シリーズ・押入れ奥のダンボール ~第6作目~■アースダンボールメルマガVOL184■2024年6月号

人の心の奥底と同じ場所が実は家にもある。 それが押入れの奥。 そこにあるのは夢か希望か。 それともひっそり隠した思い出か? このメルマガの意外な人気シリーズ 『押入れ奥のダンボール』 6作目の今回は一体どんな…!? (´o`)п(´o`*)п(´o`*)п **************************** 夢枕ってさ、 この世じゃない系の人とかが立つものじゃん? だからダンボール箱が夢枕に立った時は変だなとは思ったけど、 "まあ夢だから何でもありか" って冷静でもあったんだ。 でもそのおかげで、 30年間会っていなかった友人をSNSで見つけた。 ただ、連絡を取ろうか迷っている。 小、中、高校まで一緒だったあいつ。 その頃の俺のたった一人の親友だったのに、 俺達はいつの間にかすれ違ってしまった。 連絡を取るという事は、あの頃の二人と、 もう一度向き合わなければならないという事だ。 話を戻そう。 夢枕のダンボール箱が気になった俺は、 押し入れの中をごそごそとかき回した。 すると一箱のダンボール箱に目が留まった。 「これ、何が入ってるんだっけか?」 蓋を開けると中には古いゲーム機とソフトが入っていた。 「あ…!こんなとこにあったんか!」 あいつ、中内悟(ナカウチサトル)との思い出が蘇った。 _________ 悟とは小学校6年で初めて同じクラスになった。 俺と悟はクラスでも1~2番目に背が低くくて、 何かと隣り同士、時々1~2番の入れ替えもあったりと、 いつも近くに居て気も合った。 そして何のきっかけだったか、マンガかアニメか、CMか? 何かの風潮に押された俺達は 「俺達さ、親友になろうぜ」 「いいね、今日から親友な」 そう、ハッキリした言葉を交わして親友になった。 中学生になると俺は野球部に、悟はサッカー部に入り、 互いの好きな女の子の話で、相談にのったりのられたり、 残念ながらその時の恋は二人とも実らなかったが、 失恋のパワーを糧に互いに励まし合って高校受験にぶつけ、 俺達は第一目標の男子校に合格した。 高校でもやっぱり俺は野球部、悟はサッカー部。 恋愛話もこの頃はかなりシフトアップされてたっけな。 たしかその頃だったっな。このゲーム機を買ったのは。 当時の大ヒット家庭用ゲーム機でそれなりに高価で、 手が届かなかった俺達は半分づつ出し合ってこのゲーム機を買った。 普段は互いの家を交互にゲーム機を行き来させて一人で楽しんだり、 時々は二人でゲームに興じたり、そんな共同所有スタイルだった。 あの出来事が起こるまでは…。 (´o`)п(´o`*)п(´o`*)п **************************** それは高校三年生になったばかりの頃。 同じ市内の女子高に通う沙央梨(サオリ)という女の子に、 俺と悟は同時に恋をしてしまった。 俺が先に彼女を好きになり、その相談を悟にしていたが、 「すまん、俺も沙央梨さんが好きになった」 と悟が打ち明けてくれた。 「そうか、正直に言ってくれてありがとう」 俺はそう返したが、それ以上の言葉が出なかった。 そこから少しづつ、俺と悟の関係は変わって行った。 一緒に過ごすことも減り、すれ違っても軽い挨拶くらい。 かといってどちらも恋を進展させず、抜け駆けもせず。 そしてその微妙な関係とも向き合えず、時間だけが流れた。 同じ女の子を好きになった。ただそれだけなのに、 二人の友情に入った罅(ヒビ)の修復さえできなかった。 そして高校卒業間近の3月、俺達は久しぶりに言葉を交わした。 「なあ、あのゲーム機、どっちかの所有にしないか?」 「そうだな、お前はどうしたい?」 「俺はどっちでも…」 そして差額を悟に渡し、ゲーム機は俺の所有物になった。 卒業後は別々の大学に進学し、更に悟は海外に留学し、 俺達はいよいよ疎遠になっていった。 俺はゲーム機をダンボール箱に入れ、押し入れの奥にしまった。 ________ そして今、箱の開封と共に30年前の思い出が蘇った。  懐かしいな、悟、元気かな…  今なら、素直に話せるかな。 そう思った俺は悟への連絡手段を思い浮かべた。 俺も悟も、互いの実家も引越していて連絡先はわからない。 共通の友人の伝手(つて)も難しいか。となると… "SNSで旧友を探す方法" っと。カチッ ヒットが膨大に出てきた。 なるほど、フェイスブックが見つけやすい、か。 俺は初めてフェイスブックアカウント開設し、 程なくして悟のアカウントが本当に見つかった。 