花子さんと呼ばれたダンボール箱■アースダンボールメルマガVOL191■2024年9月号-2
学校の七不思議があるように、
会社にも七不思議があるんですよ。
僕も最初は信じられなかったけど、
いざ目の前にすると受け入れざるを得なくなる。
そう、七不思議の一つがうちの会社にある。
これは僕が新入社員時代に体験した、
中に入れたもの同士を融合させてしまう、
とあるダンボール箱のお話です。
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僕は渡嘉敷礼二(とかしきれいじ)、新入社員一年目のある日、
その日は朝からオフィスに怒号が飛び交っていた。
僕の先輩の男性社員二人が言い争っているのだ。
もちろん仕事上の言い争いだが、その日は常軌を逸していた。
「お前の計画は突飛すぎる!!もっときちっと裏付けをだな!!」
「お前の計画こそ精細過ぎだ!!インパクトも大胆さもない!!」
二人は今度請け負う一大プロジェクトチームの一員同士。
僕が言うのもなんだが二人ともかなり優秀な人だ。
確かにライバル同士だけど感情で相手を責める様な人達じゃない。
二人ともプロジェクトを成功させたいが故のヒートアップだ。
何か本当にちょっとした事が積み重なってしまったのだろう。
その様子を見て、遂にプロジェクトリーダーの部長が動いた。
「二人ともそこまでだ。一旦落ち着け。
俺の一存だがこの件は花子さんに任せる。いいな、二人とも」
「部長がそう言うならいいですけど、俺の意見は変わりませんよ!」
「俺もいいですけど、俺だって譲歩できませんからね!!」
(ちょっと待って…花子さん?いま花子さんって言った?)
「じゃあすまないが、誰か花子さんを持ってきてくれるか?」
「承知しました、部長」
そう言うと一人の女性スタッフがどこからかダンボール箱を持ってきた。
「部長、花子さん、お持ちしました」
「ありがとう」
(え、なに?花子さんって、ダンボール箱の名前?)
「じゃあ二人とも持ってる企画書を花子さんに入れて今日は終了だ。
一旦この件は置いて今日は他の仕事をやってくれ」
二人は解散し、花子さんは部長デスク脇に置かれ、その日は終わった。
そして翌朝、僕は七不思議の一つを初めて目の当たりにした。
昨日まであれだけ言い合っていた二人が…
「昨日はすまん、よく考えたらお前の言う事は正しいと思ったよ」
「俺こそすまん、お前のいう事も筋が通ってると思ったよ」
「OK!じゃあ二人とも互いの意見を合わせながら再構築でいいな」
「はい!部長!」
「了解です、部長!」
昨日の雰囲気とはうって変わって、雨降った地が強固に固まった。
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いやちょっと待って、これって、
一晩経って二人が普通にクールダウンしただけだよねえ…
そう思っているのはどうやら新人の僕だけのようだった。
花子さんはもうかれこれ15年くらいこの会社に"在籍"しているらしい。
反発しあう意見や物事、時には勢力など、互いの象徴する品物を、
花子さんに入れて一晩経つと、何故か見事に融合させてしまう。
それが今では当たり前になり過ぎて"見事"という表現すら誰も使わない。
そして今まで花子さんが融合させた案件は数知れずらしい…
聞くところによると、と言っても全てがあやふやだけど、
誰かがある時、たまたま反発しあうものを1箱のダンボールに入れたら、
たまたま上手くいって、試しにやった次の人も偶然上手くいって、
それがどんどん積み重なって気づけば勝率は100%で、
誰が呼んだかいつしか付いた名前は"ダンボール箱の花子さん"。
一説によると、ある時ダンボールを大量に誤発注してしまい、
全て使われずに廃棄されてしまったが奇跡的に1箱だけ生き残り、
それに感謝した箱が会社の為にこの能力を発揮し始めたとか、
この会社の創業者の残留思念がダンボール箱に乗り移って、
今も会社を見守るように働いてくれているに違いないとか、
尾ひれがどんどんついて、もう話の原型を想像する事すら困難な程、
"当たり前伝説"としてこの会社に根付いている。
そして会社の皆がこの伝説じみた話と花子さんを大事にしている。
こんな面白い話もある。
この能力を悪用する奴も過去にやっぱり何人かいて、
例えば片思いが両想いになれるんじゃないか的なものから、
