言っちゃいなよ、職場の色!?■アースダンボールメルマガVOL183■2024年5月号-2
俺が務める会社はブラック企業。
つい最近までそれに気づけなかった。
極端な長時間労働に過剰なノルマ、
残業代や休日出勤代は一切認められず、
上司や先輩のハラスメント行為は日常風景、
コンプライアンスなんてまるで圏外、
当然のように社員は使い捨ての駒…。
ブラック企業ランキングの上位にも食い込めるかも。
俺は大学では体育会に所属していて、
身体と根性をビシバシ鍛える毎日だったし、上下関係も厳しかった。
少々の理不尽やおふざけも先輩の命令ならほぼ絶対。
よく考えれば、そもそもその部もブラックだったのかもしれない。
でも体育会系なんてそれが普通だろうと思っていてたから、
今の会社に新卒で入社してからもあまり疑問を持たなかった。
厳しいのは新人だから、苦しいのは半人前だから、
それが嫌ならひたすら頑張れ、人の何倍も頑張れ、
きっとこの経験は自分を成長させてくれるはず!!
なんて思いながら3年ほど経ったある日、
俺はこの会社が世に言うブラック企業なんだと初めて気付いた。
すみません、まだ自己紹介もしてないのにこんな話を。
俺は時田昴(ときたすばる)27歳、独身。
ブラック企業の営業職として絶賛勤務中の優秀な社畜です。
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でも、それに気が付いてからの俺は早かった。
沼の奥深くにハマって脱出不可能になる手前だった俺は
転職活動を即時に開始し、すぐに転職先も決まった。
後はこの会社をできるだけ円満に退職するだけだが、
どうせまともな退社なんて出来ないだろうと諦めている。
でも退職時期も含めてきっちり筋は通そうと思っている。
余った有給は…諦めよう。
まあそれはいい、それはいいんだ。
俺が一番気がかりなのは、一人の先輩の事だった。
会社と社員、上司と部下、先輩と後輩に同僚同士、
全ての人間関係が冷え切っていたこの会社の中で、
唯一、その先輩だけがいつも俺を気にかけてくれていた。
そんな先輩にも、転職の事はまだ話せていない。
俺が辞めたら、絶対に先輩に忙しさのしわ寄せが行く。
余計な気を持つ必要はないのかもしれないけれど、
転職の事を先輩に内緒にしてしまっていたうしろめたさや、
ほんの少し、先輩を置き去りにしてしまう様な気持ちが、
俺の心にはあった。
でも、意を決して打ち明けた俺に先輩はこう返してくれた…
「良かったな、おめでとう、本当に良かった」
俺を気遣ってくれるいつもの先輩の言葉だった。
この瞬間、俺は全てが救われたような気がした。
これで思い残す事はない、そう思ったのだけど…
「それで時田、今度の会社はその、ホワイトなのか?」
「ホワイトかどうかはわかりませんが、ここよりは」
「だな、ここから見ればどこも天国かもしれんな」
「俺、本当は先輩に何て言われるかって、ずっと不安でした」
「不安って…俺は別に、本当に良かったと思ってるよ」
「ですよね、いやちょっとでも先輩に僻(ひが)まれたりしたらと」
「ひが…、ば、ばかだな~お前は!」
「ですよね!やっと先輩に話せて良かったです!」
俺は本当に安堵した。
「ねえ先輩、先輩は、その、どうするんですか?」
「どうもこうも、俺はもう動けねえよ。女房も子供も家も、な」
「そう…ですか」
「まあそれにしても、どんな会社かってのは大事ではあるが」
「あるが?」
「ブラックとかホワイトとか、色で表現ってのも滑稽だよな」
「そうですね。職種なんかも、ホワイトとかブルーとかグリーンとか」
「並べたところで虹にもならねえのにな」
「それに人によっては、ブラックがホワイトでホワイトがブラックだったり」
「??先輩、それどういう意味ですか?」
「ホワイト企業で働くやつが、
"こんな甘い環境では自分は成長できない"って言ってみたり、
ブラック企業で働くやつが、
"この厳しい環境がサバイバルっぽくて好きだぜ"って言ってみたり」
「なるほど、マイノリティ(少数派)でしょうがそういう人も居ますよね」
とてもくだらない、本当にどうでもいいような話だけど、
やっぱり先輩に理解して貰えて本当に良かった。
「ブラックだホワイトだと言えば、時田、
最近、企業の色に新しい色が加わったの、知ってるか?」
