俺はいい上司になんかなれない■アースダンボールメルマガVOL193■2024年10月号-2
なんて事を言うんだ!!
あなたはそう思うかもしれないな。
「頭が動く部分は徹底的に効率化するといい。
でも心が動いたら効率化は一切考えなくていい。」
部下にそんなアドバイスをしてしまう俺は、
いい上司とは言えないんだろうな。
(´o`)п(´o`*)п(´o`*)п
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俺は村主博一(すぐりひろかず)、30歳、一応課長。
今、1人の部下から仕事の効率について相談を受けている。
企業にとって業務の効率化は優先度が高い課題だ。
故にこの壁ににぶつかる人間も多い。
効率は高い方がいい、上げなければならない、
でも時には効率など一切考えずに、失敗も結果も恐れずに、
心の赴くままに取組む、没頭する、そんな仕事もいいもんだ。
だからもしそんな仕事を経験できるなら、
効率化へのジレンマも案外いいものかもしれないと思っている。
「課長、この部分をもっと効率化できないか悩んでまして」
「うん」
「でも、数字だけで判断できない部分も大きい気がして」
「うん」
「イマイチ方向性が決められないんです」
「なるほどな、もし俺だったら、
頭が動く部分は徹底的に効率化するといい。
心が動いたら効率化は一切考えなくていい。そう考えるかな」
「…?? よく、わかりません、特に心が動いたらって方が。
それで結果が出ますか?」
「わからん、出るかもしれないし、出ないかもしれない」
「…?? じゃあそういう風に仕事したら、どうなりますか?」
「そうだな、きっと思い出に残るよ」
「…?? で、課長、思い出に残るとどうなるんですか?」
「そうだな、思い出に残るとな…」
+..。゚+.(*´∀`).。o○( )
俺はこんな時、いつもあの出来事を思い出す。
あれは俺が小学校6年生の時、
俺は同じクラス内で仲のいい5人組の1人だった。
授業中以外は朝も昼も放課後も、何かとその5人でつるんでいた。
季節は秋、文化祭で俺のクラスは演劇をやる事になり、
俺達5人は小道具より更に小さな道具を作る "小物係" を受けもった。
ピストルや短剣など、水晶や金貨など細々した道具を作る係だった。
ある日の放課後、俺達5人は仕事を分担して作業していた。
ある程度作ると「保管用の箱が欲しいな」となり、
俺は近くのスーパーにダンボール箱を貰いに行く仕事を買って出た。
歩いて15分ほど、そんなに大きくない箱を一箱だけ、楽勝だ。
すぐにスーパーに行き、"ご自由にお持ち下さい" の中を物色し、
「キレイだし丈夫で底も抜けなさそうだし、これにすっか」
と沢山積んである箱から一つ選び、従業員の人にガムテープを借りて、
その場で底にテープを貼って箱を組み立てた。
箱はある程度の大きさだと畳んだ状態より箱にした方が実は持ちやすい。
順調順調、俺は気分良く帰路に就いた。
そして途中の緩い坂道を登って歩いている時だった。
突然、コロコロとグレープフルーツが一つ転がってきた。
俺はしゃがんでそれをパッと掴み、前方を見ると、
今度は5~6個くらいの転がってくるグレープフルーツと
「あららららら~!!」と叫びながら立っている婦人が居た。
どうやら婦人の持つ袋の底が抜けてしまったようだった。
俺は何とか全てのグレープフルーツを掴んだ。
"こんなのってマンガの世界だけかと思ったぜ"
俺は掴んだグレープフルーツを箱に入れて、すぐ近くの婦人の家まで運んであげた。
婦人は丁寧にお礼を言ってくれて、帰り際にアイスをくれた。
ま、このくらいのハプニングは人生にはつきものだ。
そう思って再び学校へ向かって歩いていると、
子犬を抱いた、同じ小学校の1年生の女の子とすれ違った。
首輪もリードも無く、その犬は女の子の抱き心地が良くないのか、
動いて暴れて今にも女の子の手から落ちそうだった。
俺はその犬を箱に入れて女の子の家まで運んであげた。
女の子の家では母親に丁寧にお礼を言われ、今度はお菓子を貰った。
今日は色々ある日だなと思いながらも、俺の気分は良かった。
ただ、二度ある事はなんとかって言葉もある…
自販機の前で運動部らしい男子高校生が一人で何やら困っていた。
体は一つなのにジュースが十数本、袋も無し、袋に代用できる上着も無し。
どうせ先輩達に使いっぱにされて何も考えずに急いで来たに違いない。
俺は持っている箱をその男子高校生にあげた。
その人は何度も頭を丁寧に下げ、ジュースを入れた箱を持って戻っていった。
"非効率にも程があるって言うか高校生にもなって頭悪くないか?
