劇会の日。
僕は会場の一番後方で全体を見守る配置についた。
主任は急遽別件の対応で遅れ、主任が来ないまま開幕した。
今年も大勢の観客が来場し、出演者もスタッフも気合満々だ。
でもやっぱり、蒼くんや他の数人は緊張している様子だった。
劇は着々と進行した。
皆今年も頑張って稽古したんだな。観客の反応もなかなかいい!
でも劇中、僕は何度も時計を見た。
"主任、まだかな・・・もうすぐ蒼くんの出番なのに"
緊張気味の蒼くんが舞台そでにスタンバっているのが見えた。
"大丈夫!!あれだけ稽古頑張ったんだから" 僕はそう念じた。
そして主任が来ないまま蒼くんの出番になった。
"ああ、主任ってば、まだかあ~~!!"(;゜Д゜)
場内には危機迫る雰囲気のBGMが流れ始めた。
そして怪獣着ぐるみを着た蒼くんが舞台そでから現れ、
スポットを浴びながらのっしのっしとお城に歩み寄った。
そして遂にお城の前に立ち、BGMのボリュームが下がった。
いよいよお城に襲い掛かるシーンだ!
でもそこから次の一歩が出せなくなってしまった・・・
その時だった。
『はあ、はあっっ、、ごめん!今どこ?どの場面!?』
息を切らした主任が僕の肩を叩いた。
『主任、何やってんですか、ほら!あそこ!今!今です!!』
僕が指差した舞台上で蒼くんの動きが10秒ほど止まっていた。
『あ、蒼!! アオイイイ!!』(;゜Д゜)
主任は声を押し殺し、声にならない声で叫んだ。
主任、主任!・・・ああ、どうすれば、どうすれば!!
すると突然・・・僕達のすぐ前の観客が大声叫んだ。
『蒼くん、頑張れ!頑張れ~!!』(*´ノ0`)
その声を皮切りに、会場内から次々に声援が上がった!
そうだ、これがこの演劇会のいいところでもあるんだ!
身内同士でも盛り上げれる演劇会!最高じゃんか!
『蒼い~!頑張れ~!!』
『やれ~!イケ~!アオイ~!』
『蒼くん~!ファイトおおお~!!』
いつの間にか僕も主任も大声で一緒に叫んだ。
『アオイ~!アオイ~!アオイ~!!!』ヾ(叫゜Д゜)ノ
『蒼くん!蒼くん!蒼くん!』ヾ(;`・Д・)ノ
蒼くんが一歩踏み出すと今度は・・・
会場内が一気に静まり、全員が蒼くんの演技に集中した。
ボンッ!ボボボンッ!!
蒼くんは全身で力強くお城に体当たりした。
ブチッ!ブチブチッ!!
今度はお城の支柱をもぎ取り、ドサッ!と床に叩きつけ、
『があああおおおおお~!!』と雄叫びをあげた。
最後に両腕で力いっぱいお城の上半分を持ち上げると、
ドサドサドサ~~ッ!!
とけたたましい轟音と共にお城は崩れ散った・・・
時間にして約20秒くらいだろうか。
場内には蒼くんがダンボールと格闘する音だけが響いた。
観客はお城が崩れ散った後もまだ息を呑んでいた。
な、なんだ・・・今、何が起こったんだ?
そして今聞えたのは何だ?
ダンボールの音? いや違う、ダンボールの、声?
壊されるお城が蒼くんを応援していたような、共鳴したような、
そのな蒼くんとダンボールのお城の "会話" が聞こえた気がした。
『蒼くん、頑張れ、私を壊せ!・・・』
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気が付くと僕の頬には涙が伝っていた。
隣を見ると、主任も涙を流し、ただ呆然と舞台を見つめていた。
『主任、蒼くん、やりましたね』
『うん、うん・・・ねえ、滝田君・・・』
『なんですか?』
『ダンボールの音って、なんかいいわね』
『そ、そこですか!? まあ、ええ、すごくいいです』
『もっと子供イベントでダンボール使って行きましょ』
『もう、こんな時にも仕事の話ですか?
今日は蒼くんを沢山抱きしめてあげて下さいね』
『うん、そうする。それからね、滝田君、
今回は全部あなたのおかげ。本当にありがとう』
『え、いや、その、僕はなにも・・・』
(しゃあああッ!!主任のハートゲットに一歩前進~!)
┗(`・∀・´)
FIN
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【編集後記】
ダンボールって本当に不思議なもので、
いや弊社がダンボール屋だからそう思うのかもしれませんが、
使う人の気持ちに意志をもって応えてくれてるのかも、
と思わせる事が時々あるんです。
使う人が想いを伝えると、時には想いをぶつけられたとしても、
それを受け止めて、時にはいい感じにはね返してくれる・・・
多分、皆さんが扱う素材やサービスやシステムでも、
そんな時がきっとあると思うんですが、どうですか?
今号も最後までお読み下さりありがとうございました。
m(__;)m
ライティング兼編集長:メリーゴーランド