ダンボールはミステリーがお好き ~後編~■アースダンボールメルマガVOL143■2022年9月号-2

もうこの世に居ないあいつの更新されないSNS。 そのSNSから突然送られてきた新着投稿の通知。 僕が所属していた大学時代のサークル『ミステリー研究会』、 その仲間だった和紀(カズキ)のSNSからの通知だった。 それは1年前に病気で他界した和紀が生前に設定した予約投稿だった。 和紀はメッセージの中で1箱のダンボールを探せという。 そのありかのヒントが、当時のサークルの部室のロッカー!? 誰よりもミステリーが好きで本の出版の夢まで叶えた和紀。 死んだはずの和紀の突然の投稿で当時の仲間が大学に集結し、 その箱を探してみることに。 しかし部室のロッカーを端から開けたが何も出てこない。 そして最後の一つになったロッカーを開けた・・・ 前号の全文はこちらです↓ https://www.bestcarton.com/profile/magazin/2022-sep.html (´o`)п(´o`)п(´o`)п **************************** 『ん?お?あ!なんか、なんかある!!』 『ダンボール箱、ダンボール箱だ!』 『写真の和紀が持ってるのと同じくらいのサイズ!』 これが、和紀がここに入れた箱なのか? 本当に和紀が仕掛けたかどうかはわからなかったが、 僕達はすっかりこのミステリーに引き込まれていた。 『じゃあ、開けるぞ・・・』 僕はゆっくりと箱のふたを開いた。 なんだこれ・・・? 色んな資料と、銀行口座の通帳と、あと封筒、手紙だ。 封筒には『ミステリー研究会のみんなへ』と記されていた。 そして裏には『シノノメカズキより』とも記されていた。 『シノノメカズキ・・・和紀のペンネームだ』 『じゃあ、やっぱりこの箱は和紀の・・・』 僕は静かに手紙を開き、みんなの目を一通り見渡した。 みんながそれぞれに、うん、とうなづいた。 『じゃあ、読むぞ・・・』 静まり返る部屋に、 窓から入る校庭のざわめきだけが微かに響いていた。 ~ 拝啓、ミステリー研究会のみんなへ ~ 本当にここまで来てくれたんだね、ありがとう。 突然こんな事してごめん。驚いたよね。 みんながここに居るって事は、僕はもうこの世に居ないんだね。 本当は自分でしたかったけど他に頼める人が居なくてさ。 これを書いてるのはまだ本の出版日前だから、 本が売れるかどうか見届けられないかもしれないんだ。 ねえ、僕の本、どのくらい売れた? 箱の中に銀行の通帳があるだろ。 僕の個人口座じゃなくてミステリー研究会の口座として作った。 印税は全てその口座に振り込まれるようにしておいた。 印税、どのくらい入ってる? ショボショボだったら恥ずかしいな。 口座へのアクセス方法も一緒にしまっておく。だから、 このお金をここにある資料の団体に寄付して欲しいんだ。 世界には僕と同じ病気の人を支援する団体がいくつかあるんだ。 その団体に、寄付して欲しいんだ。 お願い、できないだろうか。 僕はもうすぐ入院しなくちゃならない。 本当はもっと早く入院しなくちゃいけなかったんだけど、 本の出版日まで、みんなが開いてくれる祝賀会が終わるまで、 わがまま言って入院日を伸ばしてもらったんだ。 でも勿論、勿論ちゃんと自分でやるつもりだよ。 絶対に治して元気になって退院して、次の本も書いて、 またみんなで集まって、飲んで話して、笑って泣いて、 あ、SNSの予約投稿もちゃんと取り消さないとな・・・ だから、この事は誰にも話さずにいます。 でも、でも万が一の時には、みんなに託させて欲しい。 頼む、お願いします。 ところでさ! なんかミステリーっぽくなかった?この数日間。 どうせならミステリーっぽい方がいいでしょ? 僕達はミステリー研究会なんだからさ。 え?もしこの箱が無関係の人間に発見されたらって? それは大丈夫! 幸いこの部屋はほとんど誰も足を踏み入れないし、 こういうもの隠すならダンボールみたいなどこにでもある、 誰もがスルーするようなアイテムがうってつけだ。 なんたって僕は"ダンボール探偵左之助"の作者だからね。 ダンボールの事は誰よりも知ってるよ。 それとSNSに全部の情報を示す事はできないけど、 みんなにしかわからないヒントを示せば問題ないでしょ。 絶対に失敗しないよ。 僕はダンボールの持つ力とみんなを信じてる。 そしてみんなここに来てくれた。結果オーライだ。 では、行ってきます。 この手紙がみんなに読まれない事を願って。 でも一応、仮で言っておく。 さようなら みんなに会えて幸せでした。 では、逝ってきます。 ~~ シノノメカズキ ~~ (´o`)п(´o`)п(´o`)п **************************** 僕が読み終え、ふとみんなを見渡すと、 みんなの頬には涙が伝ってるのに、誰もそれを拭わなかった。 拭うのも忘れるくらい、"和紀の声"に耳を傾けていた。 そして長い沈黙の後、やっと一人が口を開いた。 『あいつ、どんだけミステリーとダンボール好きなんだよ』 『まったくだ、おかげで、ちょっと楽しかったけど』 『あ、お前も?実は俺もちょっとワクワクしちゃっててさ』 『なんだかんだで俺達ってミステリー研究会なのな』 みんなが笑顔になった。 和紀の小説は読み終えた人が不思議な多幸感に包まれる作風。 和紀はこの世を去った後にもそれを体現して見せてくれた。 そして何故こんな作品が書けたのか、少しわかった気がする。 ミステリー小説って、登場人物も読み手も誰かが何かを疑う、 そんなシチュエーションが多い。 でもあいつは、和紀は、ダンボールの持つ力を信じてたんだ。 信じることで謎が解けるんだ。 なあ和紀、僕はお前みたいな小説は書けないけど、 お前が僕達に仕掛けたこの切なさと幸せに満ちたなミステリーを、 ショートストーリーくらいになら、してみようと思うんだ。 FIN 98-2 (´o`)п(´o`)п(´o`)п ****************************     【編集後記】 遺言、とは違うものも多々あると思いますが、 故人の想いを引き継いでいる、守るために頑張ってる、 そんな方も沢山いらっしゃるのではないでしょうか? そしていつか、今度はあなたの想いを引き継ぐために、 その想いを箱にしまう時の為に、 私達は箱を作り続けるんだと思います。 最後までお読み下さりありがとうございました。 m(__;)m 9月某日 ライティング兼編集長:メリーゴーランド

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