泣きたい、泣けない、■アースダンボールメルマガVOL132■2022年4月号
必ず泣けるとか、全米が泣いたとか、私そういうの嫌い。
泣くお話が嫌いなんじゃない。本当は好き。でも、
そんなに泣けるなら私を泣かせてほしい。
本当に泣くべき時に泣かなかったあの日から、
私は何を見聞きしても私は泣けなくなった。
あの時、いっぱい泣けば良かったのに。
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私は詩織(しおり)、14歳の女子中学生。
母が私が5歳の時に離婚して家を出てからずっと父子家庭。
理由は未だに聞いてないけど、他に好きな人がどうとかで。
でも私には"私を残して行った"というイメージだけがある。
そんな母だが全く疎遠だった訳では無く時々会ってもいた。
でも心から親しく接することができなかった。
その母が一年前に突然亡くなった時、私は泣かなかった。
"私を残して行った人の為になんか泣かない"
母が亡くなって以降そんな気持ちを持ち続けてしまい、
それがきっかけで私の"泣く回路"は接触不良になった。
だから、本当に泣かなきゃいけない時にちゃんと泣く、
っていうことがどれ程大切な事か私には痛い程わかる。
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そんなある日、親友の保奈美(ほなみ)の家に遊びに行った。
保奈美の家に着くと保奈美のお母さんが、
一抱え程のダンボール箱を車から降ろしていた。
『おばさん、こんにちは!』
『あら、詩織ちゃん、いらっしゃい』
『その箱なあに?重い?手伝おっか?』
『大丈夫よ。ちょっと翔(かける)にサプライズなの!』
『へえ~!翔くんに? なになに~?』
『うふふ、そのうち翔が詩織ちゃんにも見せると思うわ』
『へえ~そうなんだ~。じゃあ楽しみにしてるね』
『うん、ゆっくりしてってね』
翔くんは5歳になる保奈美のとってもかわいい弟だ。
そして、おばさんと話したのはそれが最後だった。
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その一週間後、おばさんは突然の事故で亡くなった。
私は信じられない気持ちのままお通夜に向かった。
斎場に着き、保奈美と顔を合わせた。
『保奈美、こ、この度はご愁傷様でした・・・』
『詩織、来てくれてありがとう』
『保奈美、大丈夫?私にできる事があれば何でも、』
『ありがとう、私は大丈夫。それより、翔がね・・・』
『翔くん? 翔くんがどうかしたの?』
『うん、詩織、ちょっと来て・・・』
保奈美は少し人目のない場所に私を連れてきた。
『翔がね、泣かないの、全然』
『泣かない?』
『5歳の子って普通は泣くよね、母親が亡くなったら』
『うん、たぶん、まあ泣くんじゃない』
『何か悔しいような、怒ってるような顔してるだけでね』
『そっか、それはちょっと気になるね』
『詩織なら、何かわかるかなって思って・・・』
『そっか、でも私、自分の状態もよくわかんなくて』
『そうよね、ごめん、変な事聞いて』
『ううん、保奈美の心配な気持ちはわかるよ』
『じゃあ私、戻るね、詩織、ありがとう』
そう言って保奈美は家族の元へ戻った。
それからずっと私は翔くんが気がかりだった・・・
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そしておばさんの初七日が過ぎた頃だった。
近所の公園のベンチでぽつんと座る翔くんを見かけた。
『よっ、翔!調子はどう?』
『あ、詩織ちゃん、お姉ちゃんなら家に居るよ』
『そっか、なら後でお前んちに寄るよ』
そう言って私は翔くんの隣りに腰を下ろした。
『んん~、今日はまたいい天気、気持ちいいね』
翔くんは芝生でダンボールソリをやってる子達を眺めていた。
『芝生でダンボールソリってテンション上がるよね~』
私がそう言うと翔が口を開いた。
『詩織ちゃん、ダンボール好き?』
『んん?まあ、そりゃね、色々楽しめるじゃん』
『詩織ちゃん、僕、ダンボールで工作したいの』
『いいね~、やればいいじゃん』
『でもママがダメって、カッターは危ないからダメって』
『まあ、5歳なら危ないっちゃ危ないけど・・・』
『ママは小さい時にカッターで遊んで怪我したんだって』
『なるほど、だから心配で翔にダメって言ったのか』
『それでもいっぱい頼んだら、じゃあ今度ねって』
『そっか、良かったじゃん』
『でも、今度今度って言うだけで・・・』
いいよって言って貰えないまま母親は亡くなった。
もう直接いいよっって言って貰えないのか・・・
その時、お通夜の時の保奈美の話を思い出した。
もしかして泣かない理由って!?
