時間よ止まれ -前編-■アースダンボールメルマガVOL168■2023年10月号
間違えない、ここだけ確かに時間が止まっている。
このダンボール箱の中の時間だけが・・・!!
だがこの箱を何に使えというのか?
神様は何故この箱を私に授けたのか?
そして私は科学者の禁忌(きんき)にこの箱を使ってしまった。
寿命に逆らうという禁忌を・・・
(´o`)п(´o`*)п(´o`*)п
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私は筑波奏太(つくばかなた)。
年老いた物理学者だ。
そして私は間もなく人生の終焉を迎えようとしている。
終焉と言っても大病をしている訳でもなく健康体だ。
だからこそ衰えがわかるというものだ。
恐らくもう長くは無いのだろう、
という実感が日に日に増している。
今日か、明日か、
もういつどうにかなってもおかしくはない。
長年の科学者としての経験がそう言っている。
私は科学者として自分にそう思わせるだけの実績を積んできた。
だからなかどうかはわからないが、
最近はあの時の事をよく思い出す。
あのダンボール箱の時間の秘密を知った時だ。
あれは私が小学4年生の時だった。
兄のおやつのアイスをくすねて見つかりそうになり、
慌てて近くにあったダンボール箱にアイスを隠した。
その場はやり過ごせたがその事をすっかり忘れてしまい、
4日後に思い出して恐る恐る箱を開けてみた。
すると・・・
"つ、冷たい!?ばかな!!"
驚きはしたが当時から科学オタクだった私は意外と冷静だった。
そして私は考えられるあらゆる実験を試みた。
保温性?真空状態?異次元?時間?
その結果、
このダンボール箱の中の時間が止まっている事がわかった。
更にそれが作動するトリガーは蓋を完全に閉じる事、
蓋を開けると再び時間が動き出す事も突き止めた。
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しかしそれを世間に公表もできず、
有効な使い方もできず数年が過ぎた。
私は物理学専攻の大学に進学し、
実家を出て一人暮らしを始めた。
しかし、オタクで更に寂しがり屋の私は
一人暮らしがどうにも寂しく、
実家に居た老猫の "アル" を
下宿先に連れて行って一緒に暮らしていた。
アルは私が小さな頃からずっと一緒で、
家族の中でも私に一番懐いていた。
因みに "アル" という名は
アルバートアインシュタインからつけた。
ある日、アルの体調が突然悪くなり、
アルは数日間苦しんだ。
幸いにも落ち着いたがその日以来、
アルは毎日ほぼ寝るだけの生活になった。
少しは起きて歩く、食は細いがご飯も食べる、
トイレも自分でできるが、いかんせんかなりの老猫だ。
いつどうなってもおかしくない。
私は突然、アルが居なくなってしまう恐怖にかられた。
私の知恵をどれだけ結集させても
現代科学では解決方法が見いだせなかった。
だが一つだけ解決方法が浮かんだ。
あのダンボール箱だ。
私は寝ているアルをそのダンボール箱にそっと入れて、
ゆっくり蓋を閉じた。
その時の私には何の疑問も、
罪悪感も、背徳感も一切なかった。
ただただ怖くて、必死で、
何かに憑(よ)りつかれたように正気を失っていた。
そう気づいたのは何年も経ってからだが、
その時にはもう遅かった。
後戻りもできず、アルの死と向き合うこともできなかった。
あの時、私はただアルの死から逃げてしまっただけだった。
そしてその後もずっと逃げ続けてしまったのだ。
だがいよいよ私の人生の終焉というその時、
私は初めてアルの心を知る事になる・・・
To Be Continued ~次号へ続く~
(´o`)п(´o`*)п(´o`*)п
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【編集後記】
時間が止まって欲しい、と思った事は、
多くの人にあるのではないかと思います。
では、自分以外の何かの時間が止まって欲しい。
そう思った事のある人はいらっしゃいますか?
最近では、マルチバースや虚質世界という言葉が
何となく身近に聞かれるようになり、
それらの世界との交わりを想像したりする事も増えた気がします。
だからという事ではありませんが、本当は自分が気が付かないだけで、
自分や色んな物の時間が止まったり早く進んだり、
また他の世界と行き来したりしているのかも、
なんて想像するとちょっと楽しくなったりします。
ん?ちょっと待って下さい・・・
あなたの側にあるそのダンボール箱の中、
時間、ちゃんと動いてますか??
さて次号、アルの心とは・・・?
今号も最後までお読み下さりありがとうございました。
m(__;)m
10月某日 ライティング兼編集長:メリーゴーランド