いや待て、一番の非効率は俺か?結局ダンボール一つも持って帰れないし。
でも仕方ないか、一応人助けだしな"
そう思いながら、手ぶらになった俺は一旦そのまま学校へ戻った。
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教室に着くと、作業を終えた他の4人がダラダラしながら俺を待っていた。
「おかえり!遅かったじゃん、って、箱は?」
「ごめん、実は色々あって…」
「そっか!」
軽い受け答えだけで、誰も文句も言わなかったし尋問もされなかった。
それどころか、
「じゃ、今からも一回行くか、俺も一緒に行くわ!」
と一人が言うと、
「じゃあ俺も!」「なら俺も行く!」と、
結局全員で行こうという事になった。
そう決まった瞬間も実際に取りに行く時も、さして疑問は感じなかった。
でも成長して大人になるにつれその時の事を思い出すと、
なんて非効率な事をしてたんだろう!
たった一箱のダンボールを男5人で貰いに行ったんだぜ。
暇かよ、全員どんだけ暇なんだよ!
と思ったものだ。
でもなんでだろう?なんでかわからないけど、
非効率極まりないあの時の全てを今でもはっきりと覚えている。
出発する時の教室の匂いとか、皆で道のりをダラダラ歩いた事とか、
そよ風が気持ち良かった事とか、すれ違った犬に吠えられたとか、
スーパーの人が「今度はみんなお揃いでかい?」って言ってた事とか。
恥ずかしくて誰も口にはしないけど、ただ楽しかったんだよな。
もっと皆と一緒に居たいって、心のどこかで思ってたんだよな。
その心の赴くままに動く事を、まだ許されてた時代なんだよな。
ついでに言えば、まさにスタンドバイミーだったよな
+..。゚+.(*´∀`).。o○( )
今、目の前の部下の悩み事と俺の昔話はなんの接点も無い。
効率云々のワードを耳にした俺が脊髄反射で思い出すだけだ。
変な話だ。
効率を考える時に限って非効率三昧の思い出が蘇るのだから。
でも不思議だ。こんな思い出に限ってさ…
「…?? で、課長、思い出に残るとどうなるんですか?」
「そうだな、思い出に残るとな…」
「残ると…?」
「それを思い出すと、どこからか力が湧いてくるんだよ。
だからもし心が動いたらなら効率なんて一切気にするな。
何年か経って今の事を思い出す時が来て、
ああ、あの時はめいっぱいやったな、心のままに没頭したな、
って思い出に残るようなさ。
それでもし良い結果が出なくても、その時は俺が責任を持ってやる。」
FIN
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編 集 後 記
貴方は何かに対して、
心の赴くままに行動した事はありますか?
その後の人生の中でふと、その時の事を思い出したりしませんか?
ちゃんと考えて効率的に動く事は大事です。
でも時には効率を無視する、ただ心に素直になって動く、
そんな時も必要だと私は思います。
それが集中したものであれ、ダラダラとしたものであれ。
そんな経験の方が、何故か思い出に残るような気がします。
そしてそんな思い出にこそ、支えられているような気がします。
今号も最後までお読み下さりありがとうございました。
m(__;)m
ライティング兼編集長:メリーゴーランド