ホストのお兄さんは好きですか?■アースダンボールメルマガVOL187■2024年7月号-2
もしかしてこの人ホスト!?
街中でいかにもそれっぽい男性に声をかけられた。
ああ知ってるわ、これってもし誘いに乗ったら、
貢いで貯金使い果たして破滅するパターンでしょ。
でも…いっそそれでもいっか。
もうなんもかんもやんなっちゃったし。
ぱあ~っと遊んで行く所まで行っちゃうか。
ねえホストのお兄さん、私を連れてってよ。
どこでもいいから、私の知らない所へさ…
(´o`)п(´o`*)п(´o`*)п
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私は園峰里子(そのみねさとこ)26歳。
イベント企画会社の営業職3年目。
入社以来、失敗続きでダメダメで、それでも自分を奮い立たせて
這いつくばってなんとかここまでやって来た。
今回はそんな私がやっと貰えた契約だった。
クライアントが全国の取引先に送る記念品一式。
記念品から発送用のオリジナルダンボール箱までの一式を受注した。
特にダンボール箱は考えに考え抜いた。
うちが最も信頼するデザイナーに箱の印刷デザインを依頼し、
赤色を中心に日本的な緑や藍色や黒を鮮やかに織り交ぜ、
それでいて凛とし佇まいの存在感あるデザインを創ってもらい、
高度なフルカラー印刷技術の業者に生産を依頼して、とにかくこだわり抜いた。
それだけ、箱を受け取った人の第一印象は大事なのだと、
先方の関係者の皆さんにわかって頂き、ご納得頂く為に、
それだけでも何度も何度も先方に通ってやっと契約までこぎつけた。
なのに…
クライアントの社長の娘である先方の企画本部長のミスを、
全部私になすりつけられ、大きなクレームを受けた。
何とかリカバリーしようと納品のダンボール箱ごと抱えて先方に赴いた。
でも結果は変わらず、既に他社への受注を決めてしまっていた。
うう、くっそお!!!あの七光り本部長め!!!
あんたさえ、あんたさえいなければ!!
…いや、見抜けなかった私が悪いか…
12月、もうすぐクリスマスの街は華やいでいた。
私はダンボールを抱えたまま、ただ街をフラフラと彷徨った。
どこ行こう、どこにも行きたくない、帰りたくもない…
そんな時だった。
「ねえ君、君ってば、そこのダンボール箱持ってる君!」
「…わたし?」
「そ、君。時間ある?あるよね?一緒に遊ばない?」
ああ知ってるわ、これってもし誘いに乗ったら、
貢いで貯金使い果たして破滅するパターンでしょ。
でも…いっそそれでもいっか。
もうなんもかんもやんなっちゃったし。
ぱあ~っと遊んで行く所まで行っちゃうか。
ねえホストのお兄さん、私を連れてってよ。
どこでもいいから、私の知らない所へさ…
「うん、いいよ」
「よし決まり!じゃあまずはお茶でも飲もっか」
「うん」
「俺、立浪颯(たつなみはやて)、宜しく!その箱、持つよ」
「あ、うん、ありがとう、じゃあ、はい」
彼、颯(はやて)は紳士らしく箱を持ってくれ、
優しく丁寧に私をエスコートしてくれた。
当たり前か、プロだし。
こっちはこれから全部持って行かれちゃうんだし、これぐらいはね。
半ば自暴自棄になりながら、私は颯の優しさを受け入れた。
喫茶店に入り、談笑しながらお茶を飲んだ。
それからウィンドウショッピングしながら街中をゆったり歩いた。
それから夜の遊園地で乗り物に乗りながら他愛もない話をし続けた。
私はいつしか嫌な事も忘れ、ただ颯との時間を楽しんでいた。
そして久しぶりに笑った。
「良かった、やっと笑ってくれた。その方がぜんぜんイイよ」
そう言われた瞬間、私はハタと我に返った。
そうだ、この人ホストだった。本題にはいつ入るんだろう?
