100歳のヒーローは予告なしにやって来る■アースダンボールメルマガVOL186■2024年7月号

夫婦二人で突然、無職になった。 娘も生まれたばかりで、まさにこれからって時なのに。 何がいけなかったんだろう? 私、何か悪い事したのかな? そんな絶望に暮れている時だった。 あのダンボール箱が届いたのは。 (´o`)п(´o`*)п(´o`*)п **************************** 私は片瀬杏奈(かたせあんな)25歳。 あれは今から3年くらい前、私が22歳の時だった。 夫は私より一つ年上。建設業界で働いていて、 娘はもうすぐ一歳になろうとしていた。 どこにでもいる、将来を夢見る若い夫婦だ。 私は家族の将来の為に少しでも貯えをしようと、 子供を保育園に預けて事務職のフルパートに就いた。 決して裕福ではないけれど、幸せに暮らしていた。 でもそれは突然やって来た。 夫と私が同時に職を失ってしまったのだ。 誰のせいでもない、本当に運が悪い出来事だった。 それはわかってる、わかってるけど、 若かった私達はすっかり打ちひしがれた。 若いんだし、いくらでも再就職先はある、 冷静に、少し楽観的にそう考えてもいいはずなのに、 元気を出すきっかけすら掴めずにいた。 夫は再就職の為に就活を頑張っていたが思うようにいかず、 そうこうしているうちに3週間程が過ぎた。 そんなある日、電話の着信音が鳴った。 夫の採用連絡かと期待を込めて電話を取ったが、 受話器の向こうから聞こえたのは少ししゃがれた女性の声だった。 「あー杏奈か、元気にしとるかー」 誰?かしら? お母さんでも、お祖母ちゃんの声でもないな。 全く聞き覚えの無い声、でも私の名前を知ってる。 あ、ええ!? もしかして、ひいお祖母ちゃん!? _________ その頃、私には104歳になるひいお祖母ちゃんが居た。 遠くに住んでいてほとんど会った事もないし、電話で話した事も多分ない。 でも私が生まれてから毎年、しかも私の名前宛てで年賀状をくれていたから、 私も毎年、ひいお祖母ちゃんに年賀状だけは出していた。 だからひいお祖母ちゃんの存在は頭の中にしっかり有った。 「もしかして、ひい、お祖母ちゃん?」 「わかるか~、そうそう、ひいお祖母ちゃんよ~」 「びっくりした、どうしたの?急に?  っていうか初めてじゃない?電話なんてくれたの」 「べーつに大した用事ないわー」 「大した用事ないって、電話自体が既にすごい事だけど…」 「たまにはひー孫の声ききとーてー」 …ああ~、なんだろう、この感覚。 二言三言、話しただけなのに私は不思議な感覚に見舞われた。 殆んどあった事も無い人なのに、 いつも側に居てくれてたような感じがする。 血がつながってるから…?それだけ、じゃないような。 わからないけど、何故か落ち着く。 でもどうしよ、何を話していいかわからない… 言葉を詰まらせていると、ひいお祖母ちゃんが話し始めた。 「あんたも若いうちに子供もって、  旦那さんも若いし、いろいろ大変よなー。  でもな、どーにかなるんよ、なんとかなるんよ。  わしだってそうだったよー。  ああ~いろいろあったよー。  こんだけ生きとると、本当に、いろいろあったわー。  でもなあ、ぜーんぶどーにかなったんよー。  なんとかなったんよー。  つらい時もはーくいしばる時もあったしなー、  たのしい事もうれしい事もたーくさんあったんよー。  今じゃあ、ぜーんぶ、ありがたい事だわー。  だから、なんがあっても大丈夫なんよー」 とても短い言葉だった。 だけど、あの時の私が欲しくて欲しくてたまらない、全部だった。 私、誰かに "大丈夫だよ" て言って欲しかったんだ。 誰も言ってくれなかった訳じゃないけど、 誰が言ってくれても割れないくらい私の殻は堅かった。 それを笑っちゃうくらいあっさりと殻を開けちゃうんだから。 この人の、ひいお祖母ちゃんの "大丈夫" は最強だ… ひいお祖母ちゃん、多分、お母さんかお祖母ちゃんから、 私の事を聞いたんだよね。 それで私のピンチを助けに来てくれたんだね。 私、ひいお祖母ちゃん孝行なんて全然してないのに。 すごいなあ、ひいお祖母ちゃん。 かっこいい、ヒーローみたいだ。 ごめんね、ひいお祖母ちゃんにまで心配かけて。 ありがとう、ひいお祖母ちゃん。 受話器を置く頃には、 それまで悲壮感しかなかった私はもう居なかった。 体の奥から満ちてくる熱さを感じた。 でも、ひいお祖母ちゃんサプライズはこれで終わらなかった。 電話を切って数分後、宅配便さんが配達に来た。 荷物は一抱え程のダンボール箱、なんだろう?誰から? あ、、!!ひいお祖母ちゃんからだ!! 箱を開けると中には、 "これ食べて元気出せ" とだけ書かれた手紙と、 ひいお祖母ちゃんの地元のお野菜やら食品やらが沢山詰まっていた。 「ひいお祖母ちゃん…ひいお祖母ちゃん!!  もうヒーロー通り越して神だよ神。  よーーーし!!これ食って頑張るぞおおーーー!!」 そう叫ぶ私を、娘が何事かとキョトンとした目で凝視していた。 ________ その日の夕方、夫が肩を落として帰宅した。 あの頃の私には見慣れた風景だった。 いつも、そんな夫を見て私まで元気をなくしていた。 "でも今日からは違う、私はかわるよ!!" あの時、私はそう思ったんだ。 「俊哉(としや)さん、お帰り、今日はどうだった?」 「ただいま。すまん、ダメだった。  ハローワークも人が沢山でさ。なかなか条件合わなくって」 「そう、残念だったね」 「いい条件にこだわる場合じゃないのはわかってるんだけど」 「うん、お疲れ様、頑張ってくれてありがとう。  大丈夫、絶対、俊哉さんにあう職場が見つかるよ!  だから元気出して。さ、ご飯にしよう」 「うん、そうだな、そうだよな!」 「うん、これからこれから!!」 「お!今日は鍋か、いいね」 「ひいお祖母ちゃんがお野菜いっぱい送ってくれたの」 「へ~、ひいお祖母ちゃんか。俺まだ会った事ないな」 「うん、落ち着いたらさ、会いに行こうよ」 「そうだな、俺もぜひ会いたい、行こう」 それから私達は無事に生活を立て直し、 その後の3年間は毎年1回、ひいお祖母ちゃんに会いに行けた。 3回目に行ったのはひいお祖母ちゃんのお葬式だった。 でも、私達家族はあの日の鍋の味はいつまでも忘れない。 そしてあの野菜を運んでくれたダンボール箱は、 今も我が家のお座敷間に鎮座している。 所々に娘の落書きも増えたけど、いつまでも捨てられない。 私たち家族の幸せそのものだ。 FIN 98-2

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