泣きたい、泣けない、■アースダンボールメルマガVOL132■2022年4月号

必ず泣けるとか、全米が泣いたとか、私そういうの嫌い。 泣くお話が嫌いなんじゃない。本当は好き。でも、 そんなに泣けるなら私を泣かせてほしい。 本当に泣くべき時に泣かなかったあの日から、 私は何を見聞きしても私は泣けなくなった。 あの時、いっぱい泣けば良かったのに。 (´o`)п(´o`)п(´o`)п **************************** 私は詩織(しおり)、14歳の女子中学生。 母が私が5歳の時に離婚して家を出てからずっと父子家庭。 理由は未だに聞いてないけど、他に好きな人がどうとかで。 でも私には"私を残して行った"というイメージだけがある。 そんな母だが全く疎遠だった訳では無く時々会ってもいた。 でも心から親しく接することができなかった。 その母が一年前に突然亡くなった時、私は泣かなかった。 "私を残して行った人の為になんか泣かない" 母が亡くなって以降そんな気持ちを持ち続けてしまい、 それがきっかけで私の"泣く回路"は接触不良になった。 だから、本当に泣かなきゃいけない時にちゃんと泣く、 っていうことがどれ程大切な事か私には痛い程わかる。 (´o`)п(´o`)п(´o`)п **************************** そんなある日、親友の保奈美(ほなみ)の家に遊びに行った。 保奈美の家に着くと保奈美のお母さんが、 一抱え程のダンボール箱を車から降ろしていた。 『おばさん、こんにちは!』 『あら、詩織ちゃん、いらっしゃい』 『その箱なあに?重い?手伝おっか?』 『大丈夫よ。ちょっと翔(かける)にサプライズなの!』 『へえ~!翔くんに? なになに~?』 『うふふ、そのうち翔が詩織ちゃんにも見せると思うわ』 『へえ~そうなんだ~。じゃあ楽しみにしてるね』 『うん、ゆっくりしてってね』 翔くんは5歳になる保奈美のとってもかわいい弟だ。 そして、おばさんと話したのはそれが最後だった。 ___________ その一週間後、おばさんは突然の事故で亡くなった。 私は信じられない気持ちのままお通夜に向かった。 斎場に着き、保奈美と顔を合わせた。 『保奈美、こ、この度はご愁傷様でした・・・』 『詩織、来てくれてありがとう』 『保奈美、大丈夫?私にできる事があれば何でも、』 『ありがとう、私は大丈夫。それより、翔がね・・・』 『翔くん? 翔くんがどうかしたの?』 『うん、詩織、ちょっと来て・・・』 保奈美は少し人目のない場所に私を連れてきた。 『翔がね、泣かないの、全然』 『泣かない?』 『5歳の子って普通は泣くよね、母親が亡くなったら』 『うん、たぶん、まあ泣くんじゃない』 『何か悔しいような、怒ってるような顔してるだけでね』 『そっか、それはちょっと気になるね』 『詩織なら、何かわかるかなって思って・・・』 『そっか、でも私、自分の状態もよくわかんなくて』 『そうよね、ごめん、変な事聞いて』 『ううん、保奈美の心配な気持ちはわかるよ』 『じゃあ私、戻るね、詩織、ありがとう』 そう言って保奈美は家族の元へ戻った。 それからずっと私は翔くんが気がかりだった・・・ (´o`)п(´o`)п(´o`)п **************************** そしておばさんの初七日が過ぎた頃だった。 近所の公園のベンチでぽつんと座る翔くんを見かけた。 『よっ、翔!調子はどう?』 『あ、詩織ちゃん、お姉ちゃんなら家に居るよ』 『そっか、なら後でお前んちに寄るよ』 そう言って私は翔くんの隣りに腰を下ろした。 『んん~、今日はまたいい天気、気持ちいいね』 翔くんは芝生でダンボールソリをやってる子達を眺めていた。 『芝生でダンボールソリってテンション上がるよね~』 私がそう言うと翔が口を開いた。 『詩織ちゃん、ダンボール好き?』 『んん?