北風と太陽、ダンボール箱を開けられるか!?■アースダンボールメルマガVOL171■2023年11月号-2
北風と太陽は童話だけのお話しですって?
実は私、現実の彼ら二人を知っています。
もしお聞きになりたいならお教えしましょう。
北風くん、太陽くん、それともう一人、
彼ら二人の親友であり幼馴染の女の子のお話を。
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北風と太陽、二人は男子高校生。
一人の名は北風航(きたかぜわたる)。
もう一人の名は柏木太陽(かしわぎたいよう)。
いわずもがな、いやむしろあの童話のせいとも言えるかもしれないが、
二人は周りから自然と"北風と太陽"とコンビ名で呼ばれ、
あの童話の通り、何かにつけて競い合うライバルだった。
ゆえに小競り合いは日常茶飯事。
それでも、なんだかんだでいつも二人一緒に居る親友でもあった。
そして二人のスタイルもどこか童話とよく似ていた。
北風は力と勢いで強引に物事を進めていくタイプで、
太陽は思考的で見極めながら物事を進めるタイプだ。
そして二人の幼馴染の女の子の名前は白鷺このみ(しらさぎこのみ)。
そのこのみがある日突然、二人にこんな事を頼んで来た。
『ねえ、このダンボール箱、私に開けさせて!お願い!!』
北風と太陽は全く状況が理解できなかった。
北風:『ええっと、、開けたいなら開ければいいじゃん』
このみ:『だから、私には開けられないのよ!』
北風:『フタがきついのか?ジャム瓶の蓋みたいな』
このみ:『だから違うの!開けたいけど開けられないのよ!』
太陽:『まあまあ二人とも落ち着けって。このみ、落ち着いて説明しろ』
このみ:『うん、そうね、いきなりごめん』
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このみの両親はこのみが幼い頃に離婚し、このみの家は母子家庭だった。
そして三年ほど前から、離れて暮らす父親から毎年このみの誕生日に、
ダンボール箱に梱包されたバースデープレゼントが宅配便で届くようになった。
しかし三年前に初めて届いた日から、このみはダンボール箱を開けていなかった。
正確には、開けることができなかった。
そこにはこのみ自身でさえ説明できない、そして誰にも言えない感情があった。
別に父親を恨んでいる訳でもなく、嫌いな訳でもなかった。
でも、もう何年も会っていない父親をどこか他人のように感じてしまう自分。
許すも許さないも無いと思いながらもどこか許すことができないでいる自分。
自分の知らない、離婚から今までの父親を受け入れる事に不安を感じる自分。
受け入れてもいいと思いながらも、どうしても素直に受け入れられない自分。
そんな切りがない程に混沌とした感情が、このみの胸の中にはずっとあった。
そしてそれを、ずっと誰にも言うことができなかった。幼馴染の二人にも。
ずっとこのまま逃げ続ける訳にもいかない。
でもやっぱり逃げたくなってしまう。
どうしたら、どうしたら・・・思い悩んだこのみの足は、
いつしか無意識のうちに幼馴染の二人の元へ向かっていたのだった。
北風:『なるほど、わかった。つまり、お前の気持ちの問題か』
このみ:『うん・・・*´。_。)』
太陽:『俺達にも言えないくらい、辛かったんだな』
このみ:『うん・・・*´。_。)』
北風:『ごめんな、わかってやれなくて』
太陽:『俺もお前が悩んでた事、気づかなかったよ』
このみ:『うん・・・*´。_。)』
北風:『で、俺達に箱を開ける決心をさせて欲しいと』
このみ:『うん・・・*´。_。)』
太陽:『じゃあこのみは、この箱を開けたいんだな』
このみ:『うん・・・でも、開けられないの*´。_。)』
北風:『わかった。少し時間をくれ』
このみ:『うん・・・*´。_。)』
このみは箱を抱えながら終始うつむいていた。
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それから数日、二人はいつものように勝負心を燃やしていた。
『俺が開けさせてやる!』
『いや絶対俺が開けさせる!』
と息巻いていたが、いつもと全く勝手の違う事情に二人とも困惑していた。
そしてそのまま数日が過ぎたが、このみが箱を開ける事はなかった。
北風:『なあ太陽、俺、思ったんだけどさ』
太陽:『あらたまって何だよ、北風』
北風:『ダンボール箱って不思議だなって思ってさ』
太陽:『不思議?』
北風:『いやさ、ダンボール箱なんてさ、
バッと組んでザザッと詰めてバンッって蓋閉じてビーッてテープして、
ホイッと送って、シュバッて開けて中身出してポイッて捨てるじゃん。』
太陽:『そこまで大雑把なのはお前だけだ』
北風:『そこは拾うな。だからつまりさ、
中身入れて送って、受け取って開けて、用が済んだら捨てて、
それだけだと思ってたんだけどさ』
太陽:『まあ、普通はそうなんじゃねえの?』
北風:『開けたいのに開けられないとか、
開けたくないのに開けなきゃならないとか、
そういうのもあるんだなって』
太陽:『・・・・・・』
北風:『なんか不思議だな~ってさ』
太陽:『・・・・・・人は自分の思考が追い付かないと、
不思議とか怖いとか思ったりするもんだ。お前は特にそうだ、北風』
北風:『うるせえ、ほっとけ』
太陽:『だが北風、お前にしちゃなかなか思慮向かいな。
それから、俺も何となくお前と同じ感じがするんだ。
このままじゃこのみの力にもなれないとも思うんだ。
そこでだ、俺に考えがあるんだが、聞くか?』
北風:『ちょっと待て太陽、俺にも考えがある。先に言わせろ』
二人は互いの考えを述べ合った。
すると不思議な事に二人の考えは寸分違わず一致しているではないか。
二人にとってこんな事は初めてだった。
それは二人が手を組むという、あの童話からは想定外の作戦だった。
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そして作戦決行の日。
北風:『よし、このみ、この箱をここで開けてみろ』
このみ:『・・・だからさ、あんた達、私の話を聞いてた?』
太陽:『聞いてたよ、で、色々考えた。だから言ってるんだ』
このみ:『開ける決心がつかないんだってば!
