ダンボールはミステリーがお好き ~前編~■アースダンボールメルマガVOL142■2022年9月号
もし、もうこの世に居ない友人のSNSが、
更新されるはずのないSNSが更新されたら。
僕は今、まさにそれに遭遇している・・・!?
ピロン♪ 和紀さんの新しい投稿をチェックしよう♪
早朝、スマホに届いた通知を寝ぼけながら見ていた。
ん~?、誰の投稿~? カズキ~? カズ、、、!!
和紀の!? 嘘だろ! だって和紀はもう死ん・・・!?
僕は慌てて仲間の一人に電話した。
『おい、見たか!あの投稿』
『見たよ、一体なんだ、これ・・・』
(´o`)п(´o`)п(´o`)п
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僕は社会人二年目の24歳。
和紀は大学時代のサークル、ミステリー研究会の仲間の一人。
アガサクリスティ、コナンドイル、江戸川乱歩の推しは勿論、
コナンや金田一少年などのコアファンや猛者が集う会で、
オリジナル小説を書いて同人誌発行活動などもしていた。
和紀は高校時代に不運にも天涯孤独になってしまったが、
困窮に負けず猛勉強して大学も授業料免除の特待生枠を獲得し、
大学在学中もバイトに勉強、執筆活動にストイックに取り組んでいた。
和紀にとってこのサークルは、家族のようなものだった。
そしてなんと和紀の小説はメジャー出版社から書籍出版もされた。
タイトルは『ダンボール探偵左之助』。主人公の探偵"左之助"が、
ダンボールという誰でも馴染みある一般的なアイテムを、
物理的、心理的、経済的、時には政治的な切り口で巧みに使い、
数々の難事件や怪事件をダンボールの力で爽快に解決する作品で、
読み終えた後は不思議な多幸感に満たされる独特な作品だった。
和紀は困窮生活の中でダンボールをあらゆる面に取り入れ、
誰よりもダンボールを理解し、ダンボールに精通していた。
そんな和紀が書いた作品が書籍化されたのだから、
サークルの誰もが心の底から和紀を祝った。
しかし記念すべき出版日、サークル仲間での祝賀会の数日後、
和紀は突然入院。
原因不明の難病で治療法も確立されていない病気で、
入院中、お見舞いに行っても会うことはできなかった。
和紀は自分の病気の事を誰にも話さずに隠し通していた。
"せめて俺達には話して欲しかった・・・"
サークルの皆がそう思ったが、和紀の心はもっとずっと深く、
黙っていたのは僕達を思うがゆえの事だった。
そして入院から半年後、和紀は帰らぬ人となった。
それが今から約1年前、僕達が大学を卒業する頃の事だった。
その祝賀会の時にみんなで撮った写真をアップした投稿。
それが和紀の最後の投稿で、以降は更新されていない。
そして今、そのSNSから来た突然の新規投稿の通知。
"手伝って欲しい事があるんだ"
たった一言の投稿だった。
(´o`)п(´o`)п(´o`)п
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通知を受信したその夜、僕は仲間の一人とおち合った。
『よし、まず状況を整理しよう』
『ああ、和紀のSNSはこの1年更新されていなかった』
『そして今日、1年ぶりに投稿が更新された』
『まさか他の誰かが!それとも和紀の幽・・・!』
『落ち着け!違うよ、これは予約投稿だ』
『予約投稿!?じゃあ和紀が生前に投稿設定した?』
『和紀はSNSの企業用ページで活動していたからな』
『なるほど、予約投稿機能は企業用ページしか使えない』
『じゃあ、"手伝って欲しい事"って何だ?』
『そこまでは、今はわからない』
『もしかして・・・』
『もしかして??』
『もしかして、和紀が俺達に仕掛けたミステリー、かなって』
『だとしたら、和紀らしいっちゃ和紀らしいが・・・』
メッセージの意味が解らないまま翌日になった。
悶々と考え込んでいると、和紀から次のメッセージが届いた!
"俺が持ってるダンボール箱のありか、わかる?"
