~嘘でつむがれた絆~■アースダンボールメルマガVOL192■2024年10月号
嘘をつくのは何歳なっても気が引けるものです。
でも私は主人に嘘をつきました。
80歳になった今年も、去年と同じ嘘をつきました。
世の中には良い嘘と悪い嘘があるなんて聞きますけど、
どんな嘘だったとしても私がついた嘘は、
結局は自分自身の為でしかないのかもしれません。
でもきっと来年も、私は同じ嘘をつくでしょう。
(´o`)п(´o`*)п(´o`*)п
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私と主人は夫婦二人で、
梨を栽培する小さな果樹園を営んでおります。
主人も私も今年で80歳になり、
数年前から毎年、梨づくりも今年が最後かもしれないと、
そう思いながら取り組んでおります。
息子がおりますが跡は継ぎませんので、
いずれにしても私達の代で果樹園は畳もうと思っております。
毎年こうして梨を栽培して生計を立てられるのは本当に幸せな事ですし、
何より私達は梨の栽培と、美味しいと食べてくれる人の笑顔が好きです。
できれば余計な心配などせずにいつまでもこうしていたいと思いますが、
心と体がそうはさせてくれません。
主人は元々寡黙な人ですが、何も言わず何も変えず、
毎年同じように黙々と梨の栽培を続けております。
でも近年は老体に鞭打って働く主人が心配になる時もあります。
当たり前ですよね、80歳ですから。
できれば無理の無いように働いて欲しいと思う反面、
それでも楽しそうに働く主人に思う存分梨を作って貰いたいという、
矛盾した想いもあるのです。
ですのでもし主人が「そろそろ果樹園を畳もうか」と言ったなら、
私は反対は致しません。
寂しい気持ちはありますが、いつか必ずその時は来ます。
それがいつ来るかだけの事なのですから。
でも少し変な話なのですが、
最近よく、子供の頃やまだ若かった頃の自分を思い出すんです。
何もわからないただの子供の、その代わりに何も怖くもなかった、
そんな頃の自分をです。
あの頃は、何かが終わってしまうとか大切なものを失うとか、
そんな事は考えもしませんでしたし想像すらもできませんでした。
親の小言も右から左に流れて、全く心にとどめてはいませんでした。
でも少しづつ年を重ねるにつれ、
ああ、あの時、あの人が言っていたのはこういう事か、
あの時、想像もできなかった事の真実はこういうものなのか、
と思う事が多くなりました。
あらがえない物事を一つ一つ経験する度に、
人生には受け入れざるを得ない事が沢山あるのだと、
思い知らされながら生きるようになりました。
ただ、この年になって沢山の物事の終焉を見て来たはずなのに、
いつかは終わるとわかっているはずなのに、
私はどうしても怖いのです、どうしても受け入れるのが嫌なのです。
主人と一緒に続けてきた梨づくりを終えるのが。
今の若い人には、生きがいと言えば軽く聞こえるかもしれませんが、
今の私にはハッキリと申し上げる事ができます。
主人との梨づくりは今の私の生きがいです。
だから毎年、今年が最後かと思いながらも、
来年も、再来年も続けたい、その想いがいつも隣にあるのです。
きっと主人も同じ気持ちでいてくれていると思うのですが、
いいえ、同じ気持ちでいて欲しいと思うのですが、
主人の体を思うと、それを私の口から言い出す事はどうしてもできません。
だから私は嘘をつきました。
主人からそれを聞きたくて、
主人にそれを言って欲しくて。
毎年、同じ嘘をつくようになりました。
「今年も梨の出荷用のダンボール箱を注文しないとな」
「そうですね、じゃあいつもの業者さんに注文しますね」
そして届いたダンボール箱を見て、主人と私はこう言い合うのです。
「ダンボール箱、これじゃ多いんじゃないか?」
「あら、注文の数を間違えてしまったみたい」
「そっか、それじゃしょうがないな」
「ごめんなさいね」
「いや、箱が余ったらまた来年使えばいいさ」
「そうですね、また来年、使いましょう」
あんた、ありがとうね。
私がついた嘘を、ついていない事にしてくれて。
FIN
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あ と が き
続けていきたいのに、
理由があってどうしても続ける事が出来ない。
そんな経験をした方も沢山いらっしゃることでしょう。
私にもあります。
アースダンボールでの仕事でもそのような方に出会います。
長年お付き合い頂いたお客様がご商売を畳む事になり、
だからダンボールの発注はこれが最後、
今までありがとうございました、と。
寂しいですが、いつまでもそう言ってはいられません。
前を向いて、前に進まなくてはなりません。
沢山のお客様が弊社のダンボールを待ってるんですから。
今号も最後までお読み下さりありがとうございました。
m(__;)m
ライティング兼編集長:メリーゴーランド