純情回収ダンボール■アースダンボールメルマガVOL133■2022年4月号-2
『ちょ、ちょっとごめんなさい!』
私はこぼれそうな涙を必死にこらえて、
そう言って急に席を立って駆けだした。
その後の事はあまりよく覚えていない。
ただ覚えているのは積まれたダンボール箱が、
床にバラバラと落ちた乾いた音だけ。
あの日から、私の純情の隣りにはあの音が居る。
(´o`)п(´o`)п(´o`)п
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『遥(はるか)先輩、私が半分持ちますよ!』
『あら瞳(ひとみ)ちゃん、ありがとう、助かるわ』
『いえいえ、どって事ないですよ』
『気のせいかしら、私がこうやって箱を沢山抱えてると
必ず瞳ちゃんが助けに来る気がするんだけど』
『え!?偶然ですよ、偶然・・・』
『そうかしら?この会社は広くて人も多いけど、
こうして瞳ちゃんに助けられた人の話、結構聞くわよ』
『いや、本当に偶然ですよ~』
『まあこっちは助かるし、あなたの評判もいいわよ』
『そう言って貰えると嬉しいです』
私は瞳(ひとみ)、23才、入社1年目の庶務課新人OL。
さしあたって何のとりえもない私だけど、
実は私には特殊なセンサーがある。それは・・・
箱を沢山抱えている人を見つけてしまうセンサー。
ただ私の視界にそういう人が入るんじゃなくて、
そういう人が居る場所に私が動いてしまう。
そしていつも運ぶのを手伝う、手伝ってしまう。
このセンサー、一体なぜ?
あの日の自分を消してしまいたいという願望か、
あの日、人に迷惑をかけてしまった贖罪意識か、
そう、事の始まりはあの日・・・
(´o`)п(´o`)п(´o`)п
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それは私が18歳、コンビニでバイトしていた頃の事。
バイト仲間で二つ年下の男の子、幸樹(こうき)君は、
私を『瞳先輩、瞳先輩!』と慕ってくれる子だった。
私もいつしか幸樹君を意識するようになっていた。
ある日、幸樹君から
『一緒に水族館に行ってくれませんか?』
と誘われた。お願いされた?っていう感じもした。
付き合ってる人も居ないし、私はOKした。
彼は『やったあ~!』と言って喜んでいた。
もしかしてこれってデート?デートのお誘い?
そんな淡い妄想と少しの期待が頭をよぎった。
その日から私の中の彼が更に大きくなっていった。
当日は何を着て行こうかしら?
彼に合わせて少し可愛めのコーデかしら?
それとも年上アピールのシックなコーデ?
で、もしかして、当日は告白とか!?
うわああああ~!!
私はメチャクチャはしゃいでいた。
今考えてもとても純粋で純情、だったな。
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そして当日・・・
水族館はとても賑わっていた。
そんな中、彼は常に私を気遣っくれていた。
『疲れてませんか?少し休憩しましょうか』とか、
『ここのクレープが美味しいみたいですよ』とか、
おそらく下調べもしてくれていたのだと思います、
年下とは思えないエスコートぶりを見せてくれた。
私は本当に楽しくて、気分も良くて、
案外、年下の彼もいいかも・・・
なんて思い始めていた。
そして夕方、私達は水族館併設のレストランへ入った。
夕日が差し込むとても雰囲気のいいレストランだった。
『素敵なレストランだね、よく席が空いてたね』
『実は前もって予約してたんす、、、』
これは・・・たぶん決定的!?
雰囲気もタイミングも、条件は揃った。
すると彼が『瞳先輩、実は・・・』と話し始めた。
(来る!?来るの!?ちょ、ちょっと待って!!)
私の頭の中は期待の頂点に達していた。
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『瞳先輩、実は俺・・・』( v v)
『うん、なに?(遂に来る!?)』( ゚ロ゚)
『俺、ずっと好きだった女性(ひと)が居て』( v v)
『うん、うん、(誰?誰の事!?)』( ゚ロ゚)
『その人に告白しようと思って、
一生懸命考えたんす、今日の、このプラン』( v v)
『うん、うん、(いいプランだったわ!)』( ゚ロ゚)
『で、先輩に聞きたいことがあって』( v v)
『うん、うん、(彼氏は居ない!居ない!)』( ゚ロ゚)
『このプランで、ここで告白したら・・・』( v v)
『うん、うん、(告白したら?)』( ゚ロ゚)
『せ、成功すると思いますか!?』(//∀//)
『うん、するよ!絶対すると思う!』(」°ロ°)」
『っしゃああ~!!!瞳先輩の太鼓判ゲット~!
