科学オタクのちょっと面倒な恋物語 -前編-■アースダンボールメルマガVOL174■2024年1月号

恋人の現れ方なんて人それぞれだ。 ほら、人の馴れ初めってドラマティックなのが多いし。 ただ大事なのは出会った事とそれからの事であって、 プロセスはそんなに気にしなくていいと思うんだよ。 例えばそうだな、その辺にある普通のダンボールが、 運命の出会いを連れて来てたりする事もあるんだよ。 (´o`)п(´o`*)п(´o`*)п **************************** 僕は下門丈一郎(しもかどじょういちろう)高校2年生。 いっちゃなんだが成績は優秀、全国模試も全国10位以内の常連だ。 勉強だけが取り柄とも言われがちだが、いやいやそんな事はない。 趣味は超常現象とSF、更に科学オタクと公私共に充実してる。 そしてもう一つ重要な事がある。それは… 彼女が欲しい!!! そんな切望を胸に抱きつつ今日も勉強に励んでいる。 どっからどう見ても健全で純粋な男子高校生だ。 そんなある日、僕は妙な事に気がついた。 学校の廊下の壁際にダンボール箱が置いてあったのだけど、 そのダンボール箱は翌日も同じ場所に置いてあった。 そしてその翌日も、更にその翌日も… 誰が何の為に置いた?中身は何だ? 気になった僕は蓋を少し開けてみたが、中身は空だった。 確かに壁際なら邪魔ではないが、不要物を置きっぱなしにする場所ではない。 それにこの箱、綺麗なフルカラー印刷が施されている。 華やかで自己主張もある、明らかに誰かが目的を持って作った箱。 まるで "自分はここに居るぞ" と訴えるような意志さえ感じる目立つ箱だ。 なのに不思議な事に、この箱に誰一人として目をやる人が居ない。 まるで誰にもこのダンボール箱が見えていないかのようだ。 僕はちょっとしたイタズラ心で、その箱を壁から少し離した位置に移動した。 しかしどうだ、やはり誰もこの箱に視線もやらないしぶつかる人も居ない。 まるでこの箱と周辺の空間が隔たれてるかのように、 歩行者は自然に、いや、"不自然な程の自然体で"箱を避ける。 マジで一体なんだ…?僕にしか見えてないのか? 僕の科学オタクの血がわずかに温度を上げ始めた。 そしてもう少し実証実験を続けてみる事にした。 学校中の、もっと人が通る場所でやや邪魔になり、尚且つ安全に配慮した、 ありとあらゆる場所にこのダンボールを置いてみた。 結果は、やはり同じだった。 このダンボール箱は僕にしか観測されて(見えて)いない!! ____________ これは凄い!凄い事が起こってるぞ!僕は興奮が抑えられなかった。 いや待て、いやいやもう少し冷静になれ。 実はこの学校の人間の全員が超無関心なだけで、 実験範囲を広げれば結果は変わるんじゃないか? そう思った僕は徐々に実験範囲を広げていった。 さすがに学校外だと万が一の時に『ごめんごめん』じゃすまない為、 人の完全な導線上は避けながら、数か所で実証実験を繰り返した。 そして街のかなり広い範囲まで拡張したが、結果は同じだった。 これはマジだ、いよいよマジだ! 抑えきれない興奮をどうにか抑えつつ、僕は最後の実験に臨む為、 街で開催されているある野外イベントに赴いた。 イベント会場内にはあらゆる場所に資材用のダンボール箱が積んである。 僕はその一角にしれっとこの箱を置いた。 あとはイベントが終わって撤収時にどうなるかだが… __________ 結果は、僕の想像を遥かに超えるものだった。 既に人や設備、資材の全撤収が完了しているにも関わらず、 このダンボール箱だけが "ぽつねん" と取り残されていた。 決まりだ!これは世紀の大発見だ!この箱は僕にしか観測できない!! これで実験は終了だ。 一人でガッツポーズしながら箱を回収しようとした時、 俺は突然ある事に気がついた。 あ、あれ?えっと、俺、もしかしてバカなのか… 俺だけが観測できる箱だとしたらどうやって他人に証明するんだ? いやだって、えっと…あああ~、何をどうすりゃ… 俺が突然途方に暮れ始めたその数秒後だった… "ボコン!" という鈍い音と女の子の声が響いた。 『うわ!誰よ!ここに箱なんて置いたの!蹴っ飛ばしちゃったじゃない!』 !?はっ!?箱にぶつかった…だと!? しかもこんな広い場所で、躓く物なんてこの箱くらいなのに! どんだけよそ見しながら歩いてんだよ!! いやそれは今はいい、僕以外でこの箱を観測した人間が現れたんだ。 どこかの学校の制服を着た女子高生らしきギャルが仁王立ちしていた。 僕は唖然としてフラフラと彼女に近づいた。 『ねえ、君…ちょっと』 『キャ!なに!?あんた誰よ!あ、もしかしてこれの持ち主!?』 『君、この箱が、見えるの?』 『あんた何言ってんの?やっぱりあんたが置いたの?  蹴っ飛ばしちゃったじゃない!スマホ見ながら歩いてた私もあれだけど!』 『すごい、初めてだ!ねえ君、付き合ってくれないか!!』 『はああ!?いきなり何?もしかしてナンパ?これナンパなの!?』 『違う、ナンパじゃなくて…』 『ちょ~最低、ちょ~迷惑!こんな小細工ナンパ初めて見たわ!!』 『だからナンパじゃ!!あ~もうっ!ちょっとこっち来て!』 僕は強引に彼女の手を取ってその場を移動しようとした。 『ちょっと離してよ!!大声出すわよ!ほら、出すわよ!!』 『わかった、離す!ちゃんと説明するから話を聞いて』 しばらくして二人共に落ち着きを取り戻した。 そして僕はこれまでの経緯を彼女に説明した。 『なるほど…話は理解できたわ。でもにわかに信じがたい。  つまりその…  "シュレディンガーの猫(※1)" 理論的にはこの箱は観測できるから実在は確定と。  さらに観測可能者が2人だけなのは "量子もつれ(※2)" 理論が関係してるかもと。  で、なんだかんだで一周回って3人目以降の観測者の存在を確かめたいと。  って何を言ってるんだか全然わかんないけど…  かと言ってあなたが嘘を言ってるようにも見えない。  あと、あなたがものすごく頭がいいってのもわかる。  でもやっぱり、もんのすごい手の込んだナンパの線もまだある』 『もうナンパは置いとけ。だから付き合って、は実験に付き合っての意味で』 『実験に付き合う、ねえ…。いいわ、その代わり条件がある』 『条件?』 『あなた勉強できるよね。その制服、慶陽(けいよう)高校でしょ。  超進学校じゃない。だから私に勉強を教えて。実はちょっと成績やばくってさ』 『成績がやばい?だって僕の話をそこそこ理解できてたっぽいじゃないか』 『私、人の話を聞いたりとか読解力っていうの、その辺は自信があるの。  でも理系の計算やら公式やらは全然ダメで。まじでヤバイのよ。』 『なるほど、それならお安い御用だ。よし、決まりだな』 『決まりね。私は美輪みのり。高校2年生よ。宜しく』 『僕は下門丈一郎。僕も高校2年生だ。宜しく』 こうして僕、みのり、そして第三の人物の存在を確かめる為の、 みのりとの共同実験が始まった。 その結果、僕は一番大切なモノを発見する事になるのだが… To Be Continued ~後編へ続く~ 98-2

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