時空超越ダンボール!?■アースダンボール メルマガVOL120■2021年10月号
もし、過去の自分、未来の自分に送れる箱があったら、
どちらを使いますか? どんな風に使いますか?
その箱は確かに存在した。だって僕はその箱を使った本人。
でも誰もがその箱を手にできる訳ではないらしい。
本当に必要な人にしか購入ページへのバナーは見えない。
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あの時、僕は人生に疲れた30歳だった。
本当に色々あって、悩んで、辛くて、苦しくて・・・
もう全て投げ出してどこかに消えてしまおうと考えていた。
そうだ、僕の事を誰も知らないどこか遠くの街に行っちまおう。
ボストンバッグ1つでってのは何だし、幸い貯金も車もある。
引越しみたいに荷物をダンボールに詰めて車に積んで・・・
僕はネットでダンボール箱を買おうとした。
"ダンボール箱" と検索すると"アースダンボール"が出てきた。
『ま、どこでも、ここでいいや・・・』
僕はホームページで回るカルーセルをぼーっと見ていた。
すると・・・こんなバナーが見えた
《過去の自分に送れる箱、未来の自分に送れる箱はこちらです》
んん?? なに、今のバナー??
僕が再確認すると確かに、過去に未来に、と書かれていた。
何の冗談かとバナーをクリックし、商品説明欄を見た。
■この箱を使えるのは人生で1度だけです。
■発送の際は付属の専用伝票に宛名と受取希望日のみご記入下さい。
ご住所の記載は不要です。地球上のどこに居ても届きます。
■歴史保全の為、未来もしくは過去の貴方が箱を受領すると、
今の貴方のこの箱に関する記憶は全て消去されます。
■未来へ送る際で受取希望日までに貴方が亡くなっていた場合、
発送から2日後に貴方に返送されますが2度目の使用はできません。
読み終えた僕は意外と冷静だった。
茶番ならそれでもいい、新しい人生の前にこれで楽しむか。
僕は引越し用の箱のついでにその箱を買った。
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僕はまず過去の自分に送ることを考えた。
道を間違えたのは人生のどこだ?その時何が必要だった?
もう散々考え尽くしたはずなのに、僕は再び考えた。
ただ何度考えてもやっぱり同じ結論に至った。
お金以外に過去の自分に送れる物は無い。でもお金じゃダメだ。
どの場面でどんな選択をしても、今の自分に繋がると思った。
僕は視点を未来に移した。
でもやっぱり未来の自分に送ってやれる物も思いつかなかった。
この箱、案外使い道が無いな、と思った。
そして半ば投げやりになった僕は一言だけ書いた紙を箱に入れた。
"今、幸せか?幸せである事を願ってるよ"
それは未来の自分への手紙のような物だった。
願いのような、祈りのような、希望のような・・・
未来の自分へのせめてもの、ささやかな想いだった。
今の俺にはこんな使い方しか思い浮かばないよ。
多分、この箱の本来の使い方じゃないんだろうけど。
僕は受取希望日を10年後の今日にして箱を送った。
これで今の俺の記憶が消えれば、10年後の俺が箱を受領したって事だ。
今から2日後、もし箱が戻ってくれば、僕は10年以内に死んでるって事だ。
これから起こる事とその意味を頭で整理し、2日後を待った。
しかし2日後、箱も戻ってこないし記憶も消えなかった。
10年後の俺、死んでもいないし受領もしてないのか?
