科学オタクのちょっと面倒な恋物語 -後編-■アースダンボールメルマガVOL175■2024年1月号-2
一番大事な物を探していたら、
それは意外なほど自分の近くに既にあった。
いつも一緒に居て気がつかなかったけど、
その人は自分の一番大事な人だった。
でも、これに気づけずにいる人のなんと多い事か。
その点、僕はとてもラッキーだった。
あのダンボール箱が僕に送ってくれたサインに、
僕は気づくことができたんだから。
(´o`)п(´o`*)п(´o`*)п
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僕は下門丈一郎(しもかどじょういちろう)成績超優秀な高校2年生。
超常現象とSF、科学オタク趣味をこよなく愛し、そして彼女が欲しい、
健全で純粋な男子高校生だ。
そんなある日、僕は学校内で "僕にしか観測でき(見え)ないダンボール箱"
の存在に気づき、科学オタクの僕は "僕以外に観測できる人が居るか?"
という実証事件を日々繰り返していた。
数か月間に渡り、安全を考慮したあらゆる場所にこのダンボール箱を置くが、
このダンボール箱に気づく人、視線を送る人、ましてや箱の近くを通っても
ぶつかりそうになる人さえ、一人として現れなかった。
そして最終実験場所として選んだとあるイベント会場でも、
このダンボール箱を観測できる人は存在せずと確定、実験を終了しようとした時、
よそ見して歩いていた一人のギャル女子高生が、突然この箱を蹴飛ばした。
それはこの箱を観測した僕以外の初めての人物だった。
"箱を置いてぶつかった人に声をかける新手のナンパ男"
と勘違いされた僕だったが何とか今までの経緯を彼女、美輪みのりに説明し、
第三の観測可能人物を探す為の共同実験を彼女に持ちかけた。
"僕が彼女に勉強を教える" という条件付きで彼女は快諾し、
僕とみのりの共同実験の日々が始まった。
(´o`)п(´o`*)п(´o`*)п
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『本当だ、誰もこの箱に気が付かないのね…』
共同実験を始めてすぐに彼女はこの箱の不思議さを認識した。
それから僕達は多種多様な場所で実験を繰り返し、
僕達以外でこの箱が認観測できる第三の人物を探し続けた。
同時進行で彼女には約束の勉強も教え、二人で一緒にいる時間が増えた。
実験や先生役に夢中で気が付かなかったが、
女の子とこうして過ごすのは僕の人生で初めてだった。
そしてそれは、とても心地のいいものだった。
そして共同実験開始から三ヶ月が経った頃、ふと彼女がこうつぶやいた。
『ねえ丈(じょう)くん、もし第三の人物が現れたらどうするの?』
『ううん、、まだ考えてない、かな』
『じゃあさ、現れなかったらどうするの?いつまでやるの?』
『ううん、、それも考えてない、かな。みのりはどう思う?』
僕達は互いに名前で呼びあう仲になっていた。
『私は、結構楽しいからこれはこれでいいけど』
『楽しい?』
『ほら、私ギャルだし友達と目的もなくぶらぶら過ごすだけだったからさ。
なんか目的を持って行動してる感じで、こういうの初めてで楽しい!』
『そうか、そういう楽しさもあるんだな』
『うん、あるんだよ』
『なあ、みのり、現れると思うか?第三の人物』
『わかんない。でも多分、現れないと思う』
『そっか、現れないに一票か…』
『現れない、と思いたい。っていうか現れないで欲しい、かな』
『現れないで欲しい?なんで?』
『丈くん、頭はいいけど色々鈍感すぎだよね』
『鈍感?何がだよ、俺程に繊細な人間も珍しいぜ』
『繊細!? ップ!アハハハ~°・(>▽<)・°
あーおかしい!どの口が言うかな~それ!!
(ほんっと鈍感、一周回ってもうバカよバカ(*´д`)=з)』
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その日以来、みのりの言葉が頭の中でよくリフレインされた。
確かに、僕は一体どうしたいんだろう?
実験の末に第三の人物が現れたとして三人でどうしたいんだ?
或いは現れなかったとして、この世で二人しか観測できない箱をどうしたいんだ?
最初こそ科学オタク魂が発動してしまっただけで、
実は自分でも何がしたいのか、今はよくわからない。
本当は心のどこかでそんな気がしていたんだ。
じゃあなぜ僕は今も実験を続けているんだ?
やめるにやめられないだけか?いやそんな事はない。
何故ならみのりと出会う直前、僕は一度実験を終了しようとしたじゃないか。
なのに今はそれ以上の時間の実験を続けている。なぜだ?
最初の頃と今と違う点は何だ?わからない、どうしてもわからない。
まあ、この考えは一旦置いておこう。そして思考を閉じようとした瞬間、
突然、解(カイ)が降って来た。
…あ、大きな違いがあった…!!