仕事上どう考えても合わない者同士を強引に結び付けて、
そのプロジェクトを破綻させてしまおうと画策するものなどだ。
でも花子さんにはまるで意思があるかのように、
私利私欲の為だったり悪意を持って使おうとする者は、
必ずしっぺ返しらしきもの、と言っても何もない所で不意に転ぶとか、
データ入力を間違えて危うくクライアントを怒らせそうになるとか、
偶然かもしれないがそんな目にあうというのだ。
そんな逸話も花子さん伝説を強く根付かせている理由の一旦だ。
そんな花子さん、普段は倉庫のCエリア12番棚に居る。
何故かここが花子さんの"お気に入り"の場所らしい。
無理にここから動かそうとするとやっぱりしっぺ返しがあり、
だから仕事後はちゃんとそこに戻され、誰も無意味に持ち出さない。
そして僕も徐々に他の社員と同じように花子さんを自然と身近に感じ、
いつしか僕の中から"伝説"という表現すら無くなっていった。
花子さんは問題解決能力の高い優秀なスタッフ。
まさにそんな存在だ。
でも、そんな花子さん伝説は突然の終わりを迎えた。
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その日、社長自らが花子さん運用の終了を社員全員に説明した。
「今日は皆さんに大事なお知らせをします。
長年に渡って続けて来た花子さんの運用を廃止します。
これは私自身が考えに考え、悩みに悩んだ結果です。
ここ数週間、私達にとって花子さんとは何なのかと、
できる限り俯瞰(ふかん)し、感情を抜きに考えました。
花子さんは私達の仕事に大きく貢献してくれました。
偶然であれ、本当であれ、プラシーボ効果であれ、これは事実です。
しかし私は経営者として、この会社を守る立場として、
どうしても必要だと思う事を、優先する事に決めました。
それは…
どうしても解決が困難な時、最後の最後の難しい決断の時、
自分自身でそれを行う事です。
自ら大事な決断の為に悩み考える事を放棄しない事です。
今まで沢山、花子さんにそれをやって貰ってしまいました。
今日からまた、頑張って自分自身でそれらを行っていきましょう」
誰も反対はしなかった。
でもそれは社長の言葉だからじゃなかった。
本当はみんな、心のどこかではそれをわかっていたからだ。
それから数日後、
花子さんは会社全体の儀として大事に葬られた。
でもその伝説の終焉はこの会社に新たな種も残した。
誰が何を言い始めたでもなく、
社内のあらゆる資材を大事にしようという風潮が生まれた。
まるで資材の一つ一つにも魂が宿っているかのように、
あらゆるものを大事に扱う会社になった。
何時しかその姿勢はクライアントや世間にも受け入れられ、
社の象徴的な社風の一つにもなり、
多くの人に計り知れない程の信頼を頂ける会社になった。
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それから20年が経ち、僕もそれなりの立場になった。
今では花子さんを知っている社員も数える程になったが、
あの時、社長がとった決断の意味と、
花子さんがこの会社にくれた社風は、
今もしっかりと受け継がれている。
そうそう、これも七不思議、都市伝説の一旦だけど、
花子さんは1つの社での役目を終えると、
また別の社に現れるらしい。そしてまた役目を終え、また現れ。
そんな噂も聞いた事があるが、あれ以来、花子さんの話を聞いた事はない。
今もどこかの社で、社の人達の為に働いているのだろうか。
FIN
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あ と が き
もしかしたら花子さんは、
一般的に言う "ジンクス" に近い存在なのかもしれません。
誰しも苦しい時や困難な壁にぶち当たった時、
自分の魂の一端を何かに委ねたくなる時もありますよね。
ジンクスではなくとも、
大切な人から貰った大切なものがお守りになったり、
物理的なものを介在させて誰かの心と繋がりたくなったり、
そして自分の心が強くなったり、そんな経験もありますよね。
ダンボールはどこまでもただダンボールですが、
貴方が何か困難な決断に直面した時、
少しでも貴方の背中を後押しできるようなものが、
うちのダンボールだったらいいな、とか思います。
今号も最後までお読み下さりありがとうございました。
m(__;)m
ライティング兼編集長:メリーゴーランド