真夏の一夜にハイブリッドな幽霊と -前編-■アースダンボールメルマガVOL162■2023年7月号

『だって私、幽霊だよ・・・』 今、確かに目の前の女の子はそう言った。 『幽霊って、足も有るし歩けば足音もするじゃん』 『最近の幽霊ってのはハイブリッドなのよ、進化ってやつね』 はいはいわかりました。そういう設定ね。 俺は "自称幽霊" の女の子の話を聞く事にしたんだけど・・・ (´o`)п(´o`*)п(´o`*)п **************************** これは、俺が高3の夏休みに出会った女の子との、 どこか不思議でちょっぴり切ない、ある一夜の体験です。 俺は郡司倫太郎(ぐんじりんたろう)、高校三年生、彼女なし。 夏休みで親父の友人が経営する海の家に住込みバイトに来ている。 俺は今年初めてその人(海の家のオーナー兼店長)に会ったんだけど、 おじさんは気さくで豪快な人で、お客さんにも人気の名物店長だ。 俺を『倫太郎!』と呼んでくれ、とても良くしてくれた。 そんな短いバイト生活もあと数日で終わろうとしていたある夜、 寝付けなかった俺はフラッと夜の散歩に出かけた。 もうすぐ日付も変わろうかという時刻だった。 この街の海は真っ白な砂浜が数百メートルも続いていて凄く綺麗だ。 その砂浜に沿って通る国道からは海が一望でき、 道沿いに車を止めて海を眺めるドライバーもよく見かけた。 "夜は波打ち際に近づくなよ" とおじさんから言われてたのもあって、 俺はその海沿いの国道を、ただ波音を聞きながら歩いていた。 普段は街灯もなく真っ暗なその場所も、その夜は月明かりがとても綺麗だった。 ふと砂浜に目をやると、人影を見つけた・・・ 人? 白いワンピース、女の子? 一人か? 俺は足を止め、国道からその女の子に声をかけた。 『ねえ、君、そこで何やってるの?』 女の子は黙ってゆっくり、こっちを振り向いた。 98-2 『ごめん、突然声かけて、どうしたの?何かあったの?』 女の子は黙ったままだったが、俺は言葉を続けた。 『こんな時間に一人じゃ危ないよ』 すると女の子が口を開いた。 『ナンパ?』 は!?何言ってんだこいつ? 確かにナンパに見えなくもないか。 『いやナンパじゃないけど、こんな時間に女の子一人じゃ危ないって』 『あなた誰?』 『俺は郡司倫太郎、高校三年、あの海の家でバイトしてる』 『そう、私は渚(なぎさ)、私も高校三年生』 『渚さん、そっち行っていい?』 『別にいいけど』 俺は国道のガードレールを跨いで砂浜に居る彼女へと歩いた。 __________ 『渚さん、帰ろう、送ってくよ。家は近いの?』 『倫太郎くんだっけ、少しお話ししない?』 『お話? まあ少しならいいけど、したら帰りましょうね?』 それから俺達はそのまま砂浜に座った。 彼女はなんていうか、とても不思議な感じの人だった。 話し方も物腰も静かで、時々ほんのり笑ってほんのりおどけて、 まるで浜辺のさざ波のような、どこかミステリアスな人だった。 『それで、渚さんはいつからここに居るの?』 『もうずーっと、3年くらいかな』 『3年!住んでる年数じゃなくて何時頃からって意味だよ』 『だから3年だってば』 『ああ、、まあいいや。で、うちはどこ?』 『行くべき所はある、そろそろ行かなきゃとも思ってる』 『だね、家族が心配する。で、なんでこんな時間にここで一人?』 『心残りがあって』 『心残り? 心残りとか3年もここにとか、なんか幽霊みたいだね』 『だって私、幽霊だよ・・・』 (はあ・・・!?) 『幽霊って、足も有るし歩けば足音もするじゃん』 『最近の幽霊はハイブリッドなのよ、進化ってやつね』 はいはいわかりました。そういう設定ね。 じゃあ、渚さんは幽霊っていう "てい" で話を進めよう。 『で、幽霊の渚さんの心残りってなに?』 『ダンボール箱・・・』 『ダンボール箱・・?』 『うん、ダンボール箱』 『良かったら聞かせて、その心残り』 『いいよ、あのね・・・』 この時既に、俺は彼女のペースにはまってしまっていたらしい。 砂浜、夜中、女の子、幽霊、心残り、ダンボール箱・・・ このワードの羅列に興味を持つなという方が無理だ。 彼女は相変わらずな穏やかな口調で静かに話し始めた。 俺はそんな彼女の横顔をマジマジと見つめてしまった。 正確に言うと、もう目が離せなくなってしまっていた。 月明かりに照らされた彼女はこの世の存在とは思えない程に美しく、 俺は思わず息をのんだ。 (なんて、なんて綺麗な人なんだ・・・) 彼女は心残りの話を始めた。 To Be Continued ~次号へ続く~ (´o`)п(´o`*)п(´o`*)п ****************************     【編集後記】 何やら今までにない雰囲気の書き出しとなった今号、 如何でしたでしょうか? 幽霊とか心残りとかはよくある組み合わせワードですが、 そこに+ダンボールという組み合わせは聞いた事がありませんよね。 ダンボールが織りなす様々な人間ドラマが私は好きです。 そんな私にできる事が、このメルマガを皆さんにお届けする事。 そう思いながら執筆しています。 さて次号、彼女の心残りとは一体何なのか? そして彼女は本当に幽霊なのか? 全3部作。次号の後編、そしてラストの完結編へと続きます。 ぜひ次号も読んで頂ければ幸いです。 今号も最後までお読み下さりありがとうございました。 m(__;)m ライティング兼編集長:メリーゴーランド

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