なんで今まで気が付かなかった。すごく大きな違いがあるじゃないか!!
最初の頃と今と違う事、それは…
…みのりが居ることだ…
やっと見つけた!最初にこの箱が僕にしか観測できなかった意味。
そして僕とみのりにしか観測できない今が、この実験の終着点「解」だったんだ。
明日、いや今すぐ、みのりにも伝えよう!
_________
『みのり、今日で実験を止めよう』
『止めるって、なんで?』
『この間みのりに言われた事をずっと考えててさ、
この箱の存在意義と、今実験を止めるべき理由がわかったんだよ』
『じゃ、助手として聞かせてもらおうかしら、博士さん?』
『この箱の最大の意味は、みのり、お前と出会えた事だ。
今実験を止める理由は、第三の人物はむしろ不要だからだ』
『ふ~ん…丈くんにしてまあまあね。
じゃあその意味や理由を「正」とした上で、丈くんは何をどうするの?』
『まずはあの日の行為を、ナンパだったと認める!そして責任を取る!』
『ナンパの責任って?』
『だからその、みのりに・・フラれたらあきらめる、』
『なるほど…じゃあ私も真剣に受け止める必要があるわね。
なら改めて、あの時のセリフをもう一度聞こうかしら!!』
『ああ、お安い御用だ。言うぞ、言うからな、よく聞けよ。
つ、付き合ってくれ!!みのり』(*」>д<)」
『プッ…フはは!あはははは!!』(≧ε≦*)
『な、笑う事ないだろ!!』
『ごめんごめん、いやあ、何周も回って結局私があの時言った通りになったなって。
もんのすごい手の込んだナンパに、本当になったね!』
『否定は、しない…』
『いいわね、最高の展開!でもOKするには条件があるわ』
『条件?一応、聞こうか』
『これからもさ、勉強教えてくれる?』
『ふっ…ああ、それならお安い御用だ』
この日、僕に念願の彼女ができた。
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数日後…
『ねえ丈くん、一応数か月の丈くんの助手として言っとくわ』
『なんだよ、』
『丈くんの実験、設定条件が甘かったと思うのよ。安全性を優先させ過ぎっていうか。
例えばそうね、駅の改札の真ん前とか、そのくらいじゃなきゃ』
『いや、いくら何でもそれは危なすぎるだろ』
『確かに。まあそれは冗談だけど、そのくらいやらなきゃ
真実は得られなかったんじゃないかしらって例えよ。やっちゃダメだけどね。
ただそれを差し置いてもあの箱のほっとかれっぷりは驚異的だったわ。
私もあの箱は本当に特別な何かがあったんじゃないかと思う。
それに、通り過ぎた全員が本当に只ほっといた線も、0.00何%か残ってる。
絶対あり得ないと思える現象と万が一あり得るかもしれないっていう、
絶妙なバランスの間に存在していた箱だったわね』
『みのりも随分言うようになったな』
『丈くんとずっと一緒に居て科学オタクがすっかり感染(うつ)ったわ。
ところで、あれからあの箱どうしたの?』
『ああ、捨てた。捨てたっていうかリサイクルに出した』
『ええ!何で!?』
『何でって、決まってるだろ。
あの箱が仮に科学を超越してたとして、万が一にも第三の人物が現れたら、
余計な揉め事にしかならないからな。それが男でも女でも。
第三、第四の人物は俺達には不要なんだ。
ワンチャンあの箱がリサイクルで生まれ変わったら、
また別の誰かと誰かを出会わせるだろうさ』
『なるほどね。とてもいい「解」だと思うわ』
FIN
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【編集後記】
あなたは、
この箱、本当に不思議な力がありそう…という視点、
あるいは、主人公の妄想じゃないだろうか?…的な視点、
どちらよりの視点で読み進められましたか?
私達の生活は時にシンプルで時に複雑で、
現実的な事が主で、でも不思議な事も確かにあって、
そして時にはその両方が混ざり合ったり。
私は、今回の二人のように、いわゆる "運命の人" との出会いというものには、
その両方の要素を感じてしまいます。
しかも、"不思議" の方のウェイトを大きく感じるのです。
例えばある物や現象が、多くの人には何でもない物であるのに、
ある二人だけはそれが特別な物に見えて、認識して、共有して。
ちょっと言葉での説明は難しいですけど、逆に言えばこの難しさの説明に、
人は "運命" という言葉を借りているのかもしれませんね。
で、私達は常に、ダンボールがその物の役目を果たせたらいいなと、
日々思っている訳でして…
今号も最後までお読み下さりありがとうございました。
m(__;)m
ライティング兼編集長:メリーゴーランド