~ほら、これに座りなよ~■アースダンボールメルマガVOL136■2022年6月号
心の中のイスに座ったこと、ある?
僕は電車の中で立ち疲れると、
心の中にイスを置いてそこに座る。
友人や同僚にはよくバカにされる。
でも僕はそんなの気にしない。
あの日、心の中のイスも疲れを癒すって、
あの子が教えてくれたから・・・
(´o`)п(´o`)п(´o`)п
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"え~本日はつくし鉄道のご利用誠に有難うございます。
只今ポイント故障により全線運転を見合わせております。
大変ご迷惑をおかけいたしますが・・・"
夜7時、駅のホームに帰宅客達のため息が流れた。
社会人1年目の僕も仕事疲れですぐに帰りたかったが、
仕方なくホームで待った。そして約一時間後に復旧した。
普段はこの時間でもそれ程混雑しない路線だが、
復旧後の最初の電車は都内通勤ラッシュ並の混雑だった。
この路線利用者には慣れない混雑と一日の疲れ・・・
車内の空気はなんだか重かった。
それでもみんな我慢していた。只々耐えていた。
でも、中には我慢しきれない人も居る・・・
車内には電車の動力と車両がきしむ音だけが聞こえていた。
その時だった・・・
『さっきからあんたの荷物があたって痛えんだよ!』
車内に男性の声が響き渡った。
『あ、すみません・・・』
そう言って隣に立つ男性が荷物の位置を変えていた。
この混み具合だ。そのくらいの事は起きるだろう。
しかし声を荒げた男性はまだ収まりが付かなかった。
『ああ?てめえ今なんか言ったか?』
『いえ、なにも言ってませんよ』
『今ぜってえ舌打ちしたろ、ああ!?』
『いえ、だから何も。気のせいですよ』
『俺の気のせい?なめてんのか?てめえ次の駅で降りろ!』
乗客全員の意識がこの二人に集中した。
おいおいおい、なんで今ここで始めんだよ・・・
只でさえみんなうんざりして我慢してるのに、
明らかに車内の空気が "迷惑な奴だな~" になった。
電車は少しハラハラした空気の中、次の駅に着いた。
そしてまず騒いでいた男性だけが降りた。
『おめえもさっさと降りろ!』
言われた方の男性はその言葉を無視し続けていた。
そうこうしているうちに発車ベルが鳴り、
誰もが "このままお前だけ降りてろ" と思った瞬間、
その男はもう一度乗り込んできてしまった。
車内は再び落胆の空気に包まれたまま発車した。
『てめえ、何で降りて来ねえん・・・』
男性がそう言った瞬間、更に別の男性の声が響いた!
『君、いい加減にしないか・・・』
おお!おおお!! この状況で注意できるなんて。
神か!正義のヒーローか!なんてすげえ!
乗客全員が更にこのやり取りに集中した。
『んだてめえは!関係ねえ奴は黙ってろ!』
『関係なくない。同じ車両の乗客同志じゃないか』
『ああ?だったら何だってんだよ!!』
『想定外の遅れと混雑でみんな大変なんだ。
でもみんな我慢してる、みんな同じなんだ』
車内がほんの少しザワっとした。
"そーだそーだ" "もっと言ってやれ" 的なざわめきだ。
『はあ!?偉そうに!てめえが次で降りろ!!』
男は更に逆上した。
あ~、余計に面倒になった・・・と、
車内が一気に落胆の空気に急降下した。
しかしその時、更に別の "小さな声" が響いた!!
『おじちゃん、これ貸してあげようか?』
こ、子供!?しかも小さい!4歳か、5歳くらいか?
一体何が起こってるんだ!?
乗客のほとんどはこの状況が見えないが、
とにかくみんなが声の主に意識を集中した。みんな全集中だ。
『パパ、これ、おじさんに貸してあげていい?』
『ああ、うん、それをこの人に貸してあげたいのかい?』
子供に返答したのはさっき注意をした正義の声の主だった。
この子と正義の声の主は、親子・・・?
そしてどうやらこの子が騒ぐ男に何かを貸したいらしい。
一体何を貸してあげたいんだ・・・?
『おじちゃん、これ貸してあげる』
『ああ?なんだそれ、ガキは黙って・・・』
『ダンボールで作ったイスだよ。
保育園で作ったの。座りやすいんだよ。
だから入院してるおばあちゃんに持って行くところ。
でも電車が凄く混んじゃって疲れちゃったから、
僕が座っちゃった。おじちゃんも疲れてるんでしょ?』
・・・車内が静まり返った・・・
想像するに、
入院中のおばあちゃんにイスを持って行こうと、
父親と電車に乗ったが予想外の混雑で疲れてしまい、
その小さなダンボールイスに座っていた。
きっと沢山の大人の足が雑木林みたいに見えたろう。
そして一連のやり取りを耳にし、父親の参戦に気づき、
自分のイスを困っている(怒ってる?)人に貸そうとした。
さらに沈黙が流れた。
そして最初にその沈黙を破ったのは騒いだ男だった。
『あ、いや、別に、いいよ・・・』
男はボソっとその子に返答し、その後はずっと黙っていた。
そして次の駅で一人、降りて行った。
ずうっと一連のやり取りに集中していたせいで、
全く聞えてなかった車両のきしむ音がまた聞こえ始めた。
車内がいつもの何気ない通勤時の雰囲気に戻った。
いや、いつもよりどこかほんわかと温かかった。
混雑でみんな大変なのに、どこか優しい空気に包まれていた。
たぶん、
乗客みんなの心に小さなダンボールイスが現れて、
みんなそのイスに座ってたからなんじゃないかな。
FIN
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【編集後記】
大人はどうしても人をコントロールしようとする。
でも上手く行かない場合もとっても多い。
小さい子はコントロールの術(すべ)を知らない代わりに、
"あなたが大切"という気持ちをストレートにぶつけてくる。
時にそれは大人がコントロールを試みるよりも、
ずっと効果的で素敵な結果をもたらすことがある。
もしダンボールがそんな子供達の力になれるのなら、
ダンボール屋としてそんな嬉しい事は無い、です(^^)
最後までお読み下さりありがとうございました。
m(__;)m
6月某日 ライティング兼編集長:メリーゴーランド