~私が私になる事を選んだ日~■アースダンボールメルマガVOL170■2023年11月号
旅は計画を建ててる時間が一番楽しい、なんて言うじゃない?
確かにそう思うくらい楽しい時間よね。
それから、行先だけ決めて後は現地で行き当たりばったり、
そんな旅も楽しいわよね。
でも、それよりもっとスリリングでもっとエキサイティングな、
そんな旅があるのを、ご存じ・・・?
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私は沖野麻沙美(おきのまさみ)32歳のジャーナリスト。
どこのメディアにも属さない、いわゆる独立系フリージャーナリスト。
だから取材したい事案があればいつでもどこへでも自由に赴く。
でもその分、タフで柔軟なバイタリティとメンタルも必要ね。
世界には日本じゃ考えられないような場所も沢山あって、
時には命の危険さえ感じる場所にも私は足を踏み入れる。
今でこそこんな生き方だけど、昔の私は正反対だった。
ただ、あの時の小さな旅が、まるで大冒険だったのようなあの旅が、
私を変えてくれた。
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私は小さい頃から、いわゆる大人しくていい子だった。
いい子、とだけなら聞こえはいいけど、私は自分が好きじゃなかった。
大人しくて物静かで先生や大人のいう事をよく聞いて・・・
言い換えれば、引っ込み思案で消極的で、自分の意見を言わない子。
だから人と揉め事を起こさない代わりに凄く楽しいと思える事もない。
本当はもっと皆とお話もしたいし遊びたい、でもそう言えない。
中学生になっても、高校生になっても、大学生、社会人になっても、
ずっとそれは変わらなかった。
そんな私の唯一の特技は "俯瞰(ふかん)" だった。
(俯瞰:高い場所から全体を見下ろしたり物事を広い視野から見る事)
特技というより自分の身を守る為に自然に身に付いた防衛本能の一種、
と言った方が近いかもしれない。モブで陰キャがそつなく生き抜く為には、
常に周囲や自分の状況を正しく把握する必要があるのだ。
それゆえ常に自分も俯瞰していた私は "こんな自分を変えたい" という、
もう一人の自分が常に居る事も、ハッキリと自覚できていた。
そんな私には、全てが私と正反対の4つ年上の姉が居る。
溢れ出すパワーがいつもダダ洩れてるようなアクティブな人だ。
小さい頃から、いや生まれた時から積極的ではっきり自己主張する性格だったらしい。
だから人との諍(いさか)いも度々あるけどその分、楽しい事にもどっぷりつかる。
友達も沢山いて、いつもどこかに出かけていて家に居ない。
お金を貯めてはフラッと海外に、しかも1ヶ月くらい行ってしまう。
成田や羽田から『今日から1ヶ月くらい居ないからなんかあったら宜しくね!』
と突然電話をかけてきた事も何度かある。
姉がやんちゃして妹の私が謝るなんて日常茶飯事。
だからこそか、姉は私にとって憧れの存在だった。
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そうそう、旅の話だったわね。あれは私が社会人2年目の時。
姉から、一人で沖縄旅行に行くので空港まで車で送って欲しいとお願いされた。
いつもなら誰にも言わずひょいひょい行くくせに、珍しい行動だった。
『お姉ちゃん、いつも私に声なんかかけないのに珍しいね』
『そうだっけ?まあいいじゃん、たまにはさ』
助手席の姉は浮かれているようだった。そりゃそうだ、沖縄だもん。
『沖縄かあ~・・・いいよね、沖縄』
『そりゃあね、沖縄だもん』
そんな会話をしながら空港に着くと、姉が更に珍しい事を言った。
『ねえ、チェックインカウンターまで見送りに来てよ』
『ええ~なんで~?めんどくさい』
『いいじゃない、今日仕事休みだしどうせ暇でしょ』
『そりゃ暇だけど・・・しょうがないな~』
姉の珍しい行動とパワーで半ば強引に私は空港のパーキングに車を停めた。
姉と一緒に搭乗口前まで行くとそこには、これからフライトだ!
って雰囲気の人で溢れかえっていて、その光景はとても新鮮で開放的に見えた。
『わあ、お姉ちゃん、この人達みんな飛行機乗るんだね』
『そうよ、今日はまた混んでるなあ』
『搭乗時間までまだ時間あるね、座って待ってる?』
『そうね、座ってよっか』
そう言って姉とベンチに座ったものの、私はソワソワして落ち着かなかった。
この場所の何かにツンツンとつつかれてるような、この感触は何だろう?
