ダンボール電車にさよならは似合わない■アースダンボールメルマガVOL154■2023年3月号
一緒に居たい人には『一緒に居たい』と言った方がいい。
別れはいつか必ず来てしまうんだから。
今一緒に居られるなら、一緒に居るべきだ。
(´o`)п(´o`*)п(´o`*)п
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『まもなく発車しま~す、発車しま~す』
『乗りま~す、待って下さ~い』
『それでは発車しま~す、出発しんこ~』
『ガタンガタン~ガタンガタン~』
ダンボール電車ごっこで遊ぶ子供達を見て、
私はふとあの時を思い出していた。
彼が私を一人ホームに残し、
電車に乗って行ってしまったあの時を・・・
私と彼はいわゆる幼馴染で、同じ保育園に通っていた。
私は彼、あっくんが大好きでいつも彼にくっついていた。
将来は絶対にあっくんのお嫁さんになると子供心に決めていた。
そんな猛烈アタック系女子の私を彼はいつもウザがったけど、
何だかんだで受け入れてくれる優しい彼が本当に本当に好きだった。
そう、あの時もそうだった・・・
『まもなく発車しま~す、発車しま~す』
『待って下さ~い、僕も乗りま~す』
『あっくん、乗りましたか~?』
『は~い乗りました~!』
『それじゃあ発車します。出発しんこ~!』
『待って、待って~!私も乗る~!』
『なんだよみっちゃん、もういっぱいで乗れないよ』
『やだやだ~、私も乗る~、あっくんと乗るの~!』
『だからもういっぱいなんだってば』
『やだやだ~、あっくん私をおいてっちゃやだ~』
『じゃあほら、ちょっときついけどここ入れよ』
『わ~い、あっくんと一緒~!』
『それじゃあ出発しんこ~!!』
ダンボール電車ごっこの時はいつもこんな感じだったな。
でも彼はどんな時も私を乗せてくれて、私はご機嫌だった。
本当に楽しかったな。
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そんな私達は小学校でも一緒、中学校でも一緒、勿論、高校も。
"付き合う"っていう言葉なんかは必要なかった。
思春期の気恥ずかしささえも味方につけ、私は彼から離れなかった。
ある時、高校の授業の職場体験で、私は保育園の先生体験を選択した。
そして保育園に全く興味の無い彼を強引に誘い、彼もしぶしぶ了承した。
職場体験とはいえ男子生徒の保育園体験は珍しかったらしく、
彼は子供達に大人気だった。
子供達が特に喜んだのは彼が作ったダンボール電車での電車ごっこ。
この日の為に彼は数日前からダンボール箱集めを頑張っていたようで、
どうやら彼も保育園体験が少し楽しみだったらしい。
電車ごっこが盛り上がる中、ふと女の子の声が聞こえた。
『私も乗りたい~!』
『もういっぱいだから乗れないよ~』
『やだ~一緒に乗りたい~』
私と彼の目が合い、互いにプっと吹き出した。
『どっかで見たような光景だな』
『そうね、どっかの誰かさん達と同じね』
『あの男の子、どうするのかな?』
しかし無残にも電車は女の子を残して走り出そうとした。
その時・・・!
彼が最後尾の"車両"の男の子に声をかけた。
『ほら、もう少し端によってあげれば一緒に乗れるよ』
『あ、そっか!ほら、ここに入れよ!』
『やった~、わーいわーい』
女の子は大喜びで電車に入り、電車は無事に女の子を乗せて出発した。
『やっぱりダンボール電車に置いてけぼりは似合わんよね』
そう言いながら優しく笑った彼の横顔を私は今でもハッキリ覚えている。
そうだ、ダンボール電車は誰も置いてけぼりになんかしないんだ。
なのに、なのに・・・
リアルな電車は誰かが誰かを置いて行く。
リアルな電車は私を置いて遠くへ行ってしまう。
そう知ったのはそれから1年後の事だった。
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その1年後の春の日、私は駅のホームに居た。
高校を卒業した私達は初めて別々の道を進み始めた。
彼は他県の大学に、私は地元の短大に進学した。
彼が一人暮らしをする為に家を出る、その出発の日。
私は彼を見送りに駅のホームに来ていた。
ああ・・・そうか、あっくん、もうすぐ電車で行っちゃうんだ。
ついさっきまでそんな事を想像すらできなかったのに、
駅のホームのざわめきがもうすぐ起きる現実へと私の感覚を呼び戻した。
別に永遠の別れじゃないし、
ケンカ別れした訳でもない、
いつでも会える、またすぐに会える、
お互いに選んだ道だ、彼は私を置いて行く訳じゃない、
それはわかってる。でも、でも怖い・・・怖いよ、
彼がそばに居ないのがこんなにも怖い事だったなんて。
怖さに耐えきれなくなった私は無意識のうちに口走ってしまった。
『この電車が、ダンボール電車だったらよかったのに』
『え?なにそれ?』
『ダンボール電車なら、私を置いて行かないんでしょ』
彼は黙ったままだった。
それはそうだ。旅立ちの前に一番困る事を言われたのだから。
二人に沈黙が続く中、彼の乗る電車がホームに入って来た。
『迎えに来るから、必ず迎えに来るから、待ってて』
彼は今にも泣きだしそうな私にそう言って電車に乗り込んだ。
『うん、待ってる、私も頑張る』
私は精一杯の言葉を振り絞った。
彼は最後まで笑顔でサヨナラをしてくれた。
リアルな電車はやっぱりリアルな電車だった。
何度見ても、いつまで見ても、ダンボール電車じゃなかった。
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それから二年後、私は短大を卒業して保育園の保育士になり、
更にその二年後、彼は大学を卒業して地元に帰って来た。
あのホームでの約束通り彼は私を迎えに来てくれ、私達は結婚した。
そして結婚から20年後、私達は二人の夢だった保育園を開業し、
彼は理事長として経営面を、私は園長として現場を取り持ち、
沢山の園児の笑顔に囲まれながら今を生きている。
そして今日も、ダンボール電車はカタンカタンと園内を走っている。
みんなを乗せてコトンコトンと走っている。
そんなこの子達を見ているといつもこう願ってしまいます。
乗りたい子が居たら乗せてあげてね。
乗りたかったらたら乗せて、ってちゃんと言ってね。
私を置いて行かないで、って言ってもいいんだよ。
一緒に居られるのは今しかないかもしれないから、
一緒に居たい人には『一緒に居たい』と言った方がいい。
別れはいつか必ず来てしまうんだから。
たとえ『一緒に居たい』と言ってもそれが叶わない時が来るとわかっていても、
今、一緒に居られるなら、それは一緒に居るべきなんですよ。
FIN
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【編集後記】
駅のホームでの別れを表現した歌って、
実は結構沢山あるんですよね。
イルカさん、ちあきなおみさん、奥井亜紀さん、
BUMP OF CHICKENさん、太田裕美さん、いきものがかりさん、
竹内まりやさん、中西圭三さん、高橋真梨子さん、
狩人さん、斉藤由貴さん、スキマスイッチさん、
それからそれから・・・
他にもまだまだ沢山ありますよね。
今号を執筆しながらそんな曲の数々を思い出していました。
貴方にもありますか?
駅で経験した悲しい、辛い、切ない別れ。
だからこそ、という訳ではありませんが、
今、一緒に居たいと思う人には、
『一緒に居たい』って素直に言えるといいですよね。
最後までお読み下さりありがとうございました。
m(__;)m
ライティング兼編集長:メリーゴーランド