いや、わかんない、でもそうだとしたら。
私はその時、もう一つの場面を思いだした。
ダンボール箱を車から降ろしてたおばさん、サプライズ・・・
『翔、今からお前んち行こう、すぐ行こう!』
『え!?詩織ちゃん、なんで?』
『いいからほら!行くぞ!』
私は翔の手を引いて走った。そして家に着いて早々に叫んだ。
『保奈美~!、居る~? おばさんの部屋どこ~?』
『し、詩織、ちょ、どうしたの?』
『おばさんの部屋にダンボール箱ない?』
『お母さんの部屋に? ええ? わかんないけど』
私達はおばさんの部屋へ入った。
『あった、これだ!!あの時見た箱!!』
私はそのダンボール箱をおばさんの仏壇の前に置いた。
詩織も翔くんもまだキョトンとしていた。
私はおばさんの遺影に向かって、
『おばさん、この箱開けるよ、いいよね』
と言いながら箱を開いた。その中にあったのは・・・!?
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箱の中にあったのは、
カッターの使い方の教本、カッター台やカッター用定規、
持ち易いカッターや色んな工作アイテム。
そしておばさんが練習したであろうカットしたダンボール。
・・・そっか、おばさん・・・
自分で練習して教えられるようになろうと・・・
『そうなんでしょ?そうだよね、おばさん!!』
私は遺影のおばさんの目を見てそう言った。
『(ありがとう、詩織ちゃん、あなたにお願いしてもいい?)』
『うん、おばさん、わかった』
そう言うと私は翔くんを箱の横に座らせた。
『翔くん、これママから。翔くんに渡してくれって。
翔くんのママ、もうすぐ"いいよ"って言おうとしてた。
ママと一緒にやろうって、言おうとしてたんだよ。』
翔くんは箱の中身を黙ってじっと見つめていた。
そして・・・
『お姉ちゃん、僕、カッターで工作してもいいの?』
そう言われた保奈美は私に視線を移した。
私は保奈美に向かって静かに頷いた。
そして保奈美は翔くんに視線を戻した。
『うん、いいって、ママがいいってさ。
お姉ちゃんが教えてあげるから一緒にやろう』
翔の目から涙が一粒こぼれ落ちた。
その涙は二粒になり、三粒になり、
やがて翔くんはハタハタと泣いた。
保奈美は翔くんを抱きしめてその涙を受止めてあげた。
『詩織、ありが、ぐすん、ありがとう・・・』
『うん、うん、うん・・・』
私はそう言ってただ頷いた。
すると保奈美が私を見て少し驚いてこう言った。
『詩織、涙、あんたの頬に、つたってる』
『え? あ、ほんとだ、涙だ・・・』
『うん、そうだよ、詩織、泣いてるよ』
『うん、私、泣けるんだ、涙出るんだ・・・』
私はそう言って指先で頬に伝わる涙を触ってみた。
『ねえ保奈美、お願い、今だけ私も混ぜて貰っていい?』
『うん、詩織も一緒に泣こう、今までの分も思いっきり』
私達はおばさんの遺影の前で三人で抱き合って泣いた。
私はふと、幼い頃に母親に優しく抱きしめられた事を思い出した。
やっと、母を許せた気がした。
FIN
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【編集後記】
泣くべき時、泣いてもいい時、泣いた方がいい時には、
ちゃんと泣いた方がいいですよね。
そしてその時、一緒に泣いてくれ人がいるなら、
とても幸せなことですよね。
最後までお読み下さりありがとうございました。
m(__;)m
4月某日 ライティング兼編集長:メリーゴーランド