真夏の一夜にハイブリッドな幽霊と -完結編-■アースダンボールメルマガVOL164■2023年8月号

『だって私、幽霊だよ・・・』 確かに目の前の女の子はそう言った。 ~前号までのあらすじ~ 俺は郡司倫太郎(ぐんじりんたろう)、高校三年生、彼女なし。 夏休みで親父の友人(おじさん)が経営する海の家に住込みバイトに来ていたある夜、 散歩に出かけた砂浜で "自称幽霊" の渚(なぎさ)さんという女の子に出会った。 彼女は"心残りのダンボール箱"が理由で、もう3年もこの場所に居るという。 俺は彼女の話を聞きながらグーグルストリートビューや記憶を辿り、 俺のバイト先の海の家の倉庫で眠っていたそのダンボール箱を発見した。 "心残り"が解決できた彼女は "お礼したい" と俺にハグをしてくれたが、 ハグを解いた彼女は『ありがとう、さよなら、倫太郎くん』 という言葉を残し、突然俺の目の前から消えてしまった!! 頭が混乱した俺はそのまま気を失ってしまった・・・ (前号までの全文はこちら↓↓) https://www.bestcarton.com/profile/magazin/2023-jul-2.html (´o`)п(´o`*)п(´o`*)п **************************** 『おい、倫太郎!大丈夫か、おい!』 『・・・あれ?店長、おじさん、どうしたの?』 『良かった、寝てただけか、びっくりしたぞ、ったく』 『ここは海の家・・・俺、寝てた?じゃあ、あれは夢・・・?』 俺の頭はまだ混乱していた。 もう日の出前で辺りは少し明るくなって来ていた。 『なに寝ぼけてる!朝起きたらお前が家に居なかったから、  心配で探しに来たんだぞ』 『そっか、ごめんなさい、俺、なんでこんなとこで・・・』 『それに、なんでお前がそのダンボール箱を持ってんだ?』 『ダンボール箱??あ・・!!』 俺の傍らには彼女と探したあのダンボール箱があった。 『このダンボール、ってことはやっぱり夢じゃない?  じゃあ渚さん、渚さんはどこ!?』 『なぎ、、さ? 今、渚って言ったのか?』 『そう、渚さん!高校三年の女の子、白いワンピースの』 『おい倫太郎、渚がどうしたって・・・?』 『さっきまで一緒に居たんだよ。おじさん、渚さんを知ってるの?』 『一緒に居た、だと?』 『渚さんがこの箱を探してて、だから俺も一緒に探してて』 『この箱を、渚が探してた?』 『うん、でここで見つけて。そしたら渚さん居なくなっちゃって』 『渚は・・・その・・・』 『なんだよおじさん、さっきから変だよ』 『渚は、俺の娘だ・・・』 『おじさんの娘、さん・・・?な、  なあんだそっか、全然知らなかった。おじさん、娘さん居たんだ。  でも渚さん、家には居ないよね。別の場所に住んでるの?』 『渚は亡くなったんだよ、3年前、あそこの国道で』 『へ・・・!?』 ____________ 俺はまた気を失いそうになった。が、今度は耐えた。 そして夕べあった事をおじさんに話した。 『・・・そうか、そう、か・・・』 そう言うとおじさんはしばらく沈黙し、少ししてまた話し出した。 『渚の葬式の時、美波ちゃんが泣きながら  "おじさんごめんなさい、渚が死んだのは私のせいだ、  私が置き忘れた箱を渚に片してなんて言ったからだ"って言ってな。  勿論、美波ちゃんのせいじゃないんだが。  美波ちゃんからその話を聞いた時に俺が箱を片しに行ったんだよ。  渚はなんていうか、昔からそういうの気にする奴だったからな。  だがよく考えたら、それを渚に報告してなかったな・・・』 おじさんはそう言いながら少し訝(いぶか)しげな顔をしていた。 『ねえおじさん、渚さんって凄い真面目で嘘がつけないタイプ?』 『ああ、くっそ真面目でバカ正直、ついでに天然だった』 『そっか、ならもし自分が幽霊っていう自覚があったとすれば?』 『もしそうなら、"私は幽霊よ" って普通に言うよ、あいつなら』 『そっか・・・』 『でも、我ながら、俺の娘ながらすごくいい奴だった。  面倒見がよくて、頼まれ事は嫌と言わなくて、素直で。  俺がもし、あいつと家族じゃない同世代として生まれていたなら、  俺は絶対あいつと友達になってたと思う。本当にいいやつだった』 『そっか・・・』 『ただな倫太郎、お前の話の中で一つだけ腹の立つ事がある』 『なに?』 『夢であれ何であれ、なんで渚はお前んとこに来て、  俺んとこに来てくんなかったんだってな』 『う~、、その気持ちは少しわかるよ、おじさん』 その時、一人の女性が突然、息を切らして海の家に走って来た。 『はあ、はあっ、おじさん!おじさん!!』 『なんだ、美波ちゃんじゃないか、急にどうしたの?』 『おじさん!あのね、あのね、渚が・・・!!』 俺とおじさんは顔を見合わせた。今度は一体なんだ? 『渚が、夕べ私の夢に出てきて、  "箱はちゃんと片した、私ももう大丈夫、  だから自分を責めないで、前を向いてね"、って、言った・・・』 俺とおじさんはもう一度顔を見合わせ、今度は互いに微笑んだ。 『美波ちゃん、朝飯まだだろ。なんか食ってきな、ごちそうするよ』 『あ、はい。じゃあその、頂きます・・・』 『そうそう、こいつは俺の友人の息子で倫太郎。ここのバイトだ』 『よ、宜しく、美波、南場美波です』 『俺は郡司倫太郎、高3です、宜しくです』 その日の仕事を終えておじさんの家に帰宅した俺は、 まだ入った事がない、一番奥の座敷部屋へ初めて通された。 その部屋の仏壇には渚さんの遺影が置かれていた。 それは確かに俺が"会った"渚さんだった。 正直、今でもあれは夢だったのか現実だったのかはわからない。 ただ俺の体には、渚さんに抱きしめられた時の、 渚さんの体温と柔らかい感覚が、今もはっきり残っていた。 ダンボール箱が気になってどこにも行けなかったハイブリッド幽霊、か。 幽霊ってそういうもんなのかな。 これで俺が高3の夏休みに出会った女の子との、 どこか不思議でちょっぴり切ない、ある一夜の話はおしまいです。 FIN 98-2 (´o`)п(´o`*)п(´o`*)п ****************************     【編集後記】 店長(おじさん)の『夢でも何でも俺の所に出てきて欲しい』 というセリフ。多分、誰にでもある想いなんじゃないかと思います。 そしてもし、あなたがその人に会えたら、 あなたはどんな話をしますか?何を伝えますか? そしてどんな事を聞きたいですか? もしかしたらその人の大事な物がしまってあるダンボール箱が、 その人との絆を蘇らせてくれるかもしれませんね。 それも、ダンボール箱の役目の一つだと思います。 今号も最後までお読み下さりありがとうございました。 m(__;)m ライティング兼編集長:メリーゴーランド

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