それともやっぱり騙されたんかな、まあそうだよな。
箱の事は忘れ、僕は旅立った。車を北へ北へと走らせた。
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どのくらい走っただろうか・・・
僕は小さな港町に居た。何となく懐かしい感じのいい街だった。
まだ何も決めてはいなかったがこの街にしばらく居ようと思った。
その夜、僕はこの街の場末の小さな居酒屋に入った。
地元のお客さん達で賑わった店内の一番隅っこの席に座った。
すると一人の店員の女性が注文を取りに来た。
『いらっしゃい、何にします?』
『ビールと、なにかお勧めのつまみをお任せで』
『ビールとおつまみね! ねえお客さん、どこからきたの?』
『ああ、と、東京から・・・』
『ふ~ん、東京、珍しいね~。ゆっくりしてってね!』
『お~い、冬子(とうこ)ちゃ~ん、こっちにもビール~!』
『はいよ~、今持ってくよ~!』
人懐こくってサバサバしてて、親しみあるいい感じの人だった。
冬子さん、ていうのか。この店の看板娘さんなんだろうな。
深夜、店も終わり街も寝静まり、僕は車の中で寝ていた。
すると車の窓を"トントン"と誰かが叩いた。振り向くと冬子さんが居た。
『やっぱりお兄さんの車だった!』
『冬子、さん、でしたっけ、一体どうしたんですか!?』
『まあ別に~、お兄さん何となく行くとこ無さそうだったから。
あ、これお店の余りだけど良かったら食べて!』
『あ、ありがとうございます』
『私は冬子、夏瀬冬子。夏と冬が同居なんて変な名前でしょ!』
『俺は穂高(ほだか)、永井穂高、宜しく』
突然のことでびっくりしたが、僕はありがたくそれを頂いた。
そして僕らは岸壁に腰掛け、海の音を聞きながら話し込んだ。
冬子さんは僕と同い年。家族も身寄りも居ない天涯孤独の身で、
この街で居酒屋を手伝いながらひっそりと暮らしていた。
そして初対面と思えない程一緒に居て安らげる感じの人だった。
『ねえ、冬子さん、なんで、僕に?その、優しくっつうか』
『う~ん、なんか寂しそうだったから、かな』
『まあ、当たってるかも・・・』
『ねえ、穂高、さん、東京の話、聞かせてよ!』
なんか凄い事とかびっくりする事とか不思議な事とか!』
『う~ん、すごい、びっくり、不思議か~、あ、そういえば!!』
僕は彼女に例の箱の事を話した。
『え!?その箱本当に発送したの~!?穂高って面白い~!』
『はは、やっぱりそうだよね、我ながら俺もそう思・・・』
『でも・・・でもなんか素敵・・・』
『素敵・・・?』
『うん、素敵。ねえ穂高、私、その箱が届くの見たい』
『ええ!?それじゃあ10年は俺と一緒に居ないとだぜ!』
『私は、いいよ・・・ほ、穂高は・・・?』
あの箱の話がきっかけとなり、僕達は一緒に暮らし始めた。
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彼女との暮らしはとても質素でつつましやかなだった。
でも僕の人生で一番温かくて安らぎに満ちた時間だった。
僕は幸せだった。彼女をずっと守りたいと思った。
そして2年後、僕達は結婚し、娘にも恵まれた。
そして10年が過ぎ、僕達は箱の配達日の朝を迎えた。
その間も彼女は箱の事をひと時も忘れることなく、
最後の一か月は日々のカウントダウンまでしていた。
たとえそれが嘘でもいい、僕達の縁のきっかけの箱だからと。
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10年前の僕に箱が戻ってこなかった答えはほぼ出せた。
僕は途中で死ななかったからだ。
じゃあ、あの日から今日まで記憶が消えなかった理由は?
僕は今日、箱を受領するのか?しないのか?
ピンポ~ン"こんにちは!宅配便です~!"
配達員さんが持ってきたのはあの日の箱だった。
僕は箱を手渡され、受領印を押そうとしていた。
僕がこのまま受け取れば、あの日からの箱の記憶は消える。
消える・・・のか?
い、、、イヤだ、消えて欲しくない!!
もし消えてしまったら、冬子に箱の話をできなかった。
一緒に暮らそうと互いに言い出せなかったかもしれない。
今の幸があるのは記憶が消えなかったからだ。
記憶が消えなかった答えよりこの10年の方が何億倍も大事だ!!
その時ふっと思いついた。
受領しなければ箱の記憶は消えないんだろ。なら・・・
『すみません、この箱、受取拒否します』( ー`дー´)
配達員さんは一瞬きょとんとした後、
『はい、わかりました』(^_^)と笑顔で箱を持ち戻ってくれた。
僕は箱を受領しなかった。だから記憶が消えなかったんだ。
答えなんてどうでもいいと思った時、
それより大事な物を守りたいと思った時、僕は答えにたどり着いた。
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もしあの箱を受取っていたら・・・?今でも時々考える。
でもその考え自体が不必要な事も知っている。
だってこの10年間の日々が、冬子に会ってからの時間が、
僕に幸せをくれたんだから。ただどうしても気になって、
今でも時々アースダンボールのホームページを見る。
でもあのバナーを見ることは2度と無かった。
するとアースダンボールから一通のメールが届いた。
メールの送信日は10年前、内容はこうだった。
"今回お買い上げ頂いた箱はいかがでしたか?
宜しければぜひご意見などを・・・・・"
僕はゆっくりと商品レビューを書き始めた。
FIN
【編集後記】
大事な思い出を胸にしまって強く生きるとか、
だからこそ今を大事に精一杯生きるとか、
時々でもいいので人生の何かのタイミングで、
その事を思い出してみるのも必要なのかなって思います。
さてあなたなら、
過去の貴方に送れる箱、未来の貴方に送れる箱、
どっちをどんな風に使いますか?
購入ページへのバナー、現れるといいですね~^^
今号も最後までお読み下さりありがとうございました。
m(__;)m
ライティング兼編集長:メリーゴーランド