男子たるもの ~ロマンは夏休み工作で語るべし~■アースダンボールメルマガVOL189■2024年8月号-2

親として助けるべきか放っておくべきか!? 夏休みの工作宿題に苦悩する息子を見て、 僕自身が苦悩してしまっていた。 答えが出ないまま僕は押し入れの扉を開け、 奥から1箱のダンボール箱を引っ張り出した。 僕は毎年、8月の終わりにこの箱を引っ張り出して思い出す。 未だに捨てられない、僕の小学2年生の夏休み工作。 あの時、家族全員の協力無くしては完成しえなかった作品だ。 (´o`)п(´o`*)п(´o`*)п **************************** (´-`).。oO あれは今から25年前、 今の息子と歳と同じ、僕が小学校2年生の夏休みの事だった。 あの年、僕は夏休みに入る前から工作テーマを決めて進めていた。 たまたまネットで見た同じ小学生の工作に感化されたのだ。 それはヤクルトの空瓶をつなぎ合わせた宇宙船。 当時1日1本飲んでいたヤクルトを2本に増やし、 夏休み後半までに空瓶を100個貯めて最後の一週間で組み立てる計画だった。 母は「いつもより消費が早いわね」と思いながらも、 ヤクルトを買い足してくれて計画は順調に進んでいた。 実は家族に内緒で計画をすすめていたが、それが仇(あだ)になった。 「あれ!?無い!全部無い!?」 それまでで50個は貯まっていたであろう瓶が一つ残らず消えた。 「ママ、ヤクルトの空き瓶、知らない?」 「空き瓶?ああ、あれなら捨てといたわよ」 「…すて…」( ;∀;) 「どうしたの?捨てちゃダメだったの?」 「…、…」( ;∀;) 「あら~ごめんなさいね~」 母はあっけらかんと笑っていたが、僕の落ち込み具合は相当だった。 更にその頃の僕にはそれをリカバリーできる程の思考力も無かった。 でもその時、一人だけ状況の深刻さを察してくれた。それが父だった。 父はいわゆる普通のサラリーマンで、 ごく一般的な奥さんの尻に敷かれていたタイプで、 何となく家庭内序列が高くなかったように当時の僕には見えていた。 そんな父からの、まさかの言葉だった。 「あれは使う予定があったのか?」 「うん、夏休みの工作」 「そうか、ママも悪気はなかったんだ、許してやれよ、な」 「うん、ママは悪くないのはわかってる、けど…」 「大丈夫だ、俺に、父さんに任せろ、何とかする」 「何とかって、どうするの?」 「これから考える、そして必ずどうにかする。だってな、  夏休み工作は男のロマンだからな」 「男のロマン…??父ちゃんも夏休みの工作やったの?」 「ああ、もちろんだ、すげえの作ったんだぜ」 工作、男、ロマン。その時は頭の中で結びつかなかったが今ならわかる。 そしてそのロマンの為なら男はどんな時でも立ち上がらねばならない事も。 「よし、今日から家族全員で飲むぞ、ヤクルト!!」 父のその一言に、若干の責任を感じていた母も賛同し、 "なんかおもしろそう" と一応、兄と姉も野次馬的に賛同し、 家族全員で僕の工作の為にヤクルトを飲む計画が発動した。 ダイニングの隅にはヤクルト瓶を貯める用のダンボール箱が設置され、 瓶は順調に貯まり、遂にはダンボール箱いっぱいに、予定の2倍以上の数になった。 このダンボール箱の中に貯まった瓶は家族の絆の結晶。 家族全員があえてヤクルトを飲んで得たエネルギー、 まさに「家族内ヤシマ作戦!!!(※1)」だ。 家族全員で同じ目標に向かって何かに取り組んだなんて、 もしかしたら後にも先にもあの時だけだったかもしれない。 まさに「野原一家ファイアー!!!」だ。 あとはこのエネルギー(瓶)を工作へ放つだけだ。 __________ その後、僕の宇宙船は無事完成。その年の校内夏休み工作賞を受賞し、 その報告に家族全員が再び沸き立ち、お祝いに外食へ行った程だ。 その宇宙船はそれから半年間ほど我が家のリビングに飾られた。 今でも時々、実家に行くとその時の出来事が話題になる。 本当に、本当に大切な思い出になった。 そんな大切な思い出の宇宙船を、僕は半年間飾ったリビングから、 家族全員でヤクルト瓶を貯めたあのダンボール箱の中に移し替え、 その箱をそっと押入れの奥に仕舞った。 以来、毎年こうして引っ張り出してはノスタルジーに浸っているという訳だ。 それとこれは、あの当時リビングに飾られた僕の作品を見ながら 父が僕に聞かせてくれた話だ。 その昔、僕の父も偶然、同じ小学2年生の夏休みの工作で、 マッチ棒だけをセメダインで繋ぎ合わせ、 全長40cmほどの戦艦大和の模型を作った。 マッチ棒は何百本、いや何千本使ったであろうその作品は、 小学校低学年とは思えぬ圧巻の作品だったらしい。 初耳だった。父も僕と同じ相当な夏休み工作野郎だった。 さすがは自ら「すげえの作ったんだぜ」と言っただけの事はある。 そしてその当時、家族全員がマッチ棒を集める為に協力してくれたと、 しみじみと話してくれた。 因みにその大和、父本人は勿論、クラス中の興味が "燃やしたらどうなるか" という方向に興味が湧いてしまい、 先生数人と友人達が立ち合い、見守られながら燃えていったらしい。 その時の大和が燃え尽きる音や色は、今でもはっきりと脳裏に焼き付いていると、 大人になってからその時の事を思い返した時、ふと、 あれは紛れもない「男のロマンだった」と、 ハニカミながら話してくれた父の横顔を、僕は今でも覚えている。 (´-`).。oO ひとしきり懐かしんだ後、 僕は再び引っ張り出したダンボール箱を眺めた。 そう言えばこのダンボール箱、まだ少しスペースにゆとりがあるな。 出来ればここに、今年の息子の作品を一緒に入れたいなあ。 うん、よし、 僕は思い立って、工作に悩める息子に声をかけた。 「なあ、ヤクルトでも買いに行かない?」 「ヤクルト?なんで?」 「んん~、工作で煮詰まってるようだし、気分転換的な?」 「う~ん、別にいいけど、じゃ、お菓子も買って!」 「よっしゃ、行くか!」 あのダンボール箱に親子の作品が仕舞われる様(さま)を、 僕は想像せずにはいられなかった。 FIN 98-2 ※1、ヤシマ作戦:エヴァンゲリオン ヤシマ作戦 でご検索下さい。 ※この物語はヤクルトさんの案件では"決して"ありません。 (´o`)п(´o`*)п(´o`*)п ****************************      編 集 後 記 男の子が工作にかける情熱、ロマン。 なかなか周りは、特に女性の多くは理解しがたいかもしれません。 でももし、これはあくまでも私の主観的な希望ですが、 男の子でも女の子でも、 そんな子が居たら力になってあげてくれませんか。 その時の本人はまず自分の事しか考えてないものですが、 その子が大人になってそれを思い出す時には必ず、 力になってくれたあなたの事を思い出すはずです。 誰かの記憶に残るって事は、 あなたが生きた証がそこにあるってこと。 素敵なことです。 因みにマッチ棒の大和、私の実話です。 今号も最後までお読み下さりありがとうございました。 m(__;)m   ライティング兼編集長:メリーゴーランド

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