もうかれこれ3時間以上もただ遊んでるだけ。
ありがとう、私は充分楽しんだ。本当に楽しかった。
「ねえ颯、さん、あなたホストでしょう?」
「うん、そうだよ、よくわかったね!」
「まあ、ね。それで、いつ行くの?あなたの、お店?」
「君は行きたいの?」
「颯さんが行こうって言うなら、いいよ」
「そっか~、ううん、俺、今日休むって連絡しちゃったしな~」
「お店を休む!?なんで!?」
「…なんか寒くなって来たね、とりあえず温かい飲み物買ってくるよ」
颯はそう言ってフードテントに行ってしまった。
どういうつもりなのかしら?これ普通にデートじゃない。
ダンボール箱持ちながらデートとかちょっと変だけど。
でもなんか、楽しいな…忘れてたな、こういう時間。
私は遊園地を楽しむ人達を眺めながら颯が戻るのを待っていた。
「お待たせ、好みがわかんなかったから、はい、カフェオレ」
「ありがとう、カフェオレは好きよ」
「じゃあ良かった」
そう言いながらカフェオレを一口飲んだ。
「あったかい、おいしい」
温かくて美味しくて、優しくてほっとする味。
こんな風に人に優しくされたのはいつ以来だろう。
カフェオレの温かさが身体中を包んでいくみたい。
私の目から涙が一粒、零れ落ちた。
「あれ、私、どうしたんだろ?なんか、変だな…」
「いいよ、大丈夫」
「あれ?ホントに変、涙止まんない、どうしよう…」
「いいよ、止めなくて大丈夫」
一粒の涙は流れ落ちる涙に変わり、
喉から湧き上がる声を押し殺し、私はえぐえぐとむせび泣いた。
「良かった、やって泣いてくれたね」
「何ぞれ、さっぎは笑っで良かっだっで言っでた」
「どっちも大事なんだよ。多分、今の君には」
彼は私が泣き止むまで、ずっと私の肩に手を置いてくれていた。
泣き止む頃には、途方に暮れていた自分はどこにも居なかった。
「ごめんなさい、私ってば初対面の人の前で」
「会った時よりもずっといい顔になった。もう大丈夫だね」
「もうって、どういう意味?本当に、なんで?」
彼は私の目より少し下に視線を向けて黙り込んだ。
そしてスッと私の目に視線を戻してこう言った。
「君が似てたんだ、妹に」
「妹さん?」
「うん、妹がまだすごく小さかった頃、
親父の誕生日にプレゼントをあげるんだって、
ダンボール箱にプレゼントを詰めて待ってたんだ。
でも親父はいつまで待っても帰ってこなくて。
妹はダンボールを持って玄関前でずっと待ってて。
でも帰ってこなくて。
街でダンボール箱を抱えて肩を落としていた君が、
寂しそうに待っていたあの時に妹に、似てたんだ。
声をかけずにいられなかった。」
彼はそう言いながら、遠くを見るように道行く人達を眺めていた。
「親父はその日、別の女の所に行っちゃったんだ、家族を捨ててさ」
「…」
「何もその日に、どうせ出て行くにしてもさ、って思った」
「…そう、今は妹さんとは?」
「もう何年も会ってない。故郷でお袋と暮らしてるよ」
「妹さんに会いに行けば、お母さんにもさ」
「そう、だな、久しぶりに、帰るかな」
もしかして、私なんかの悔しさや辛さより、
この人のそれの方がもっとずっと深くて大きいのかもしれない。
ふとそんな気持ちで、彼が持ってくれてるダンボール箱を見た。
さっきまで憎くて憎くてたまらなかったダンボール箱。
「それにしても、ふふ、それ持ってる私、そんなに寂しそうだった?」
「うん、それはそれはもう」
「持っててくれてありがとう。ちょっとその箱、私に貸して。
どう?今も寂しそうに見える?」
「全然見えない、希望に溢れるキャリアウーマンって感じ!」
「そう?そうよね!そうだよね!あははは」(o´∀`o)
すると彼は少しシリアスな顔で、笑っている私にこう言った。
「本当にもう大丈夫だね。一人で帰れる?」
「…元気にはなったけど、一人じゃ…帰れない」
「わかった、送ってくよ」
それから、私はあのクライアントの件をきっぱり切り替え、
次の仕事でそれ以上の成果を挙げて、その先も成果を上げ続けた。
でも、本当にあなたが知りたいのはそこじゃないですよね。
わかってます。彼とはその後どうなったのか、ですよね?
多分あなたの想像通り、ですよ。
FIN
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