あんた達が開けろって言うだけじゃ開けられないよ!
開けて私がどうにかなっちゃったらどうすんのよ!』
北風:『その時は、俺達が一緒に居てやる』
このみ:『・・・え?・・・』
太陽:『このみがどうにかなっても、俺達が側に居てやる』
このみ:『・・・どういう、こと?・・・』
北風:『すげえ悲しくなったら悲しくなくなるまで側に居てやる。
すげえ泣いたら泣き止むまで側に居てやる。
すげえ怒ったら一緒に怒ってやる。
すげえ嬉しくなったら一緒に喜んでやる。
どんなこのみになっても、全部のお前と一緒に居てやる』
太陽:『だからこのみは一人で開けるんじゃないんだ。
俺達と一緒に開けるんだ。三人でならできるだろ』
このみ:『(この二人は一体何を言ってるの・・・!?)』
直後はそう思ったこのみだったが、
二人の目を見つめているうちに何故か心の中がすう~っと軽くなる気がした。
ついさっきまで厚い雲で覆われていた心の中にパアっと光が差し込むのを感じた。
二人の短くて簡潔な言葉は、このみの背中を強く強く押した。
一人じゃないって思えるだけでこんなにも力が満ち溢れて来るなんて。
この二人の存在をこんなに強く感じた事は今までなかった。
このみ:『うん、私できそう。開けるね。見ててね』
北風:『ああ、安心しろ』
太陽:『俺達がついてる』
このみはゆっくりと封緘を切り、ダンボール箱を開けた。
箱の中には、このみへのバースデープレゼントと一通の手紙が同封されていた。
二人は手紙を読むこのみを静かに見守っていた。
そして手紙を読み終えたこのみの頬に一粒の涙がつたった。
北風:『大丈夫か?このみ、なんて書いてあった?』
このみ:『うん、大丈夫。お父さん、元気だって』
太陽:『そっか、良かったな』
このみ:『うん。それから箱をあけられて良かった。二人のおかげだよ』
北風:『じゃあ来年からは一人で開けられるな』
このみ:『うん、それから私、会いに行ってみようかな、お父さんに』
北風:『じゃあもし俺達が必要なら言ってくれ。付き添ってやる』
太陽:『バカかお前は。さすがにそれはお邪魔虫だ』
このみ:『あはは、二人とも本当にありがとう。
・・・ところであんた達さ』
北風:『んん?なんだよ?』
このみ:『あんた達いつも争ってばっかりだけどさ、
チームになると最強じゃん!!』
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その後、このみは父親に会いに行き、今は親子関係もまあまあらしい。
競ってばかりだった北風と太陽が幼馴染のこのみの為に手を組み、
そんな彼らの強い絆に救われたこのみだった。
しかしそう遠くない将来、この二人の存在がこのみを苦しめる事になろうとは、
この時はまだ三人の誰も知る由もなかった。
北風と太陽・・・
二人のどちらかを選ばなくてはならない岐路に立たされたこのみの
揺れ動く女心は、また別のお話し。
FIN
※宅配の箱に手紙を入れる場合は各便でのルールや規約があります。
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【編集後記】
世の中には、
『今は言い争ってる場合ちゃうやろ!』
とか、
『今はもめてる場合じゃないだろが!』
というシチュエーションが沢山あります。
あなた自身にもきっと経験が有るのではないでしょうか?
北風と太陽の童話は、
人に接するにはこうした方がいいとか、
ダメなら別のやり方を考えようとか、
そういう教訓を伝えるものだとは思いますが、
どうしても私は、
この二人が組んだらすげえじゃん!!とか、
そんな風に思ってしまいます。
あなたはどうですか?
今号も最後までお読み下さりありがとうございました。
m(__;)m
ライティング兼編集長:メリーゴーランド