70歳 新しい恋、始めます -後編-■アースダンボール メルマガVOL110■2021年5月号
~前号までのあらすじ~
人生100年時代となった2051年の今年、
73歳になるばあちゃん(橘春子)の病院送迎の帰り、
たまたま一緒に寄った喫茶店のマスター、聖(ひじり)さんと、
ばあちゃんとじいちゃんの3人が実は幼馴染だったと知った。
そしてばあちゃんは18歳の時どちらと結婚するかで悩み、
悩むばあちゃんを見かねた当時のじいちゃんとマスターは、
"ダンボールサイコロで決めてくれ"と提案(決断)する。
ばあちゃんはその決断を受け入れてた・・・
マスターの前で、ばあちゃんは僕にそう話してくれた。
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ばあちゃんは話しを続けてくれた。
『そんな大事なことをダンボール箱で決めるなんて!!
そう思うわよね。
でもさっきも言ったようにそのダンボール箱は特別でね。
子供の頃の私達は何でもこのサイコロに決めて貰ってね。
とっても、とっても楽しかったわ。
この箱は子供の頃の私達3人の思い出が沁み込んだ箱。
いつも私達を繋げてくれていた存在。
不思議と、この箱が言うならって思うことができたの。
だから私には二人がどれだけ本気かすぐに理解できたし、
二人にそんな決断をさせてしまったのは、
いつまでも決める事ができないこの私・・・
だから私も二人の提案を受け入れる覚悟を決めたの。
奇数が出たら聖さんと、偶数なら橘と結婚すると』。
『でもその時、春子さんはこう言ったんですよ・・・』
と、マスターが口を開いた。
『"二人だけにそんな事をさせる訳にはいかない。
私も二人と同じリスクを負うから私にも2マス分けて。
その目が出れば、どちらとも結婚しない"・・・と。
春子さんも私達と同じ覚悟を共有してくれたんです』。
『でも不思議ね、同じ運命を受け入れようと決めたその時、
三人の心がまた一つになれた気がしたわ・・・
子供の頃、その箱の前でそうだったようにね』。
ばあちゃんが再び口を開いた。
『そして私達は自分の心をダンボール箱に託したの。
いや、そのダンボール箱は私達の心そのものだった。
だからこの箱が出す答えなら、後悔はない・・・って』。
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・・・・・・・・・
僕はいつの間にかうつむいて聞いていた。
ダンボール箱に結婚の運命を託す・・・
それほどまでの事を何かに託す、覚悟を決める、
そんな経験の無い僕には全く想像もつかないほどの、
激しくて切ない、優しくて悲しい、そして強い心。
その時の三人の気持ちを想像しただけで、
僕は言葉を発することすらできなくなっていた。
(俺のばあちゃんって、すげえ人なんだな・・・)(´-`).。oO
そう心でつぶやいた時、僕の頬に涙が伝った。
『それで、箱の答えに従ったんだね・・・』
『そうよ、お前のおじいちゃん、橘と結婚して、
お前のお父さんが産まれて、お前が産まれたの。
そしてお前は偶然にもここに連れて来てくれた。
ありがとうね、本当にありがとうね』。
僕の涙は止める事ができない程溢れていた。
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帰りの車中、ばあちゃんはいつもの雰囲気だった。
でも僕はほとんど黙ったままだった。
僕は気恥ずかしさを中和しようとカーラジオをつけた。
『さあ今日のメールテーマは
"恋に年齢は関係ある?ない? 再婚するなら何歳まで?"
でリスナーの皆様からのメールをお待ちしてますよ!
早速一通ご紹介しましょう~。
ラジオネーム 浪速の親分さん からのメールです。
"私の祖父は75歳で再婚しました。
祖母は20年前に病気で他界しましたが、亡くなる前に、
いい人が居たら再婚してね、と祖父に言っていたそうです。
そして祖父は実際にいい人との出会いがありました。
人生100年時代、まだまだ幸せでいて欲しいです"
なるほど~75歳!今は珍しい時代じゃないでよね~!
まだまだ皆さんからのメールをお待ちしてますよ~♪』
僕はミラーからそっとばあちゃんを覗き込んだ。
ばあちゃんは窓の外を眺めながら風にふかれて笑っていた。
その時、頭の中にぽんっと幸せな情景が浮かんだ。
更にその情景は瞬く間にどんどん膨らんでしまった。
『ねえばあちゃん、あのさ、もしいい人が居たらさ、
再婚とか、あり・・・?』
『なあに?突然・・・そうねえ~、
お前のおじいちゃんが15年前に亡くなった時も、
今のラジオみたいなこと言ってたわねえ。
もしいい人居たら、あの時みたいに悩むなよって』。
『そっか、じいちゃんそんな事言ってたんか・・・。
そう言えばさ、
聖さんの奥さんも何年も前に亡くなったって言ってたな。
ねえ、また一緒に行こうよ、聖さんの喫茶店にさ』。
『ええ??、うん、それはいいけど。
いいけど・・・
そうね、また、また連れてってちょうだい。
ところでお前、彼女は居ないのかい?
こうして送り迎えしてくれるのは嬉しいけど、
休日くらい彼女と出かけたりもしないとね~』。
『ご、ごもっともです・・・あはは~・・』o(‐д‐ヾ)
ばあちゃんはまた窓の外に視線を戻した。
バックミラー越しに映るばあちゃんは優しく微笑んで、
気持ちよさそうに窓から入る風を感じているようだった。
その横顔にふと、若い頃のばあちゃんを垣間見た気がした。
FIN
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【編集後記】
段ボールサイコロで決めた、とそこだけ切り取ると、
"あり得ないでしょ~"と思いますよね。
でも"事実は小説よりも奇なり"という言葉もあります。
実はあなたの結婚や恋愛、それ以外の場面でも、
この3人以上の"あり得ない方法の決断"が
あったりしたんじゃないですか・・・?('v`b)
少なくとも、時として心ではない物理的なものが、
心そのもの、魂そのものになるっていう感覚、
何となくわかる気がします。
それはダンボールだけじゃなくて、
あなたが扱っている、大事にしている商品やサービスも、
同じだと思うんです。
最後までお読み下さりありがとうございました。
m(__;)m
5月某日 ライティング兼編集長:メリーゴーランド