まあ、そりゃね、色々楽しめるじゃん』 『詩織ちゃん、僕、ダンボールで工作したいの』 『いいね~、やればいいじゃん』 『でもママがダメって、カッターは危ないからダメって』 『まあ、5歳なら危ないっちゃ危ないけど・・・』 『ママは小さい時にカッターで遊んで怪我したんだって』 『なるほど、だから心配で翔にダメって言ったのか』 『それでもいっぱい頼んだら、じゃあ今度ねって』 『そっか、良かったじゃん』 『でも、今度今度って言うだけで・・・』 いいよって言って貰えないまま母親は亡くなった。 もう直接いいよっって言って貰えないのか・・・ その時、お通夜の時の保奈美の話を思い出した。 もしかして泣かない理由って!? いや、わかんない、でもそうだとしたら。 私はその時、もう一つの場面を思いだした。 ダンボール箱を車から降ろしてたおばさん、サプライズ・・・ 『翔、今からお前んち行こう、すぐ行こう!』 『え!?詩織ちゃん、なんで?』 『いいからほら!行くぞ!』 私は翔の手を引いて走った。そして家に着いて早々に叫んだ。 『保奈美~!、居る~? おばさんの部屋どこ~?』 『し、詩織、ちょ、どうしたの?』 『おばさんの部屋にダンボール箱ない?』 『お母さんの部屋に? ええ? わかんないけど』 私達はおばさんの部屋へ入った。 『あった、これだ!!あの時見た箱!!』 私はそのダンボール箱をおばさんの仏壇の前に置いた。 詩織も翔くんもまだキョトンとしていた。 私はおばさんの遺影に向かって、 『おばさん、この箱開けるよ、いいよね』 と言いながら箱を開いた。その中にあったのは・・・!? (´o`)п(´o`)п(´o`)п **************************** 箱の中にあったのは、 カッターの使い方の教本、カッター台やカッター用定規、 持ち易いカッターや色んな工作アイテム。 そしておばさんが練習したであろうカットしたダンボール。 ・・・そっか、おばさん・・・ 自分で練習して教えられるようになろうと・・・ 『そうなんでしょ?そうだよね、おばさん!!』 私は遺影のおばさんの目を見てそう言った。 『(ありがとう、詩織ちゃん、あなたにお願いしてもいい?)』 『うん、おばさん、わかった』 そう言うと私は翔くんを箱の横に座らせた。 『翔くん、これママから。翔くんに渡してくれって。  翔くんのママ、もうすぐ"いいよ"って言おうとしてた。  ママと一緒にやろうって、言おうとしてたんだよ。』 翔くんは箱の中身を黙ってじっと見つめていた。 そして・・・ 『お姉ちゃん、僕、カッターで工作してもいいの?』 そう言われた保奈美は私に視線を移した。 私は保奈美に向かって静かに頷いた。 そして保奈美は翔くんに視線を戻した。 『うん、いいって、ママがいいってさ。  お姉ちゃんが教えてあげるから一緒にやろう』 翔の目から涙が一粒こぼれ落ちた。 その涙は二粒になり、三粒になり、 やがて翔くんはハタハタと泣いた。 保奈美は翔くんを抱きしめてその涙を受止めてあげた。 『詩織、ありが、ぐすん、ありがとう・・・』 『うん、うん、うん・・・』 私はそう言ってただ頷いた。 すると保奈美が私を見て少し驚いてこう言った。 『詩織、涙、あんたの頬に、つたってる』 『え? あ、ほんとだ、涙だ・・・』 『うん、そうだよ、詩織、泣いてるよ』 『うん、私、泣けるんだ、涙出るんだ・・・』 私はそう言って指先で頬に伝わる涙を触ってみた。 『ねえ保奈美、お願い、今だけ私も混ぜて貰っていい?』 『うん、詩織も一緒に泣こう、今までの分も思いっきり』 私達はおばさんの遺影の前で三人で抱き合って泣いた。 私はふと、幼い頃に母親に優しく抱きしめられた事を思い出した。 やっと、母を許せた気がした。 FIN 98-2 (´o`)п(´o`)п(´o`)п ****************************     【編集後記】 泣くべき時、泣いてもいい時、泣いた方がいい時には、 ちゃんと泣いた方がいいですよね。 そしてその時、一緒に泣いてくれ人がいるなら、 とても幸せなことですよね。 最後までお読み下さりありがとうございました。 m(__;)m 4月某日 ライティング兼編集長:メリーゴーランド

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