俺は懐かしさのあまり時間を忘れて悟の投稿を読みふけった。 悟、オヤジになったな、って俺もか! すると少し前の投稿に偶然こんなものがあった。 "今リバイバルして大人気の30年前のゲーム機が ネットで20万くらいで取引されてるらしい。 でもどっか行っちゃって見当たらない。どこだっけな?" に、20万だと!! はっはっは、あるぞここに、そのゲーム機!! そう笑いながら、ふと悟の友人欄の1人に目が行った。 見覚えのある女性、名前は、中内沙央梨(サオリ)。 沙央梨…?沙央梨さんて、あの沙央梨さんか? でも名字が、中内って…中内沙央梨? 中内と結婚したのか!? 沙央梨さんの投稿を見て、二人は夫婦だと確証した。 夫婦でSNSの友達同士ってのはよくある事だが… はあ~~~、 (*´Д`)=3ハァ お前らいつの間に、どの段階で… そっかそっかそっか、あ~そ~か!! もうどうしてくれんだよ!! この懐かしさと気だるさが混じった微妙な気分をよ! 俺はそっと箱の蓋を閉じ、押し入れの元の場所に戻し、 そのままふて寝を決め込んだ。 するとその夜、また夢の中に"その"ダンボール箱が出てきた。 "またお前か!2度も出てくるなんてしつこいな、お前も" ダンボール箱に向かってそう言い放ったところで目が覚めた。 お前は一体何がしたいんだ、つっても相手はダンボール箱。 ただ、夢枕に立つ奴はたいがい、何かを伝えるために出るとも聞くし、 夢を見る人自身の心の奥底が"夢枕"という現象を生むとも聞く。 俺はダンボール箱をもう一度引っ張り出し、箱の中身を全部並べてみた。 すると、一冊の文庫本小説が混じっていた。 「30年後の俺がうるさい」とうタイトルの、 当時、悟が貸してくれたちょっとへんてこなSF小説だ。 主人公の元に30年後の主人公自身が突然やってきて やんややんやとあれこれ自分の未来の事を言うんだけど、 主人公は全くそれを聞かずに大事な物を次々と失ってしまい…みたいな感じ。 ただ俺は、まだ最後まで読んでなくて結末を知らなかった。 俺は改めてその物語を最後まで読んだ。 最終章のラスト、30年間生きた主人公自身が、 30年前の自分に会いに行くかどうかの選択に迫られ、 主人公は会いに行かない事を決断する。 そして物語の最後は主人公の言葉でこう締めくくられていた。 「どうせ30年前の俺に何言ったって聞きゃあしないよ。  それが俺って奴だ。俺って奴だったんだ。  でもそれでよかったんだ。  後悔の年月はもう戻らないけど、  もし後悔の年月を取り戻せる可能性のある唯一の方法があるとしたら、  それは今を懸命に生きる事だ」。 __________ そう言えば30年前、俺はこの小説を読みながら、 "30年後、俺や悟やこのゲーム機はどうなってるだろう?" なんて考えたりしたっけな。 で、偶然かどうか知らんけど30年経って夢枕、と。 これは俺の深層心理がそうさせたのか? それとも本当にお前のお節介なのか?ダンボール箱さんよ。 どっちにしてもだ、どっちにしてもだよ、 俺、ずっと後悔してた事に今やっと気づけたわ。 小説に倣(なら)うつもりはさらさらねえけどさ、 もう一度、俺はもう一度悟と友達になれるだろうか。 それが 今を懸命に生きる事 になる気がしたんだ。 俺は再び悟のSNSページを開き、 "そのゲーム機ならここにあるぜ" と一言だけの返信を書いて、送信した。 FIN 98-2 ┏━┳━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ┃4┃   編 集 後 記 ┗━┻━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 夢枕。 身近な感じを持つ人も居るかもしれませんし、 全く圏外の感じを持つ人も居ると思います。 あなたはどうですか? このメルマガでは時々、 "感情を持ったダンボール"を描く事がありますが、 それはつまり、 "ダンボールは人が感情を込めやすいアイテムなのではないか?" と私が思っている事の裏返しでもあったりします。 ただ双方向の意思疎通という描き方はした事がありませんが、 それはどちら視点でも構わないんです。 これを読むあなたがほっこりできたり、 ダンボールがきっかけであなたが少し元気になれたりするならば。 今号も最後までお読み下さりありがとうございました。 m(__;)m ライティング兼編集長:メリーゴーランド

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