俺告白します!同じクラスの女の子に!』ヾ(´∀`)
『・・・え?・・・同じ、クラ・・・』(∵)
その後の事はよく覚えていない。
辺りの音が全て聞えなくなって、
何度もガッツポーズしてる彼が目の前に居て、
ほんの十数秒、私の意識はどこかに行ってて、
意識が戻ったら目から涙が落ちる寸前だった。
『ちょ、ちょっとごめんなさい!』
私はこぼれ落ちそうな涙を必死にこらえ、
そう言って急に席を立って駆けだした。
人込みをかき分けて扉を開けて出ようとした瞬間、
"どん!!" と派手に人にぶつかり・・・
その人が持っていた数箱のダンボール箱が、
"ドカドカドカ~!!"と床に崩れ落ちた。
彼の言葉のショックと人にぶつかったショックと、
大きなな音と共に床に散らばった箱、箱、箱・・・
それを見た時、私の心の糸は "プツン" と切れた。
そして私は泣き出した。。
"私の純情を返せ" 声に出せない叫びを心で叫んで、
人目もはばからずにわんわん泣いた。
(´o`)п(´o`)п(´o`)п
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今ではもういい思い出・・・
何も知らずに一人で勝手に期待して舞い上がって。
でもあれは確かに私の純情だった。
そして"あの純情"は箱が崩れる乾いた音と共に砕け散った。
あれから男性にときめく時はいつもあの音が聞こえる。
もう数年経つけど、あの音はやっぱり少し切ない。
あの音を聞かずに済むなら、そうなりそうな人を助けたい。
そして私のセンサーは、今日も感度がいいらしい。
ただ、今日はいつもと何かが違う気がする・・・
休憩時間に何気なく会社の廊下を歩いていると、
顔も隠れる程の箱の山を抱えた男性がよろけて歩いてきた。
私は、誰かもわからないその男性にそっと声をかけた。
『大変そうですね、手伝いましょうか?』(*゚ー゚)
『その声は、もしかして瞳さん?』(´ー`)
『え?私の事ご存知の方なんですか?』(*゚ー゚)?
『ええ、直接お話しした事はないですけど。
でも瞳さんとお話したいと思ってまして』(´ー`)
『私と?っていうか見えないのに私だってわかるの?』(*゚ー゚)?
『同僚に聞いたんですよ。瞳さんと話したいなら、
大量の箱を持って歩けば向こうから来るってね』(´ー`)
『あ~、なるほど、確かにあってるかも・・』(*゚ー゚)
『早速ですけど、箱の上半分を持ってくれますか?』(´ー`)
『ああ、はいはい、よいしょっと・・・』( ̄▽ ̄)
私が半分受け取ると、男性の顔がやっと見えた。
『あなたは同期の、入社式で一緒でしたよね』(*゚∀゚)
『三上(みかみ)です。やっと瞳さんと話せた。』(´∀`)
『ふふふ、なんか変なキッカケですね』(*゚∀゚)
『いやあ、僕的には作戦大成功です~!!』(´∀`)
私の心が "なんか素敵な男性(ひと)だな" とときめいた。
でも、あれ? 聞えなかったの、あの音が・・・
その日以来、私のセンサー感度は少しづつ鈍り始め、
そのうちセンサーは完全に機能しなくなった。
もうセンサーは不要になったって事?
彼に、三上さんに出会えたから?
ううん、それは考える必要ないわね。
それより久しぶりに会えたわね、素顔のままの、私の純情。
ずっとあなたに会いたかったの。
FIN
(´o`)п(´o`)п(´o`)п
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【編集後記】
もう一生誰かを好きになんかならない!!
そんな恋愛経験は、やっぱり辛いですよね。
それでも人はまた誰かを好きになる。
それでも人はまた誰かと一緒に居たくなる。
誰も一人になんてなりたくない・・・
その時ダンボールに何ができるんだろうと、
思って今号を執筆致しました^^;
最後までお読み下さりありがとうございました。
m(__;)m
4月某日 ライティング兼編集長:メリーゴーランド