真夏の一夜にハイブリッドな幽霊と -完結編-■アースダンボールメルマガVOL164■2023年8月号
『だって私、幽霊だよ・・・』
確かに目の前の女の子はそう言った。
~前号までのあらすじ~
俺は郡司倫太郎(ぐんじりんたろう)、高校三年生、彼女なし。
夏休みで親父の友人(おじさん)が経営する海の家に住込みバイトに来ていたある夜、
散歩に出かけた砂浜で "自称幽霊" の渚(なぎさ)さんという女の子に出会った。
彼女は"心残りのダンボール箱"が理由で、もう3年もこの場所に居るという。
俺は彼女の話を聞きながらグーグルストリートビューや記憶を辿り、
俺のバイト先の海の家の倉庫で眠っていたそのダンボール箱を発見した。
"心残り"が解決できた彼女は "お礼したい" と俺にハグをしてくれたが、
ハグを解いた彼女は『ありがとう、さよなら、倫太郎くん』
という言葉を残し、突然俺の目の前から消えてしまった!!
頭が混乱した俺はそのまま気を失ってしまった・・・
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『おい、倫太郎!大丈夫か、おい!』
『・・・あれ?店長、おじさん、どうしたの?』
『良かった、寝てただけか、びっくりしたぞ、ったく』
『ここは海の家・・・俺、寝てた?じゃあ、あれは夢・・・?』
俺の頭はまだ混乱していた。
もう日の出前で辺りは少し明るくなって来ていた。
『なに寝ぼけてる!朝起きたらお前が家に居なかったから、
心配で探しに来たんだぞ』
『そっか、ごめんなさい、俺、なんでこんなとこで・・・』
『それに、なんでお前がそのダンボール箱を持ってんだ?』
『ダンボール箱??あ・・!!』
俺の傍らには彼女と探したあのダンボール箱があった。
『このダンボール、ってことはやっぱり夢じゃない?
じゃあ渚さん、渚さんはどこ!?』
『なぎ、、さ? 今、渚って言ったのか?』
『そう、渚さん!高校三年の女の子、白いワンピースの』
『おい倫太郎、渚がどうしたって・・・?』
『さっきまで一緒に居たんだよ。おじさん、渚さんを知ってるの?』
『一緒に居た、だと?』
『渚さんがこの箱を探してて、だから俺も一緒に探してて』
『この箱を、渚が探してた?』
『うん、でここで見つけて。そしたら渚さん居なくなっちゃって』
『渚は・・・その・・・』
『なんだよおじさん、さっきから変だよ』
『渚は、俺の娘だ・・・』
『おじさんの娘、さん・・・?な、
なあんだそっか、全然知らなかった。おじさん、娘さん居たんだ。
でも渚さん、家には居ないよね。別の場所に住んでるの?』
『渚は亡くなったんだよ、3年前、あそこの国道で』
『へ・・・!?』
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俺はまた気を失いそうになった。が、今度は耐えた。
そして夕べあった事をおじさんに話した。
『・・・そうか、そう、か・・・』
そう言うとおじさんはしばらく沈黙し、少ししてまた話し出した。
『渚の葬式の時、美波ちゃんが泣きながら
"おじさんごめんなさい、渚が死んだのは私のせいだ、
私が置き忘れた箱を渚に片してなんて言ったからだ"って言ってな。
勿論、美波ちゃんのせいじゃないんだが。
美波ちゃんからその話を聞いた時に俺が箱を片しに行ったんだよ。
渚はなんていうか、昔からそういうの気にする奴だったからな。
だがよく考えたら、それを渚に報告してなかったな・・・』
おじさんはそう言いながら少し訝(いぶか)しげな顔をしていた。
『ねえおじさん、渚さんって凄い真面目で嘘がつけないタイプ?』
『ああ、くっそ真面目でバカ正直、ついでに天然だった』
『そっか、ならもし自分が幽霊っていう自覚があったとすれば?』
『もしそうなら、"私は幽霊よ" って普通に言うよ、あいつなら』
『そっか・・・』
『でも、我ながら、俺の娘ながらすごくいい奴だった。
面倒見がよくて、頼まれ事は嫌と言わなくて、素直で。
俺がもし、あいつと家族じゃない同世代として生まれていたなら、
俺は絶対あいつと友達になってたと思う。本当にいいやつだった』
『そっか・・・』
『ただな倫太郎、お前の話の中で一つだけ腹の立つ事がある』
『なに?』
『夢であれ何であれ、なんで渚はお前んとこに来て、
俺んとこに来てくんなかったんだってな』
『う~、、その気持ちは少しわかるよ、おじさん』
その時、一人の女性が突然、息を切らして海の家に走って来た。
『はあ、はあっ、おじさん!おじさん!!』
『なんだ、美波ちゃんじゃないか、急にどうしたの?』
『おじさん!あのね、あのね、渚が・・・!!』
俺とおじさんは顔を見合わせた。今度は一体なんだ?
『渚が、夕べ私の夢に出てきて、
"箱はちゃんと片した、私ももう大丈夫、
だから自分を責めないで、前を向いてね"、って、言った・・・』
俺とおじさんはもう一度顔を見合わせ、今度は互いに微笑んだ。
『美波ちゃん、朝飯まだだろ。なんか食ってきな、ごちそうするよ』
『あ、はい。じゃあその、頂きます・・・』
『そうそう、こいつは俺の友人の息子で倫太郎。ここのバイトだ』
『よ、宜しく、美波、南場美波です』
『俺は郡司倫太郎、高3です、宜しくです』
その日の仕事を終えておじさんの家に帰宅した俺は、
まだ入った事がない、一番奥の座敷部屋へ初めて通された。
その部屋の仏壇には渚さんの遺影が置かれていた。
それは確かに俺が"会った"渚さんだった。
正直、今でもあれは夢だったのか現実だったのかはわからない。
ただ俺の体には、渚さんに抱きしめられた時の、
渚さんの体温と柔らかい感覚が、今もはっきり残っていた。
ダンボール箱が気になってどこにも行けなかったハイブリッド幽霊、か。
幽霊ってそういうもんなのかな。
これで俺が高3の夏休みに出会った女の子との、
どこか不思議でちょっぴり切ない、ある一夜の話はおしまいです。
FIN
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【編集後記】
店長(おじさん)の『夢でも何でも俺の所に出てきて欲しい』
というセリフ。多分、誰にでもある想いなんじゃないかと思います。
そしてもし、あなたがその人に会えたら、
あなたはどんな話をしますか?何を伝えますか?
そしてどんな事を聞きたいですか?
もしかしたらその人の大事な物がしまってあるダンボール箱が、
その人との絆を蘇らせてくれるかもしれませんね。
それも、ダンボール箱の役目の一つだと思います。
今号も最後までお読み下さりありがとうございました。
m(__;)m
ライティング兼編集長:メリーゴーランド