俺が持ってるダンボール箱・・・?
そういえば祝賀会の写真の和紀は箱を1箱持っている。
この箱がどこかにあるってのか?それを探せってのか?
しかし僕は箱のありかに何のあてもなかった。
その後、当時のサークルの他の仲間達も続々と合流し、
みんなでああでもないこうでもないと言い合い、
グループラインもひっちゃかめっちゃかになった。
それでもその日は決定的なありかはわからなかった。
するとその次の日、和紀から3つ目のメッセージが届いた。
"ごめんごめん、何のヒントも無いんじゃ無理だよね。
じゃあヒント・・・
僕達の大事な部屋の、更に奥の部屋の、金属の中"
まるで僕達をどこかで見てるかのようなタイミングと内容だ。
大事な部屋、更に奥、金属・・・??
このヒントに仲間の一人がつぶやいた。
『なあ、これ、俺らの部室じゃね・・・』
大学内にあったミステリー研究会の部室。
そこは僕ら仲間が日々ミステリーを語り合い、活動した場所。
部屋の更に奥には小さな物置部屋があり、段積みのロッカーがあった。
でも物が雑に置かれすぎた部屋で、ロッカーも誰も使ってない。
でも・・・金属、ロッカー・・・?
『よし、久しぶりにみんなで行ってみよう、あの部室に』
僕達は約1年ぶりに大学へ集まる約束をした。
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次の週末、数人の仲間が大学校門前に集合した。
『よし、じゃあ、行くぞ・・・』
僕達は事務局で許可を申請し、学内に足を踏み入れた。
1年ぶりの大学校舎の懐かしさと得体の知れない緊張感。
色んな感情が混ざった僕達は静かに黙ったまま歩を進めた。
『あった、ミステリー研究会の部室』
『まだあったんだな。この部室・・・』
『じゃあ、入ろう・・・』
僕は和紀の投稿が届いてからのここ数日の事を思い出していた。
そして僕の足は小刻みに震えていた。みんなはどうなんだろう。
まさか今になってこんなミステリーに僕達が遭遇するなんて。
おい和紀、俺達に一体何をさせようってんだ。
でもなんか、ちょっとワクワクもするかも・・・
お前もそうなのか、どこかで見てるのか、なあ、和紀。
『ああ、なんかこの匂い、懐かしいな~』
部屋の香りと共に僕達の緊張感が少し和らいだ。
『さて、ここで座ってゆっくり話したいけど、先に進もう』
僕達は更に奥の部屋へと通じるドアを開けた。
『うわあ~ここも昔のまんま。うっそうとしてる~』
『ものぐちゃぐちゃだし埃だらけ、ジャングル~』
『今の部員も掃除してね~な。俺達も言えないけど』
物がごちゃごちゃし過ぎてロッカーを開けるのも一苦労だ。
でもこの感じが何とも懐かしくもあった。
『とりあえず物をどかしてロッカーを一個づつ開けるか』
『だな』
僕達は手前のロッカーから1つづつ開けていった。
次、その次、またその次・・・いくつ開けても何も出なかった。
『次で最後だぞ、やっぱここじゃないんじゃね?』
『いや、和紀なら俺達が開ける順番を予想してるはず』
『じゃあ、あえて順番が最後のロッカーに?』
『たぶん、たぶんそう・・・』
僕達は最後のロッカーを開けた・・・
次号へ続く ~To Be Continued~
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【編集後記】
亡くなった家族や友人のSNSの最後の投稿を見て、
また故人を思い出す。
そんな経験がある方もいらっしゃるかもしれませんね。
故人を思い出すタイミングって色々あると思いますが、
それを機に今を生きる人達がまた繋がれるっていうのは、
いい事だなと思いました。
さて、あなたは次号の展開の予想はつきますか?
箱は出てくるのか?
箱の中身は何だったのか?
和紀の伝えたかったメッセージとは?
最後までお読み下さりありがとうございました。
m(__;)m
9月某日 ライティング兼編集長:メリーゴーランド