「いや、知らなかったです。何色ですか?」
「なんだ知らないのか?なんとダンボール色だ」
「ダンボールいろ??」
「そう、ダンボール色だ」
「いわゆるクラフト色、って事ですか?」
「そう、ダンボール色、クラフト色…の企業だよ」
「へ~~~、ぜんっぜん知らなかったです。どんな企業なんですか?」
「俗にいうブラックとかホワイトとかとは、
見る角度が全く別なんだけどな。ダンボールってさ、
大体どこにでもあって、誰でも使えて、
普段何気なく使ってるけどいざ無くなるとかなり困ったり、
イベントとか災害とかだとめっちゃ役にたったり、
好きとか嫌いとか良いとか悪いとか、そういう基準以前に
多くの人の生活に根付いてて溶け込んでるっていうかさ。
ほら、ダンボールってリサイクル率高いじゃん、
だからダンボールはまたダンボールに生まれかわるじゃん、
それって人間もダンボールも嬉しいじゃん、そんな感じだろ?」
「ええ、まあそんな感じですかね」
「そんな感じの企業の事を、ダンボール色企業って言うらしい」
「"感じ" だと何だかイメージ湧きにくいですね。
一言でわかりやすく言うと、つまりどんな感じなんですか?」
「一言?、そうだな、つまり、その、なんだ、あ~~~、
必要とする人のそばにも、必要としない人のそばにも、
誰のそばにもいつも居てくれて、
時に静かに時に力強く、時に優しく寄り添ってくれている、
ああほら、クラフト色って木の色だろ、
木みたいに自然に近い感じだしアースカラーな感じだし、って事だ!!」
「な~るほど、ちょっとだけイメージ湧きました。
わかりやすくまとめても、やっぱり "感じ" はつくんですね。
ところで先輩、その色、誰が言ってたんですか?
テレビですか?雑誌とかですか?」
「どこでって…ここだよ」
先輩はゆっくりと自分の頭を指さした。
「なるほど、先輩の作り話、ですか」
「(*。_。)ウン」
「先輩、やっぱり僕の転職、僻んでるんですね?」
「(*。_。)ウン ちょっとだけ」
「ε-(;-ω-`A) フゥ 途中からそんな気がしてました」
「(*。_。)ウン …すまん」
「いえ、別にいいんですよ、そんな事は」
「(*。_。)ウン …すまん。今の話は忘れてくれ」
「いえ、忘れませんよ」
「そんなに怒ったのか?」
「そうじゃありません。
先輩の作り話、なんか的(まと)を得てたって言うか、
確かに俺もそんな風に感じます、ダンボールって。
誰のそばにもいつも居てあげられるって言うのは、
すげえ事なんじゃないですかね。だから、忘れません」
「時田…おまえ…」
「それに逆に言えば、
誰のそばにも居てあげられる企業っていう事は、
沢山の人に必要とされている企業って事じゃないですか。
ブラック企業とかホワイト企業とか活字の色の区分けじゃなくて、
"ダンボール色企業" は人の心の色って感じじゃないですか。
そんな感じの企業で働けたら、なんか嬉しいじゃないですか」
「時田…お前の転職先、そんなとこだといいな」
「はい、俺、頑張ります、先輩!!」
(俺が転職するのはアースダンボールって会社なんだが、
それは先輩にはまだ黙っておこう…
さて、アースダンボールは何色か楽しみだ。
やっぱりダンボール色なんだろうか( * ̄ ω ̄*))
FIN
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┃4┃ 編 集 後 記
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貴方が今働いている、過去に働いていた、これから働く、
企業、職場は何色ですか?
ブラックとかホワイトとか
そんな色が思い浮かぶかもしれませんし、
コーポレートカラーやメイン商品の色などが
思い浮かぶ人もいるかもしれませんね。
実は白状すると…
ダンボール色って何かにたとえられる事がほぼ無いので、
いっそ自分で作り上げてしまおうか!
という流れで執筆に至ったのが今号です。
でも執筆途中で思いました。
ダンボールは誰のそばにもいつも居てくれる、
これってまんざら言い過ぎでは無いよなあ、と。
そんな企業を "ダンボール色企業" っていうのも、
結構アリかもなあ、と。
いかがでしょうか?
今号も最後までお読み下さりありがとうございました。
m(__;)m
ライティング兼編集長:メリーゴーランド