場の持たない私は近くにあった沖縄旅行ポスターの前に立った。
『わあああ~、きれい、みんなここに行くんだ、いいな~』
美しい海、綺麗な砂浜、青々と澄み渡った空と照り付ける太陽・・・
するとポスターを見つめる私の背後に姉が忍び寄って来て、おもむろにこう言った。
『あなたも一緒に行く?』
一瞬、姉の言ってる事がわからなかったが何故か私の瞼(まぶた)がカッと開いた。
『行くって、どこに?』
『だから沖縄』
『沖縄って、、、いつ?』
『だから今から、私と一緒に』
『え・・・何言ってるの!?そんなの無理じゃん』
『なんで無理?行きたいんでしょ?』
『なんでって・・・何も持ってきてない』
『全部向こうで買えばいいじゃん、行きたいなら』
『で、でも・・・仕事休み取ってないし』
『急だけど取ればいいじゃん、行きたいなら』
『で、でも・・・』
『でもでもでもでも、これからもずっと、でもでも言うの?』
『なんで、急にそんなこと言うの・・・?』
『あのね、私はあんたのお姉ちゃんだよ。
あんたがどんな思いでいるかくらい、かわかってるつもりだよ』
姉は私の目をまっすぐ、強く鋭く、でも優しく、そらさずに見ている。
完全に姉にロックオンされている。
『は!?まさかお姉ちゃんのずっと変だった行動ってこの為!?』
『だって、あんた普通に誘っても行かないでしょ』
『それは!・・・否定できない、急にも程ってもんが・・・』
『ほら麻沙美、私のスマホ見て。私が乗る便の座席が一個だけ空いてて、
今、仮押さえた。私の指があとヒトポチすればこの座席はあんたのだよ』
もう一度ポスターを見ると、海の青はさっきよりずっと鮮やかな青に変わっていた。
その時突然、何かが私の足に "どん" とあたり、私は倒れそうになった。
見ると私の足元で、私にぶつかった小さな男の子が尻もちをついていた。
『いててて、お姉ちゃん、ごめんなさい』
『ううん、私は大丈夫よ、ボクは大丈夫?』
『うん、大丈夫!』
するとその子の母親が荷物を積んだカートを押してやって来た。
『こら!!だから走るなって言ったでしょう。お姉ちゃんに謝った!?』
『うん、謝った』
『あの、私は大丈夫です。私もぼおっとしてて、すみません』
その時ふと、母親のカートの"沖縄"のロゴ入りダンボール箱が目に入った。
『ねえボク、沖縄に行ってきたの?』
『うん、そうだよ!』
『どうだった?沖縄』
『海が凄く青くて空が凄く綺麗で美味しい物いっぱい!また行きたい!』
『そっか、良かったね。また行けるといいね』
すると母親も話しかけてきた。
『本当にごめんなさいね。この子、帰って来たのにずっとハイなまんまで』
『いえいえ、よっぽど楽しかったんですね』
『ええ、おかげさまで楽しめました。あなたも今から沖縄へ?』
『え!?私は、えっと・・・』
その時、答えに詰まった私の防衛本能が発動して、私は俯瞰モードに入った。
歩いてきた道が急に分かれ道になり、それぞれの道には立札があった。
一本は 沖縄行き→
一本は 家に帰る→
どうしよう、行きたい、でもムリ、でも行きたい!!でもムリ!!
沖縄の空気を深く吸い込む自分と、行った後処理に追われる自分が、
頭の中でごっちゃごちゃのぐっちゃぐちゃに混ざり合った・・・
困った私は俯瞰をさらに詳細レベルモードにシフトチェンジした。
自分の願望や感情にもアクセスする高難度(自称だけど)モードだ。
随分と慣れたもんだ。改めてそう思う。
沖縄行きの道の更に向こうを見ると、母親が持っていたダンボールに、
お土産を詰めている私が居た。
(そう、あなたは(私)は、凄く凄く行きたいんだね・・・)
この間、恐らく5秒前後、くらいだったと思う。
私はちらりと姉を見た。姉はにやにやと笑っていた。
私も姉に笑い返した。そして母親にこう言った。
『はい、そうです。そうなんです、凄く、凄く楽しみです!』
『そう、楽しんでらしてね』
『はい、楽しんできます!』
姉はにやにやした顔のまま指で画面を"ポチ"っとタップした。
画面が "購入完了" の画面に切り替わった。
ポスターの海の青は更に青さを増した気がした。
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2泊3日と短かったけど、もうこれは旅行じゃない。人生一の大冒険だった。
旅の最終日、私はホテルの売店でお土産を買い過ぎた。
『お姉ちゃん、どうしよう、買い過ぎで持てない~』
『あんたはしゃぎすぎ!ま、いいけどね、それも旅だわ。
ここのホテルの売店でダンボール宅配用の売ってるわよ。
200円くらいで買えるから宅急便で送れば?』
『そうなの!?じゃあそうするよ』
私は売店でダンボール箱を貰って部屋に戻った。
『ねえお姉ちゃん!みてみて!このダンボール!』
『それあの時の親子が持ってたダンボールじゃん!』
『そう!あのダンボールと同じマーク!』
『じゃあ、あの親子もこのホテルに泊まったのかもね』
『そうだね!』
『なんだかあんた、そのダンボールに誘(いざな)われたみたいね』
『もしこのダンボールを見てなかったら、今ここに居なかったかも』
『そう言ってもらえてダンボールも喜んでるわな!さ、詰めな。』
帰りの飛行機の中、窓の真下に見える雲海を見ながら私は姉に打ち明けた。
『お姉ちゃん、ありがとう』
『うん』
『お姉ちゃん、あのね、私ジャーナリストになりたいんだ』
『きっとなれるよ、あんたならね』
FIN
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【編集後記】
同じ色なのにいつもと違う色に見える時、
同じ風景なのにいつもと違って見える時、
ってありますよね。
いわずもがなそれは心に変化があった時、
何かを心に決めた時に、起きやすい現象なのだと思います。
だからいつも思うんです。
アースダンボールの箱を使ったら、
いつもの商品がいつもより鮮やかに、いい感じに見えた、
そんな風に言って貰える箱屋になりたいな、と。
そしてこのメルマガも、読んだ後にいつもの風景が違って見えた、
そういって貰えると嬉しいな、と。
今号も最後までお読み下さりありがとうございました。
m(__;)m
ライティング兼編集長:メリーゴーランド